運命の日
次の日の朝。
「ハアロ大将軍。すぐにダレードの神殿においでくださいとの事です」
王宮へ向かおうとしていたハアロに家令は伝えた。
「む? 朝から一体何事じゃ?」
「先程、伝令が参りました。エトルリア神官が緊急に相談したい事があると。何を置いてもすぐに来てくださいとの事でした」
「分かった。すぐに向かうと伝令には伝えて置け」
ハアロはそう言った。
「何事ですか? 将軍」
ミアがやって来た。
「エトルリア神官が至急の用だと、たった今伝令が来た。ちとダレードの神殿に行って来る」
「それはご苦労様です。将軍、昨日お話した様に私は里帰りをして母の様子を見て参ります」
ミアは言った。
先日、ミアの実家の伯爵家から手紙が届いたのだ。そこには母の具合があまり良くないと書かれていた。ミアはその手紙をハアロに見せた。
ミアの実家は王都の南にある。馬車で1日程である。
「場合によっては一ヶ月程滞在するかも知れません。実家からお迎えの馬車が来ます」
「うむ。分かっておる。朝から出立するのだな。気を付けて行くのだ」
ハアロはそう言うとダレードの神殿に向かった。
それを見送ったミアはほうっと息を吐いた。
屋敷の衛兵が増えた。
ミアには家から出るなと煩く言っていた。
どうしても出る時は護衛を複数人連れて行けと言った。
家令に「王宮からの遣いが来ても家に入れるな。直接儂の所の行けと言って置け。いいか、リエッサが来ても駄目だ」と言い置いていた。
ハアロは魔女など信じないと言っていながら、何か不安を感じ取っているらしい。
ミアは馬車に乗り込んだ。荷物は小さなトランクが一つだけ。
ミアは夫に嘘を吐いた。
実家からの手紙はロクサーヌが書いたものだ。
馬車もロクサーヌが用意した。
そして今から自分はロクサーヌの手引きでオルカ国へ逃げるのだ。
◇◇◇
ハアロは神官に導かれて神殿奥の部屋に通された。
「失礼致します。ハアロ大将軍がお着きに御座います」
ドアがかちゃりと開く。
部屋に入ったハアロは驚いた。
部屋の中には宰相を始め重臣達が揃っていた。ジョージもいる。
それらが一斉にハアロを見た。
誰もが非難を込めた厳しい顔でハアロを見詰めている。
エトルリア神官が一枚の手紙をハアロに渡した。
「リエッサ王妃からの手紙です。信じ難い事が書いてあります」
「リエッサからの?」
それを読むハアロの顔がどんどん険しくなって行った。
『私はリエッサである。私は義祖母のルシールの薦めに従ってジョレス国王とリナ王妃に毒を盛った。毒はルシールに貰った。ハアロ大将軍の家にあるルシールの家、その裏にトリカブトが植えられている。
私の行った悪行の全てはルシールの助言に従ってである。だが、今では私は自分のやった事を深く後悔している。出来る事なら罪を償いたいと思っている。
ルシールは魔女だ。私は魔女に体を乗っ取られた。今、王宮にいるリエッサはルシール魔女なのだ。すぐに捕えて火あぶりの刑にしなければならない。
これは私の最後の命令である。何故ならこの手紙が届いたとするならその時既に私は死んでいるからだ』
手紙の最後にリエッサのサインがあった。
手紙は確かにリエッサの手筆だ。
ハアロは唖然として面々を眺めた。
「これは……? 何の冗談だ……?」
「冗談では有りません。昨夜どこかの女が届けに来たのです。寄付だと言って」
エトルリア神官は言った。
門番が神殿の門を閉めようと思ったその時、一人の女が籠を持ってやって来た。
女は籠を差し出した。
「ダレード神殿のエトルリア神官様へ寄付をされたいと主人からの申し出で私はやって参りました。エトルリア様に直接手渡して欲しいと主人は申しておりました。お手数では有りますがエトルリア神官にお伝えください」
門番は神殿に取って返した。
エトルリア神官がやって来た。
女は籠を手渡す。
「中に金と手紙が御座います。ではこれで」
「待たれよ。お女中のご主人様とは、どなた様ですか?」
「手紙に書いてあります。ご確認の程を」
女はそう言って去って行った。
部屋に戻って小袋の中を開けて見た。金貨が入っていた。
エトルリア神官は驚く。
慌てて手紙を開いてみた。
文面に驚いた。
「リエッサ王妃だと!?」
「だ、誰かある! ミノス、ミノスはおるか!」
エトルリア神官は叫んだ。
「リエッサ王妃が3年前に私に寄越されたジョレス国王の葬儀に関する書類などで確認致しましたが、それはまさしくリエッサ王妃の書かれたものです」
エトルリア神官は言った。
「魔女だと? ば、馬鹿な……」
ハアロは青くなった。
ミアの言葉が思い出される。
「そ、そんな……」
「確かに馬鹿げておりますが……。魔女など。だが、そう言われれば……ハアロ大将軍。だから逃げたのです。あの時、除霊の時に。トイレだと言って」
ミノス神官は言った。
誰もが無言になった。
誰もが半信半疑だった。
「ハアロ大将軍。宰相殿。それから重臣の方々。実はもうひとつ緊急のお話があります」
頃合いを見計らってジョージはそう言った。
ジョージは隣部屋で待機していたシャルルとカランを招き入れた。
ハアロはシャルルを見て目を見張った。
シャルルはハアロを睨み付ける。
「ハアロ大将軍。私が生きていて残念ですか? 私はリエッサ王妃が我が父を謀ったのを知っております。あなたが私を殺そうとした事も、あなたが父を騙して殺害した事も。本当なら今ここであなたの首を叩き切ってやりたい。だが、今はそんな私怨に拘っている場合では無い。大変な事が起きたのです」
シャルルはサラース男爵の言葉を伝えた。
それを聞いたハアロ大将軍、宰相や重臣達は唖然とした。
「な、何? グリンデルタ国が?」
「ま、まさか……」
「王妃が国を売っただと?」
「信じられん……」
「ハアロ大将軍。リエッサ王妃からのその手紙が本当なら、魔女が我が国を滅亡させようとしてグリンデルタ国と組んだと納得が出来る。もしも、あれが本当のリエッサ王妃なら?
ハアロ殿。リエッサ王妃は国を売るなど、そんな事をしますか?」
ジョージは厳しい目で言った。




