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クリス・ポピー

私の名前はクリス・ポピー。


 これはイエローフォレスト王国で諜報活動をする私の名前である。

本名はクリス・ツゴイネルワイゼン。

因みに叔父はレオナルド・ツゴイネルワイゼン子爵である。



我等が主はデズモンド侯爵閣下。

数年前に穏健派国務大臣を罠に嵌めて辞職に追い込み、自らが国務大臣となった。

デズモンド閣下は国家安全情報局なるものを設立し、そこに臣下のダドリー伯爵を長官として任命した。


『情報を制した者が戦いを制する』

それが閣下の座右の銘である。


私と叔父はダドリーから使命を受けてイエローフォレスト王国にやって来た。

それが3年前の事だった。

 この国での諜報活動の為に目立たない爵位と屋敷を探していた所、良い感じに貧乏男爵がそれを売っていた。叔父はさっそくそれを買った。それ以来、叔父はパンジー男爵として暮らす様になった。召使も女中も総入れ替えをした。全てグリンデルタ国から連れて来た。


 領民が騒ぐと面倒だからパンジー男爵の血縁という事にして、パンジー男爵も暫くは屋敷に住んでいた。しかし頃合いを見計らって巡礼の旅に出て貰った。二度と戻らない巡礼の旅に。


 デズモンド閣下の狙いは二つ。

一つはカーラ鉱山の完全独占である。もう一つはイエローフォレスト王国アクレナイトの港を手に入れる事である。

グリンデルタ国が強国となるにはこの二つは欠かせない。

ここを制圧すれば、大国イエローフォレストは牙を抜かれたライオンと同じだ。噛み付く事も出来まい。大人しい牝牛になって、我が国に仕える。

デズモンド閣下は豊かなイエローフォレスト王国を我が国の乳牛にするお積りなのだ。



 叔父は宝石商を営む傍ら、諜報活動にいそしんで来た。

我が叔父ながら中年の色香を感じさせるダンディな男である。

そして私クリスは難しい近衛兵の試験にパスしてイエローフォレスト王国の心臓部王宮にまんまと入り込んだのであった。


 ある日、王宮の塔近くを歩いていたら偶然リエッサ王妃と出会った。


リエッサ王妃は何やら慌てていた。私を見ると塔の鍵を持って来いと言った。それで私は鍵を持って行った。王妃は塔へ行ってその後青い顔をして帰って来た。

 私はその後こっそりと塔へ忍び込んだ。


 サンドラ王女が幽閉されているという部屋には等身大の人形が置かれていた。その片手が床に落ちていた。

 私はそれを確かめると塔を出た。



私が近衛兵に採用された2年前、既にサンドラ王女は城にいなかった。

どこに去ったのか誰も分からないという事だった。

知っているのはリエッサ王妃だけだと噂された。

私は先輩近衛兵に話を聞いた。


貴族達にサンドラ王女が塔にいると思わせる為に人形を置いたという事だった。

人形を置いたのはリエッサ王妃だ。

とんだ茶番だと思った。

だが、誰もサンドラ王女の事は興味がない様子だった。盲目の王女だったから、いても脅威にはならないと思っていたのだろう。



リエッサ王妃は嘘妊娠がばれて実家に潜伏していた。

流産をしてしまったと言って帰って来たが、明らかに王妃はおかしかった。

何もかも忘れてしまったみたいだった。

重臣達の名前も覚えていなかった。

まるで別人だった。



優れた諜報部員の私のアンテナがぴぴっと鳴った。

「リエッサはサンドラ王女をどこへ送ったか忘れてしまったのだ。そして今、必死でサンドラを探している。何か起きたのだ。サンドラを必要とする何かが……」

私が叔父にそう言うと叔父は興味を示した。

「サンドラ王女か。……しかし、そんなに酷い物忘れでは周囲に怪しいと思われて孤立しているだろう。クリス。そこに付け込むのだ」

「ルイス・アクレナイトとの結婚も無くなったと言う。きっと男にも飢えているのでは?」

叔父はそう言った。

「それでしたらグリンデルタ国のドン・ファンと呼ばれている叔父上の出番ですね」


 

私は機会を捉えてリエッサ王妃に近付き「何か困っていらっしゃいませんか?」と優しく声を掛けた。

「物忘れの病気で困っていらっしゃるとお聞きしました。大変お気の毒だと思います。私に出来る事ならお手伝いを致します」と恭しく頭を下げた。


その後、彼女が「この貴族は誰だ?」と困っているとこっそりと名前をお教えした。

「王妃様。その方はロンダ伯爵夫人です」

などと。

いつも王妃の近くにいるフロレス武官がブラックフォレスト王国に出張中だから丁度良かった。


最初の内、王妃は私を警戒していたが、次第に私を信用する様になった。

何故なら味方は私独りだからだ。

彼女は酷く孤独だったのだ。

ある日私は思い切って言ってみた。


「王妃様。サンドラ様の行方をお探しでしたか? 宜しかったら私と私の親戚である有能なイケメンでお探ししますよ。……彼は人探しが大変得意なのです」


リエッサ王妃は目を見張った。



「ほう。見付けられるなら見付けて見ろ。褒美はたんと出す。ところでその有能なイケメンの親戚とは?」

 王妃はそう言った。


そして私は我が色男、レディ・キラー、結婚詐欺師、レオナルド・パンジーを紹介したのだ。


はっきり言ってサンドラ王女などどうでもいい。そんなの近衛兵二年目の私にだって、色男が売りの叔父にだって見付けられる筈が無い。

今現在、リエッサの関心と信頼を得る。それだけの事だ。

探したが結局分からなったと言えばいいのだ。


 レオナルド・パンジーの最初の仕事は王妃と共にお忍びでレノン湖へ行く事だった。王妃はミア夫人の別荘をそっと尋ねると言っていた。叔父は目立たない馬車を用意し、王妃をレノン湖まで送って行った。そしてまた帰りは迎えに行った。

 叔父はうまくやった。

リエッサ王妃と閨を共にして懇ろな関係になったのだ。


『リエッサ王妃がジョレス国王とリナ王妃を毒殺した。王妃の部屋に毒の入った小瓶がある』というチラシ事件。


私はすぐにそれをリエッサ王妃に伝え、毒の小瓶を持ち出して叔父の馬車に隠し入れた。

叔父はそのまま領地に向かい裏山に埋めた。

誰にも見付からない。

それは、いち早く情報を仕入れた私の手柄である。

私はおちゃらけた人物を装いながら、実はクールで優秀な諜報部員なのである。


 

 ある日王妃は愚痴っていた。

「アクレナイトに幾ら言ってもブラックフォレスト王国に侵攻しに行かない。それどころか重臣達も我が父でさえ、理由が無いと言って侵攻を認めない」


「私は無能力者として権威をはく奪されてしまうかも知れない。健忘が酷いからと言って。だからと言って我が念願であるブラックフォレスト王国侵攻を諦める事は出来ない」

そう言って嘆いた。


ナイスミドルである叔父は言った。

「リエッサ王妃。それでしたら、私がその願いを叶えて差し上げましょう。その代わり……」

叔父はリエッサ王妃に餌を投げたのだ。

リエッサはそれに食らい付いた。

それは余りにあっさりとしていて、こちらが拍子抜けする程だった。

こいつは愛国心と言うものが無いのか?

そう思った。

リエッサ王妃に比べたら我々の愛国心は格段に高い。



そしてこの混乱である。混乱に乗じてイエローフォレスト王国へ侵攻する事は難しくない。今ならハアロもアクレナイトも大わらわだからだ。

あちらこちらで勃発する暴動を何とか抑えようと必死である。

今がチャンスだ。叔父はそう使者を送った。

母国グリンデルタ国の情報部へ。



そしてデズモンド閣下と共謀した国軍大将モーリス、スチュアート王弟のクーデターが成功したのだった。

スチュアートは凡庸な王だ。おだてれば幾らでも踊る。序に言えば、モーリスもただの駒に過ぎない。

全てを支配しているのはデズモンド閣下。

デズモンド閣下の緻密なプランに漏れはない。グリンデルタ国はデズモンド閣下の理想とする大帝国としてその一歩を踏み出す。


カーラ鉱山に侵攻するXデーは近い。



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