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3章 雫

1. 花火大会前日


「明日、七時に大城駅集合ね。楽しみにしてるね」


ベッドに寝転がりながら、雫はスマホをいじる。

LINEの画面には、彼氏の健太との会話が並んでいる。


「分かった」


健太の返信は、相変わらずそっけない。

それを見て、雫は小さく息を吐いた。


——楽しみ? いや、どうでもいいかな。


最近は会っても、友達みたいな感じだし。

最後にセックスしたの、いつだっけ?


雫はスマホをベッドの横に放り投げ、天井を見上げた。

明日の服、適当に選んでおけばいいか。

化粧も最低限でいいな。


期待しないでおけば、がっかりもしない。

最近の雫は、そんな風に物事を処理していた。


2. 当日朝


昼過ぎ、目が覚めるとスマホに通知が来ていた。


「ごめん、今日の花火行けなくなった」


健太からのメッセージだった。


雫は「あ、そう」と心の中でつぶやきながら、適当に「分かった」と返す。


——別にいいや。


むしろ、予定がなくなってラッキーかも。

溜まってたドラマでも一気見しようかな。


雫はカーテンを開け、ぼんやりと外を見た。

いつもの街、いつもの空。


変わり映えのしない景色に、特に何も思わない。


3. 突然の別れ


夜、七時半。


部屋でぼんやりしていると、遠くから花火の音が聞こえてきた。


「……あ、そっか。今日、花火大会だったんだ」


スマホを手に取り、窓を開ける。


遠くの空に、小さな光が見えた。

でも、特に感情は湧いてこない。


その時、健太からLINEが届いた。


「ごめん、別れよう」


雫は画面を眺める。


ショック? いや、そうでもない。

悲しい? それも違う。


——じゃあ、この感情は何?


理解できないまま、スマホを閉じる。


こういう時、普通の女の子ならどうするんだろう?

泣いたり、怒ったりするのかな。


でも、雫はどちらの感情も湧かなかった。


「……散歩でもしよう」


この感情がどんなものなのか、探しに行きたくなった。


4. 感情の景色


夜の街を歩く。


街灯の光。いつもと同じ。

車のライト。いつもと同じ。

道端の花。暗くてよく見えないけど、たぶん同じ。

すれ違うカップル。普通。


だけど——


普段は誰も気にしない、街灯の下で笑っている若い子たちが、なんとなく嫌だった。


別に羨ましいわけじゃない。

ただ、彼らの無邪気さが、自分とは遠い存在に思えた。


——なんか、ズレてる。


雫はゆっくりと深呼吸をした。


「……もう少し歩こう」


5. 大柳と私


いつの間にか、花火大会の会場近くまで来ていた。


「……あれ?」


さっきから、花火の音がしない。


しばらく待っていると、静寂を破るように、大きな音が響いた。


——ドンッ!


夜空に、大きな大柳が咲く。


雫はスマホを取り出し、カメラを向けた。

画面越しに見た大柳は、ただただ眩しかった。


「綺麗だけど……私には明るすぎるな」


花火の色は、他の人にはどう見えているんだろう?


自分の感情を映すような花火を、雫はまだ見つけられなかった。


——もう、帰ろう。


6. 感情の色を見つけた夜


部屋に戻り、健太のメッセージがまだ未読のままなのを思い出す。


「ごめん、別れよう」


……別れてもいいけど、どう返事しよう?

「いいよ」ってすぐに返すのも、なんか違う。


悩みながら、さっき撮った大柳の写真を開いた。


「やっぱり明るいな……でも、なんか近いんだけど」


ふと、写真の編集機能を開く。


コントラストを下げる。違う。

白黒にする。これも違う。

トーンをマイナスにする。少し近い。


——ビンテージ加工。


指が止まる。


画面の中の大柳が、ほんの少し色褪せた。

眩しすぎた光が柔らかくなり、遠い記憶みたいな雰囲気になった。


——ああ、これだ。これなら、私の気持ちに合う。


胸の奥のざわつきが、すっと落ち着く。


雫はそのまま、写真をスマホの待ち受けにした。


そして、健太のLINEを開く。


「別れたくない」


そう打って、送信する。


……数秒後、健太のアイコンを長押しし、ブロックして削除した。


雫はスマホを置き、待ち受けの写真をぼんやりと見つめる。


夜空に咲いた、大柳の花火。


だけどそれは、彼女にとって「ビンテージ色の花火」だった。


——これが、私の感情の色。


雫は、小さく微笑んだ。



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