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サンドラとサツキナ

「そんな事があったのね」

神殿からの帰り道でサンドラはくすくすと笑った。

サツキナがシンジノアを殴った話を聞いたのだ。


喧嘩をしてから2日が過ぎた。

今日はサンドラと神殿に来たのだ。


「冗談ですって言ったんですよ! 有り得無いでしょう! もう一発殴ってやれば良かった。頭に来たからあれから口もきいていません」

「シンジノア様もしょうがない人ね。……でも、確かにデイジーは度を越していますね。私の乳母や侍女もそう言っていました。もうそろそろ村へ帰す様に私から言いましょう」

サンドラは言った。


馬車はのどかな風景の中を進む。


「ここはまだ平和ですね。王都は大変な事になっていました。王都の騒ぎがここに飛び火しなければいいのですけれど」

サツキナがそう言うとサンドラは「ここは王都から馬車で3日掛かりますからね。ここはイエローフォレスト王国の一番南の端です」と言った。


「そうそう、前にサンドラ様に案内して頂いた温室の薔薇を切ってシンジノア様の部屋の前に置いていたんですよ。ブラックフォレスト王国の薔薇の庭での事を思い出してくれるといいなあと思ったのです。でも、それも喧嘩をしてから止めていますけれど。……思い出の場所なんです。そこで初めて彼と口付けをしたのです」

サツキナはふふっと笑って打ち明けた。

「まあ、素敵ねえ」

サンドラは微笑む。


◇◇◇


アクレナイトの屋敷には大きな温室があるのだ。

そこには珍しいブルーナーガの植物が栽培され、一画には美しい薔薇が咲いていた。


「ここは秘密の花園です。ロクサーヌ様の温室だそうよ。ここにはご家族しか入れないのですって。召使も侍女も入れないの。特別なのよ。勿論、植物を管理する庭師は別よ。冬の時期はここでお茶をする事もあるそうよ。私はまだ体験していないけれど。でも、薔薇が良い香りですわね。冬に咲く薔薇ね」


サツキナは頭の帽子を取った。

流石に暑かった。

温室は天井がガラス張りでとても高かった。壁の窓も大きく取ってある。そこから温かい光が差し込んでいた。


「早く王国が落ち着いて、皆さんでお茶をしたいわね」

サツキナの腕に手を置いたサンドラはそう言うと微笑んだ。

サツキナは目の見えないサンドラの足元に気を配りながら歩いた。



◇◇◇


暫く無言で外を眺める。


「早くシンジノア様が私を思い出してくださるようにとゼノンの神様にお願いをしました。

それにアクレナイトの皆様のご無事を。リエッサが退位してサンドラ様とルイス様が早く国を御治めになります様にと」

サツキナは言った。

サンドラは「私も同じ事を祈ったわ。……ねえ。サツキナ様。どうして私があなたのいる場所を知る事が出来るか教えますね。不思議でしょう? 私は盲目の筈なのに。……あなたには光のオーラが見えるの。あなたは光の王女なのよ。大丈夫。きっとシンジノア様はあなたを思い出すわ。だってあなたはゼノン神に守られているのだから」

と言った。


「だから早く仲直りをして差し上げて」

サンドラはそう言ってサツキナの手を取った。

「はい」

サツキナは明るく言った。


「実は私、もう一つお願いをしたのよ」

サンドラはそう言って微笑んだ。

「私の月のものが有る内にはやくルイス様との子供が授かる様にって……」


サツキナは驚いた。だって、サンドラ王女はまだ20代ではないのか?

サツキナはまじまじとサンドラを見る。その視線に気が付いた様にサンドラは笑った。

「子供の頃に大病をしたせいなのかしら? それとも元々そういう体質なのかしら?

それとも部屋に閉じこもってばかりいたからかしら? どうにも私は発育不良みたいで……。私って来月で34歳なの」

「……」

「元々、月のものは不順だったのよ。……私、ルイス様にも言ったの。国が落ち着いてルイス様が国王になられたら、是非健康な女性を側妃にお持ちなさいって。私じゃ、子供が持てないかも知れないって」


「ルイス様は何と……?」

「そんな事は考えなくていいからって。……でも、ルイス様にはオルカ国に愛する女性がいらっしゃるの。従者がそう言っていたのを小耳に挟んだわ。ふふふ。私ってすごく耳がいいのよ」

「……」

「サツキナ様はオルカ国へいらっしゃったのでしょう? そのご令嬢をご存じ?」

サンドラは小首を傾げる。

サツキナは慌てて言った。

「し、知りません。そんな方の事は。全然知りません。御免なさい。サンドラ様」

「そう。……いいのよ。有難う」

サンドラはそう返した。


「ルイス様が迎えに来てくれなかったら、私は殿方に触れる事も無く、そのまま朽ち果てていたわ。ひっそりと。誰に知られる事も無く、永遠に囚われたままで。一体自分の人生は何の為にあるのかって神様を呪って死んで行ったと思う。だから、今、こうしてルイス・アクレナイトの妻でいられる事は私にとっては神様からの特別なギフトなの」


「こうやって自分を偽らないで自由に振舞える事も、アクレナイトの方々に大事にされて過ごせることも、もうそれだけで十分なの。十分なのに、その先を望んでしまうのよ……駄目ね。私は。欲張りになってしまって……」


サツキナはサンドラの手を取った。

「私も祈ります。サンドラ様。サンドラ様に早く赤ちゃんが来ます様にって。心から祈ります」

サツキナのその言葉にサンドラは嬉しそうに頷いた。



◇◇◇



シンジノアは家の兵や召使と一緒に王都へ運ぶ食料を馬車に積み込んでいた。近隣の農村から買い上げて来たニワトリや野菜や小麦粉、パンなどを王都の屋敷へ運ぶのだ。

王都では政治の混乱の所為で食糧不足が深刻化しているからだ。

馬車は王都と屋敷を行き来する。馬車には兵が付き添い、荷を守る。


王都の屋敷では、屋敷の分を取り分けると残りをゼノン神殿に持って行く。

ゼノン神殿ではそれを使って炊き出しを行ったり、配給を行ったりしていた。


荷を積んだ馬車が出て行った。


と、違う馬車が屋敷に入って来るのが見えた。

サツキナ姫とサンドラ王女だろう。

神殿に向かったと侍女のナンシーが言っていた。


「シンジノア様。ご機嫌宜しゅう」

馬車から降りたサツキナ姫が笑顔で言った。


仲違いをしてから思い出話の誘いにも来ない。

それが不満だった。

散歩だってデイジーの付き添いを断って一人でしているのに。知っているくせにやって来ない。

放置プレイかよ。

シンジノアはふうっと息を吐いた。


「お二人でどこへいらっしゃったのですか?」

本当は知っているのだが不愛想にそう聞いた。

その言い方にサツキナはくすくすと笑う。

まるで子供みたいに拗ねている。


「神殿ですわ」

「そうか……。神殿か。ここへ帰って来てまだ行っていないな」

シンジノアは呟いた。


「宜しかったらご案内いたしますわ」

サツキナは微笑んで返した。


シンジノアはその顔をつまらなそうに見る。

「有難う。気が向いたらご連絡します。では」

そう言って城へ入って行った。

「まっ、何なの。あの不貞腐れた態度!」

サツキナの声が聞こえた。

オダッチが「サツキナ様。聞こえますってば」

と慌てている。


シンジノアはサツキナの言葉にふふっと笑った。

明日は是非一緒に神殿に行こうと思った。



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