フロレス武官 4
ジョージが馬車に乗って屋敷に戻ろうと思ったら、フロレス武官がやって来た。
やたら清々しい顔をしていた。
「閣下。ご相談が御座います。お帰りの所、申し訳が御座いませんが、暫くお時間を頂けませんでしょうか?」
そう言ったので「馬車の中で話を聞く」と返した。
「側近をクビになった?」
「はい。王宮も去ると言って参りました」
「まさか!」
「もう荷物も引き払って、近くの宿屋へ運び入れました。元々大した物は無かったので」
「冗談では?」
「いえ、王妃直々にクビだと仰せになりました。次の側近はクリス近衛兵だそうです」
フロレス武官はにこにことしている。
「クリス?」
「ポピー男爵家の次男坊です」
「ポピー男爵? ポピー男爵なんていたか?」
「私も良く知りません。でも、2か月後にレオナルド・パンジー男爵と、あ、そのクリスの『はとこのいとこ』だそうですが、婚約発表をして、その後、盛大な婚約披露パーティーだそうです」
「ええっ?」
ジョージは目を丸くした。
「その1か月後、完成した夏離宮で結婚式だそうです。閣下。真冬ですよ?」
「3か月後にはまだ夏離宮は完成していない」
「職人も費用もブラックフォレスト王国に負担させる積りです。否と言ったら海軍を差し向けると」
「呆れたものだ。馬鹿馬鹿しくて真面目に聞く気がせんな」
「明日の朝議に出るかも知れません」
フロレスは言った。
「速攻却下だ」
「ところでその『いとこのはとこ』であるレオナルド・パンジーとは」
「閣下。『はとこのいとこ』です」
「……」
「うむ。……どちらにしろ、そのお花畑な一族を早速調べなくては。……やれやれ、リエッサ王妃は我々を過労死させるお積りなのか? 仕事ばかりが増える。……それでどうしてフロレス武官はそれを私に」
「閣下。私はもう武官では有りません。私は王宮と決別して参りました。実は次の就職先として、是非ルイス・アクレナイト侯にお仕え致したいと思いまして、こうやって閣下にご相談をしておる次第で御座います。どうぞ宜しくお引き立ての程を」
フロレスは深々と頭を下げた。
ジョージはまたまた驚いた。
「……だが、ルイスは今、家にはいない。仕事で外に出ている」
「では、お帰りになるまで閣下のご領地でもお屋敷でもどこでも構いません。私を雇ってください。何でもやります。庭男でも衛兵でも」
フロレスの言葉にジョージはふうっと息を吐いた。
暫し考える。
フロレス武官はにこにこしながらジョージを見ている。
その笑顔が不思議だった。
「何でそんなに嬉しそうなんだ?」
「スズメバチにはもううんざりなんです。関係が切れたと思うと嬉しくて嬉しくて……」
「……」
「閣下。私はルイス・アクレナイト侯に惚れ込んだのであります! あの方ならこの国をきっといい国にしてくださると確信しておるのです。是非、そのお手伝いをさせてください」
フロレスは言った。
先日、ブラックフォレスト王国からモーレイ司令官がやって来た。
そして先頃フロレス武官がやって来て、リエッサ王妃の伝言だと言って、かくかくしかじかの事を言ったと伝えた。
その時は驚いたが、こう何度も言われると、「ブラックフオレストに攻め入る」も段々慣れっこになってしまう。
モーレイはダンテ王の親書も持って来た。
ダンテ王へ返信を書いた。
モーレイには「ブラックフォレスト王国侵攻は絶対に有り得無いし、それよりもここの王宮を攻撃するかも知れんから、その時は助けてくれと言っておいてくれ」と伝えた。
モーレイは「シャーク宰相にも伝えて置きます」と言った。
「フロレス武官と言うのは中々誠実な男らしいです。苦渋を滲ませながらリエッサの意向を我等に伝えていました。あれは中々見どころがある男です」とモーレイは言った。
「シンシノア・シャーク殿とシンジノア・アクレナイト殿が同じなのかと疑問を抱いておりましたが、サツキナ姫がアクレナイト家の立場を心配して王妃には何も言ってくれるなとお願いしてくれました。それを飲んでくれました」
「涙を流しながらシンジノア様とサツキナ様のご婚約を喜んでくれたと言っていました。何か、心に抱える物があったのかも知れません……」
それは過度なストレスだったのだろう……。
ジョージは笑顔のフロレスを見て思った。すっかり突き抜けてしまった感がある。
「君、夕飯はまだだろう?」
「はい」
「では夕飯を家で一緒に食べるか?」
フロレス武官の顔がぱあっと明るくなった。
「宜しいのですか?」
「ああ」
「ところでフロレス武官。さっきの話だが暫く我が家で仕事をして過ごしてもいいぞ。ルイスが戻るまで」
「本当ですか!」
「ああ」
「閣下。有難う御座います」
フロレスは満面の笑顔で言った。




