第五章:屋台の店主
嵐山 元は、長年にわたり焼きそばの屋台を営んできた。花火大会のたびに店を出し、数え切れないほどの花火を見てきたが、最近の花火には何か物足りなさを感じていた。
「昔の花火はもっと迫力があった気がするなぁ」と、元は独り言を漏らす。しかし、それが本当に花火自体の問題なのか、自分の感じ方が変わっただけなのか、はっきりとは分からなかった。
屋台の前を通り過ぎる客たちの表情を観察するのが、元の密かな楽しみだった。昔は、花火に目を輝かせる子供たちや、浴衣姿で楽しそうに歩く若者たちが多かった。しかし、最近はスマートフォンを見ながら歩く人や、無表情で通り過ぎる人が増えたように感じる。
「純粋に花火を楽しみに来ている人は、どれだけいるんだろうか」と、元は考える。自分にとっての花火は、客たちの笑顔や笑い声、そして遠くから聞こえる花火の音、微かに見える光の輝きだったことに気づく。
「最近の花火が物足りないと感じるのは、客の表情が変わったからかもしれないな」と、元は思った。
その夜、ふとした瞬間、元は遠くに打ち上がる大きな柳花火を目にした。空に広がる光のしだれに、一瞬、心が揺さぶられた。
「まだ、こんな感動が残っていたんだな」と、元は微笑んだ。
そして、焼きそばを買いに来た子供に、「おまけだよ」と言って、少し多めに焼きそばを盛り付けた。子供の笑顔を見て、元の心も少しだけ温かくなった。
「やっぱり、花火大会ってのは、いいもんだな」と、元は心の中でつぶやいた。




