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シンジノア

「サツキナ姫。どうしたのですか? ぼんやりとして。……朝からどんよりと重いですよ」

カラミス王子が言った。

二人は庭園を散歩している。

サツキナの頭にはデイジーの楽しそうな笑い声が浮んでいた。

彼女の言葉も。



「ああ……何でも無いの。御免なさい。カラミス王子。ぼーとしてしまって」

サツキナは言った。

「今日は午後からサレートの滝に行くのですよね。サンドラ様とシンジノアの野郎と」

カラミスがそう言ってサツキナは笑った。

「酷い言い方」

「サツキナ姫。どうです? その前に私と剣の稽古をしませんか? 汗を流してすっきり爽快になってから行くって提案は。すかっとしますよ」


「……そうですわね。カラミス様。よし。やりましょう。今の所、私が4勝2敗でしたわね」

「手加減してあげたのです」

「言ったわね。ぐうの音も出ない程叩きのめしてやる」

サツキナは言った。

「うさ耳剣士に負ける訳が無い」

カラミスは返す。



二人はわあわあ言い合いながら屋敷に戻って行く。

サツキナに会いたいと思っていたシンジノアは楽しそうに言い合いをしながら歩いて行く姿を見て立ち止まった。声を掛けようとして掛けられなかった。



 彼女には慰めてくれる場所があるのだと思った。自分では無い場所。辛い時に帰れる場所が……。だが、そこに追い立ててしまったのは自分自身だ。


「……俺は一体何をやっているのだ」

そう呟くと杖を突いて部屋に戻った。

部屋に戻るとじっと考えた。

楽し気な二人の姿が頭を離れなかった。

無意識に指輪に手をやった。

それを指で弄ぶ。


切ない気持ちがした。

僅か半月ほど前に知った婚約者。それなのに自分はもう彼女を好きになっていると感じた。

彼女の隣はとても居心地がいい。


「寝言でサツキナ姫と呟いていましたよ」

そう言ったビルの言葉が蘇る。

今なら、それが分かると思った。

俺はやはりサツキナ姫を探していたのだと感じた。


ふとチェーンが切れて指輪が取れた。

「あれ?」

指輪をじっと見る。

チェーンが切れるなんて有り得ない。

嫌な予感がした。

シンジノアは指輪をサイドテーブルの上に置くと慌てて中庭に向かった。



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