ガジール
「嬢ちゃん。あんた、とんでも無い事をしてくれたな」
デイジーを部屋へ連れて行ったガジールはめそめそと泣いているデイジーに言った。
「あのなあ。……あの指輪はサツキナ様のお母上の形見だ。うんと大切にしていたのをシンジノア様に預けたのだ。婚約の印と言って。シンジノア様にとって命の次に大切な指輪だ。それを他の女に貸す訳がねーだろう。この嘘つきめ!」
ガジールの言葉にデイジーは愕然とした。
「ではサリーと彫ってあったのは、お母様のお名前……」
ガジールは黙ってデイジーを睨んでいる。
デイジーはその顔が怖くてまた涙が出て来る。
「シンジノア様はずっと、いいか、ずっとサツキナ姫を探していらっしゃったのだ。ようやく見つけて婚約をしたのに、怪我をしたせいで記憶を失くして……。それだってサツキナ姫に早く会いたいから、無理をしたせいなんだ。……やっと幸せになれると思ったのに……このバカ娘のお陰で」
ガジールはそう言うと立ち竦んでいるデイジーの腕を引いた。
「おまえなあ。王族と貴族の縁組だぞ? 分かっているのか? 下手すりゃ、外交問題に発展する。もっと悪くすれば戦争にだって成り兼ねない。 ええ? どうすんだよ。お前のせいで戦争になったら」
デイジーは絶句した。体ががたがたと震え出した。
ガジールはふうっと息を吐いた。
「まあ、そうならない様にアクレナイト侯が話をまとめてくださるだろうが……。アクレナイト侯だって思いも寄らぬアクシデントでご苦労なさるだろうよ。王都が大変な事になっているのに、また大きな心労が増える。
ブラックフォレスト王国のダンテ王が何と仰るだろうか……。考えただけでも恐ろしい。何しろ魔族の王だからな。……お前はとんでもない事をやらかしたんだぞ! 」
デイジーは固まったままだ。
「……シンジノア様の評判はがた落ちになる。そんなのが理由で婚約解消になるなんていい笑い者だよ。この先、貴族達に馬鹿にされるだろうよ。俺達の隊長が馬鹿にされるんだ。たまったもんじゃねえよ」
ガジールは吐き捨てる様に言った。
「デイジー。お前はシンジノア様の命を救ってくれた。けれど、シンジノア様の未来をめちゃくちゃにしたんだよ。まったく、とんでもねえ小娘だ。
急いで荷物をまとめろ。1ルワン過ぎたら迎えに来る」
ガジールはそう言うとデイジーを部屋に押し入れて、ドアを閉めた。
ドアの向こうから「うわーん」と泣く声が聞こえた。
「……ちょっと脅かし過ぎたかな。まあいいか」
そう呟くとふうっと息を吐いた。




