葦の君 (リード)
青年は肩と腕に傷があった。
矢で射られた傷らしい。
そして足を骨折していた。足に添え木が当てられ、暫くは安静だと言われた。
意識不明から目覚めた青年は見る見るうちに回復した。しかしまだ歩く事は出来なかった。
名前を思い出せない青年はリードと呼ばれた。
リードの腕には黄金の髪が数本巻き付いてあった。
その一本を指で摘まんで引き抜く。
手で切ろうとしたら手が切れて血が流れた。
驚いた。
手が血だらけになって慌てたデイジーが急いで手当をしてくれた。
ビルが言った。
「あなたが意識不明だった時にこれは何だろうと思って、それを一本引き抜いて切ってみたのです。今のあなたと同じ、手が切れました。ナイフで切ろうとしたら切れませんでした。それどころかナイフの刃が駄目になりました。それは髪の毛ですよね? 何で出来ているのか分かりませんが不思議な髪の毛です。まるでウルティムス鋼の様に固い」
リードはどうしてそんな不思議な物が自分の腕に巻き付いているのか分からなかった。
首にはネックレスが掛かっていた。チェーンの先には細い指輪があった。金の指輪。
リードはそれをつくづく眺める。
指輪には百合の花が彫られて水色の小さな宝石が水の雫みたいに乗っている。
「これは素晴らしい。これは大変高価な物です」
ビルは言った。
指輪の内側には「サリー」という文字が彫られてあった。
「恋人の指輪かしら?」
デイジーは言った。
「それともお母様の物?」
「さあ?」
「でも、首に掛けてあるという事はすごく大切な人の物なのよ」
デイジーは言う。
「何でそんなものが掛けてあるのか? この、サリーさんはもう死んでしまったのかな?」
リードは首を傾げる。
「死んでしまった恋人の物をずっと大切にしているって言う事? 引くわー」
デイジーはそう言って大きな声で笑った。
リードはデイジーを見て少し傷付いた顔をした。そして黙り込んだ。
「……御免なさい。ちょっとふざけただけなの。きっとリードにとって凄く大切な人だったのよ」
デイジーはしょんぼりした顔で言った。
「大丈夫だよ。今、少し、思い出し掛けたんだ」
そう言ってリードはデイジーの頭を撫でた。
大きくて綺麗な手。
デイジーはリードの手がとても好きだった。
リードはとても素敵な青年だった。背が高くてスマートで優しくて。
端正でクールな雰囲気なのに笑顔がとってもチャーミングだった。
佇まいが落ち着いて気品がある。声もめっちゃイケボ。
彼に甘い言葉を囁かれたら……デイジーはそれを想像してうっとりとした。
◇◇◇
起き上がる事が出来る様になり、リードは松葉杖を使って少しずつ歩く練習をした。
リードが外を歩く時には必ずデイジーが付き添った。
ある日、石に杖を取られたリードが転びそうになりデイジーは慌てて支えた。
一緒になって倒れたリードが慌てて「大丈夫か。デイジー」と言いながら立ち上がろうとすると、デイジーはその体をぎゅっと抱き締めた。
「リード。ほんのちょっとだけこのままでいて頂戴」
デイジーはリードの胸に顔を埋めて言った。
「あなたの足が良くなったら、あなたはどこかへ行ってしまうのね」
「……済まない。デイジー。でも、俺は何か大切な事を忘れているみたいですごく不安なんだ。落ち着かない。早く何かをしなくちゃならないと感じているのに、それが何だか分からないんだ」
「分かっているわ。だから今だけ、こうやって少しだけ私を抱き締めて」
「……」
リードはデイジーの背中に腕を回すと黙ったまま抱き締めた。
デイジーはこのままずっとリードが家にいてくれればいいと思った。
誰も迎えに来て欲しくない。




