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放課後、飛べない天使と屋上で。  作者: めしあん


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10   『好奇心』

 自由になった彼女は、なぜか僕にずっとついてくることにしたようだ。

 足枷がなくなったらここからいなくなるんじゃないかと思っていた僕からすればとんだ拍子抜けだ。



「ここがシュンのおうち?」


 そして彼女はなぜか僕の家にまでついてきている。


「そうだけど、ほんとに僕の家で過ごすつもり?」


 僕がいぶかしげな顔で聞くと、彼女はいたずらっぽい顔で笑った。


「なに?なんか見られたらまずいものでもあるの?」」


「いや!別にそういうわけじゃなくて・・・」


 とはいえ、自分の部屋に女の子を呼んだことなんてない。それに、部屋も散らかっているので、彼女にはしばらく部屋の外の廊下で待っていてもらって、部屋を片付けた。彼女はその間に僕の家の中を色々見て回っていたようだが、まあそれはいいだろう。どうせほかの家族には彼女は見えないのだから。


 彼女は僕の部屋に入ってくると、ぐるっと一周見渡した。僕の部屋にはベットと勉強机、それに本棚とクローゼットくらいしかない。それらが入るともうほとんどスペースがないくらい狭い部屋だ。


「いい部屋じゃん!あ!絵、飾ってくれてるんだ!」


 彼女は以前僕が持ち帰った絵を見つけて、嬉しそうに見つめた。


「うん、なんとか部屋には入ったから。せっかくだし飾らせてもらってるんだ。」


「そっかあ~、良かった。」


 彼女は満足そうにうんうんとうなずいた。



 それから彼女は、まるで自分の部屋であるかのように僕の部屋の漫画を読んだり、ゲームをしたりしていた。


「部屋でこうやって遊ぶの憧れてたんだ!」


 なんて言われてしまっては止める気持ちにはなれなかった。


 昨日まで、こうやって彼女が歩き回っている姿を想像さえしていなかったのでとても不思議な気分だ。それでも、いつも以上に彼女が楽しそうにしていたのでこれで良かったのだと思えた。


 日が暮れて、夜になると彼女は家に泊まると言い出して譲らなかったので、僕は観念して好きにさせることにした。

 いままでは屋上で一人で星を眺めて過ごしていたらしく、屋内で夜を過ごすのはとても久しぶりらしい。下の階からこっそり毛布を一枚とってきて、僕は椅子で寝ることにした。布団で寝るのは久ぶりだと、彼女は喜んでいた。

 部屋に彼女がいることに、心がざわつかないわけではなかったが、彼女はもうすでにこの世にいないことを思うとそういう気持ちも失せてしまった。


 寝る前に少し彼女と言葉を交わして、それから少し頭の位置の定まらない椅子で僕は眠りについた。



 ~~~



 翌朝、首に違和感を感じながら目を覚ました。そうだ、昨日は椅子の上で眠っていたんだ。

 体を起こしてベットの方を見ると彼女はまだ眠っていた。すうすうと寝息を立てている彼女を見る。長いまつ毛に差した朝日がキラキラと輝いている。こうやって見ると全く現実味のない状況だ。真っ白な天使が僕のベットで寝ているなんて、誰かに言ったら病院へ連れていかれそうだ。

 しばらく彼女の方を見つめていると、彼女が目を覚ました。うっすらと目を開けてこちらに気が付いたようだ。目をこすりながらあくびをする。


「ふぁあ~。おはよう、シュン。」


 寝ぼけた顔で彼女が挨拶をした。


「おはよう。・・・僕、顔洗ってくるね。なんか飲み物とか飲む?必要ないかもしれないけど・・・」


「あ!じゃあ私麦茶飲みたい!」


「わかった。持ってくるね。」


 なんだか、こういう会話って付き合ってる人がするみたいなやつじゃないか?というか、成り行きで連れてきてしまったけど、女の子が家にいる状況って、どういう状況なんだ。キッチンへの階段を降りながらにやけそうになる口元を手で押さえる。

 キッチンには誰もいなかったので、コップ二つに麦茶をそそいで、ついでに母親が朝ご飯用にとおいておいてくれている菓子パンを一個持って部屋へ戻った。うちの両親は共働きなので、家には僕一人のことも多い。

 二階に戻って部屋のドアを開けると、彼女はベットの端に腰掛けて窓の外を見ていた。


「はい、お茶持ってきたよ。」


「あ、ありがとう。」


 彼女は足をパタパタさせながら冷えた麦茶を一口飲む。

 さっきまで晴れていた空は一瞬のうちに曇ってしまっていた。昨日の予報ではこの後雨が降るらしいし、今日はあまり外に出ないほうがいいだろうか。


「朝ご飯はいつもそれ食べてるの?」


 彼女が僕の手にある菓子パンを指さしながら聞いた。


「ああ、うん。母さんは朝あんまり時間ないから、パンを置いといてくれるんだ。学校ある日はお弁当を作って一緒にしてくれてる。」


「へえ~、お母さん、優しいんだね。」


 彼女が優しそうに微笑むので、僕もつられて笑ってしまった。


「そうだね、忙しいのに、よく僕のことに気を使ってくれてるよ。」


 彼女の言う通り、母は優しい。僕の家は一人っ子で、子供は僕だけだ。僕が生まれた時に育休を取り、僕が幼いうちから仕事に復帰した。仕事と育児で忙しい中、いつも僕のことを考えてくれてくれている。


「ふふ、そっか。」


 彼女は窓の外をそっと見た。


「今日は雨になりそうだし、シュンの部屋のもの見てもいい?見せられる範囲でいいからさ。」


 まあ、彼女は無理やり部屋のものをひっくり返すようなことはしないだろうし、見せられる範囲ならいいか。


「うん、いいよ。って言っても大したものないけどね。」


「そう?じゃあ、あっちのタンスからみてみてもいい?」


 彼女が僕の部屋にあるクローゼットを指さして言った。


「いいよ。ほんとに何もないけどね。」


 彼女はなんにでも好奇心旺盛だな、なんて思いながら、僕は自分のクローゼットのほうに向かった。

 今思い返すと不思議な成り行きだったが、こうして僕の部屋のルームツアーが始まった。

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