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ルシール

その頃、リエッサ王妃ルシールは湿疹の隔離部屋(自室)で寝ころがって一人しゃりしゃりと林檎を齧っていた。

 かゆみ止めローションのお陰で痒い痒いとポリポリ掻く事が無くなったので、湿疹は落ち着いて来た。

部屋に入る侍女も王宮医も「黒死病ペスト」の看護者が被る嘴の長いトリみたいなお面のアレ、を被っていたが、リエッサ王妃は湿疹だけで元気だし、誰も湿疹がうつる事も無いしで、隔離は解除という事になった。


王妃の部屋のドアには「感染の恐れあり。医療従事者以外立ち入り禁止」の紙が貼られていた。

レオナルドはそれを破いてくしゃくしゃと丸めた。

「リエッサ王妃」

トントンとノックをする。

「レオナルドか?入れ」

リエッサの声がした。

ドアを開けて中に入る。


レオナルドはリエッサ王妃の姿に眉を顰めた。

「王妃の癖に何でこんなに行儀が悪いのだ?」

そう思った。

「これでは平民と同じだ。俺はこんな女と結婚をするのか?」

「体中に出来ている湿疹も気味が悪い。あのリネと言う薬師が感染症と言ってくれたから、今はこの女と寝なくて済んでいるけれど、結婚したら寝ない訳には行くまい」

レオナルドはリエッサ王妃との閨を思い出す。

「仕事とは言え……恥じらっていたのは最初だけだ。今じゃ、俺を喰わんばかりの勢いだ。流石獰猛なスズメバチ。……ついて行けない。負けを認めたくは無いが、俺ではパワー不足だ。この女の相手は砂ゴリラみたいな男で無くては務まらん」

ぶつぶつとそう呟く。


「どうした? レオナルド」

ルシールがもそもそと起き上がる。

レオナルドは極上の微笑みを浮かべる。

100万ドルの笑顔と秘かに思っている笑顔だ。


「リエッサ王妃。隔離は解除だそうです」

レオナルドは言った。

「うむ。そうか。良かった」

ルシールは答えた。


「グリンデルタ軍がカーラ山脈に攻め入るXデーは一週間後です。リエッ王妃。分かっていますね。グリンデルタ軍が攻め込んでもハアロ大将軍の軍を派遣しないという約束を。ちゃんと書類にもサインしてもらっていますからね。これは最終確認です」

「分かっておる」


「その1週間後にアクレナイトの港とブラックフォレスト王国に攻め入る船が出ます。我が最新鋭の武器を搭載した海軍の船が全船出航いたします」


「おお、それは喜ばしい」

「全ては電光石火、内密に行われます。同時多発テロと言うヤツです。微妙に日にちはずれますが」

「よし。楽しみにしておるぞ。ああ……やっと我が願いが……長い道のりだった……」

感慨深い眼差しでそう言った。


「カール王の潜伏先はまだ判明しませんが、何しろ我がデズモンド閣下は軍を掌握しておるのですから。それは大丈夫です。……それよりもリエッサ王妃。隔離も解除された事ですし、そろそろ風呂へ入られては」


レオナルドは鼻に手をやる。


「そうだな。ローションが落ちてしまうのが嫌であまり入らない様にしておるのだが……

ブラックフォレスト王国の施薬師はローションを一本しか置いて行かなかったから。臭うか?」

ルシールは腕をクンクンと嗅ぐ。

「はい。うら若き女性がそれでは困りますよ」

レオナルドは柔らかく言った。


「おおそうだな。そうだ。そうだ。うら若き女性の心得を忘れておった。随分、昔の話だったから。……ではそうしよう。ところで我が母上の嫌疑は固まったか?」

「それが、中々尻尾を出しません。どこかに協力者がいる筈なのですが……。ハアロががっちりと屋敷をガードさせているので拉致する事も出来ません。暫しお待ちを。誰かこちらに情報を与えてくれる人間が屋敷にいるといいのですが……女中でも兵士でも」

「屋敷にか?」

「はい」

「うむ……」


「ところでリエッサ王妃。ミアを侮辱罪と騒乱罪で処刑した暁には私にアクレナイトの港、その全権を与えてくれるお約束ですね? デズモンド閣下はそれで宜しいと言ってくださっております。この度のクリスと私の働きが素晴らしかったから褒美を取らせると仰いました」

「分かっておる。其方はわが夫となる。望むものは何でも与えよう」

「はっ。有難き幸せ。では……」



 レオナルドは部屋を出て行った。

ルシールはまたごろりと転がると林檎を齧った。

 

 隔離が解ければ、またゼノン神殿でお祓いをせねばならない。

 前回、ダレードの神殿(王都にある一番格式の高い神殿)でミノス神官(イエローフォレスト王国では2番の霊力を持つと言われている神官。1番目のエトルリア神官は大会議相談の為にブラックフォレスト王国に出張していた)の除霊を受ける予定だった。


 大体神殿に入っただけで気分が悪かった。神殿は非常にやばいと感じた。

手が痛くて仕方が無い。手を見ると指が欠けていた。その手に皺が現われた。

ルシールは慌ててその手を隠した。


「ちと、トイレに……も、漏れる」

そう言うとそのまま神殿を走り出た。その逃げのスピードにハアロ大将軍を始め重臣達は驚いた。

派手に転んで怪我をした。足が折れた、腕が折れたと大騒ぎをして馬車で帰って行ったのだ。

それでその日のお祓いはドタキャンになってしまった。


ダレードの神殿ではエトルリア神官が帰って来たと言っていた。すぐにやり直しお祓いをすると伝えて来た。


 そんな時に【感染症かも知れない宣言】が出た。

お陰で時間が稼げた。


「カーラ鉱山侵攻まで一週間か……それまで何とか悪魔祓いを引き延ばせば」

ルシールは林檎を齧りながら呟いた。


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