ミアとハアロ
「将軍。少しお話がありますの」
ある夜の事、ミアは部屋で寛いでいるハアロに声を掛けた。
「何だって? ルシールが死んだ?」
ハアロは驚いた。
「いつ?」
「1か月程前で御座います。お話しなければと思いながらも、将軍もお忙しいご様子だったので。中々お話する事も出来ずにいました」
「それで?」
「全て私が後始末を致しました。ルシールは火葬になりました。骨はそちらへ納めて参りました」
「そちらとは?」
「レノン湖です」
「レノン湖? ルシールはレノン湖におったのか?」
「はい。別荘に」
「ん? 待て。……では、借り受けた貴族の別荘にいたのはルシールなのか?」
「はい」
「療養施設では無くて?」
「……」
ミアはじっとハアロの顔を見る。
「将軍、今から私が話す事は二人だけの秘密です。将軍はきっとお信じになられないでしょう。私の頭がおかしくなったと思われるでしょう」
ミアはごくりと唾を飲む。
そして思い切る様に言った。
「リエッサは物忘れの病気ではありません。知らないのです。重臣の顔と名前も知らないのです。何故ならリエッサの中にいるのがルシールだからです」
「将軍。ルシールの老いた体の中にいたのがリエッサだったのです。リエッサはルシールに体を奪われた挙句、私の用意した隠れ家を嗅ぎ付けたルシールに家ごと焼かれてしまったのです! 何でルシールが別荘を嗅ぎ付けたのか……」
ミアの目から涙がぽろぽろと落ちて行った。
「馬鹿者!!」
突然、ハアロはミアを怒鳴り付けた。
「いい加減にしろ! 頭がおかしいのは一人で十分だ。リエッサがおかしいのはお前のせいだ! つまらん事を言いおって! お前までルシールに誑かされたのか!! いい加減にしてくれ。二度と言うな。そんな事を言ったらリエッサは魔女だと言う事になってしまう! 魔女などおらん! 世迷言もいい加減にせい!!」
「いいか?二度と言うんじゃない。儂の家では嫁と娘、二人も頭がおかしくなったと皆に思われる!」
「将軍! 将軍がレノン湖の別荘の事をリエッサに話したのですね!」
「ミアがレノン湖に別荘を借りたから行って見ないかとリエッサを誘っただけじゃ! リエッサはその時乗馬など二度とやらんと儂に言ったのじゃ!二度と誘ってくれるなと言ったのじゃ!」
「将軍! あんなに乗馬の好きだったリエッサがそんな事を言うと思いますか? いいですか? 今のリエッサは馬に乗れないのです。何故ならルシールは乗馬なんかやった事が無いからです! ルシールの体に移されたリエッサが言っていました。剣を持たせてみればいいと。今のリエッサは馬には乗れないし剣も振るえないはずと……リエッサはもう死んでしまいました。別荘ごと焼かれたのです。ルシールが放火したのです。リエッサの世話をしてくれた一家は毒殺され……」
ミアは泣きながら話を繰り返す。
ハアロは額に青筋を立てた。
「ええい! うるさい! 世迷言を申すな! お前こそ頭を見て貰え!」
と怒鳴ると部屋を出て行ってしまった。
「将軍……」
ミアはハアロを見送りながら、ああ、やはり信じては貰えなかったと絶望したのであった。




