少年が消えるお話
幼めの少年だと思います。
――時は大正。日本が近代へと変貌を遂げる中、時代においていかれた怪異たちは少しづつだが確実になりを潜めっていった。
◆◇◆◇◆
騒がしい街の中、仲の良さそうな兄弟が歩いている。
「兄様、ぼく猫さんのぬいぐるみがほしいのです」
「零、そういった物を買うとおとうさまに叱られてしまいますよ」
「でも、」
「実は兄様、たくさん猫さんがいる通りを知っているんです。秘密ですよ」
「はい!」
少年の顔には花が咲き、兄も嬉しそうに笑った。
――さあ、狩りの時間だにょ。
◆◇◆
我々、怪異たちの世界には人間が必須にょ。
畏怖の対象としてこの世に存在している我らには、怖がらせる対象が必要なのだ。
幼子、大人、何でも良いが恐怖の感情を持ちやすい者が良いなぁ。
特に、繊細な者が良い。
小動物などに愛情を持つあやつはぴったりにょ。
◆◇◆◇◆
「いいですね、優しく撫でてあげるんですよ」
「猫さん!」
ぼくが猫さんに夢中になっていると、なぜか兄様のお顔がすぐれなくなった。
「あれ?兄様なんだか怖いお顔」
「もう帰りましょうか」
兄様はなぜかいつもよりちょっと低いお声でそういった。
「カランカラン」
もふもふの心の音が聞こえてくる。無意識に瞳孔が開く。
かわいい!!
ぼくはこうして運命の猫さんに出会った。
ただし、ふつうの猫さんとは少し違う。毛玉に耳が生えたような猫さんだったけれど。
◆◇◆
「零!!どこに行ってしまったんだ!?」
兄様の呼ぶ声が聞こえる。
「猫さん?」
少し心配になった。
「大丈夫にょ!」
「カラン カラン」
猫さんは鈴を鳴らした。
まばゆい光が僕達を照らした。
僕は意識の糸を手放した。
◆◇◆◇◆
――零、兄様はあのときのことをを後悔してやまないのです。もうこの手で、あなたのの小さな手のひらは掴めないのですか。
猫さんかわいい。