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ベティの諫言

次の日の朝。


サツキナはシンジノアと仲直りをしようと決心して出て行った。

薔薇の花を直接彼に渡して、お互いの意地っ張りは止めましょうと言おうと思っていた。

今日は馬車で一緒に神殿へ行きましょうと言う積りだった。

シンジノアの部屋のドアをノックしようとしてふとその手を止めた。

部屋の中から甲高い声が聞こえた。

デイジーの声だ。


「サツキナ姫ってお幾つ位なのですか?」

その言葉に思わず耳を澄ませる。

「……」

シンジノアの声は聞こえない。

「ええっ?!そうなの? 私よりもずっとお年上かと思っていたわ」

「……」

「それって私の方が可愛いって言っているの?」

「……」

突然の笑い声が聞こえた。

「教えないのなら、こうしてやる!」

「デイジー、いい加減にしろ!」

「こいつめ!」



サツキナは唖然とした。

平民が貴族に、それも高位貴族に使う言葉では無い。

信じられない。

という事はそれをシンジノアはデイジーに許しているのだ。

それも朝からこんな風にじゃれあっているなんて、知らなかった……。

心が挫けた。

手に持った薔薇を悲しい思いで眺めた。



「サツキナ様」

びくりとして声の主を見る。

そこにはサンドラ王女の乳母であるベティが立っていた。

その目に憐れみが見えた。サツキナは居た堪れなくて慌ててその場を立ち去った。



◇◇◇

 


「あれ、薔薇は? 今日も無いの?」

部屋に入って来たデイジーにシンジノアは尋ねた。


デイジーは「ええと、もう終わりだったみたい。見付からなかったの」と言った。

「そうなんだ」

シンジノアは返した。


「薔薇の香りを嗅ぐと懐かしい感じがして、……あれはどこの庭だったのかなあ。綺麗な薔薇が咲いていた。あの場所で誰かと話をしていて」

ぼそぼそとそう言った。


あの時、一緒にいたのはきっとサツキナ姫だったのだろう。

一緒に薔薇を眺めて、それから何を話したのだろう……?

今日は神殿に行って、それで薔薇の庭園の事を聞いてみようと思った。

それを切っ掛けに仲直りをするのだ。



デイジーの声が聞こえた。

「ねえ。シンジノア様。先日はサツキナ姫様と何を喧嘩していたの?」


あれ以来、サツキナ姫がシンジノアを誘いに来ないから、余程の喧嘩をしたのだろうとデイジーは思っていた。


「デイジー。言葉に気を付けろ」

シンジノアが言う。

デイジーは煩いなあと言う顔をする。


「ねえ、サツキナ様がシンジノア様をお殴りになった様に見えましたけれど、私の目の迷いで御座いますでしょうか?」

「ああ。目の迷いだ」

「……」


「ねえ。シンジノア様。サツキナ姫ってお幾つぐらいなのですか?」

「兄上が18歳だと言っていた。俺より5歳下だと。デイジーよりも1つ上だな」

「ええっ?!そうなの? 私よりもずっとお年上かと思っていたわ」

思わず地が出る。

シンジノアは苦笑いをする。



「デイジーは何の悩みも無い顔をしているからね。サツキナ姫は一国の王女だから、色々な物を背負っている。苦労をされているから自然と大人びてしまうのだろうな」

「ねえ。それって私の方が可愛いって言っているの?」

「そんな事は一言も言っていない」



「それで、シンジノア様、何が理由で言い争っていらっしゃったのですか?」

また、こそこそと聞いた。まるで秘密を共有するみたいに。

「サツキナ姫には内緒にして置くから、こっそり教えて」。


「教えない。君には関係が無い」

シンジノアはくるりと向きを変えた。

「教えないのなら、こうしてやる!」

デイジーがベッドの上に乗って、シンジノアを押さえ付けた。

デイジーの笑い声が響いた。

「デイジー。いい加減にしろ!」

「こいつめ!」



その時「トントン」とノックの音が聞こえた。


デイジーは慌ててベッドから降りた。

「シンジノア様」

サンドラの乳母のベティだ。

「はい」

デイジーはドアを開ける。



ベティはデイジーをじろりと見る。

「あの、お早うございます。ベティ様。……私は朝のお薬を持って参りましたの」

デイジーは髪を整えながらそう言った。

それをスルーしてベティはシンジノアを見る。


「シンジノア様。サンドラ様が午後からサレートの滝に行かれるそうです。シンジノア様も如何ですかと言うお誘いです。サンドラ様はサツキナ姫もお誘いされるお積りだそうです」

「ああ。有難う御座います。是非ご一緒させてくださいとお伝えください」

「分かりました」

ベティはそう言ったままじっと動かない。

「?」

「ベティ。まだ何か?」



ベティは迷っていた様子だったが、厳しい顔をして言った。

「デイジー。幾らシンジノア様の薬師だからと言って、この様に朝早くから婚約者がいらっしゃる殿方のお部屋で大騒ぎをするのは如何なものかと思いますよ」

デイジーはびくりとする。

「シンジノア様。先程、サツキナ様がシンジノア様のドアの外でぼんやりとお立ちになっておりました。私を見ると去って行かれましたが……きっとお二人の楽し気なお声がお耳に届いたのでしょうね。お花をお持ちでしたよ。薔薇の花を」

ベティがそう言ってシンジノアは目を見張った。



そしてがっくりと肩を落とした。

また、失敗をしてしまった……。


ぼんやりと立ち竦んでいたと言うサツキナの姿が目に浮かんで心が痛んだ。

仲直りをしに来てくれたのだろう。


「うん? 薔薇?……ベティ、今、薔薇の花って言いましたか?」

シンジノアは尋ねた。

デイジーはどきりとする。

「はい。サンドラ様が仰っていました。ロクサーヌ様の温室に薔薇が咲いているのだと。

それは見事な薔薇だそうです。そこはアクレナイト侯のご家族様しか入れないそうで御座います。貴重な植物もあるそうです。サツキナ様は毎朝それをお切りになってドアの所にお届けになっていらっしゃると」


シンジノアはベティの言葉に驚く。そしてデイジーを見た。

デイジーは目を泳がせる。



「今すぐ謝りに……」

そう言って立ち上がったシンジノアにベティは言った。

「何を謝られるので御座いますか? あなた様は平民では御座いません。この城の領主様です。ジョージ様もルイス様もご不在の今、あなた様が御領主なのです。あなた様が謝られて、サツキナ様は何をお返しになられますか?」


「許されますか? それとも許されませんか? どの様なお気持ちで? どちらも選び様が無い。それをあなた様に謝られる事自体、酷くプライドを傷付けられるとお思いになりませんか? デイジーは平民ですよ。サツキナ様は一国の王女です」

「……」

「そのお言葉はサツキナ様の何を思い遣ってのお言葉でしょうか?」

「……」

 ぐうの音も出なかった。


「サンドラ様の乳母である私がこの様な事を申すのは僭越であると、私も分かっております。失礼を承知で一言申し上げました」



シンジノアはため息を吐いた。

「諫言身に沁みました。返す言葉もありません。ベティ。教えてくださって有難う。……デイジーはもう村へ返します」

シンジノアはそう言ってデイジーは目を見張った。

「その方が宜しいかと。それでは失礼致します」

そう言ってベティは出て行った。


「酷い!リード!」

デイジーは叫んだ。

「俺はリードじゃない! それよりもどうして薔薇の花の嘘を吐いた」

「知らない!リードなんか大嫌い!」

デイジーはそう言うと部屋を走り出て行った。


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