リードとデイジー
リードは施薬院の手伝いをする様になった。
松葉杖が杖に変わり、リードはそれを使って家の中を歩いた。
「無理はしない方がいいですよ」
ビルはそう言った。
「早く王都へ行きたいのです」
リードは言った。
「それよりもレンドル侯の所へ行った方が良いかも知れません。レンドル侯の所へ行けば何かが分かるかも知れない」
ビルは返した。
「もしかしたら、レンドル侯の所から逃げて来たのかも知れないわ。兵に追われてそれで川に落ちたのかも知れないわ」
デイジーは言った。
リードは不安な顔になる。
「俺は何か悪い事でもして逃げて来たのだろうか……?」
ビルは否定した。
「あなたは悪い事などしませんよ。兵に追われたとは限りません。盗賊か……、それとも蛮族と戦って逃げて来たのか……? 北の森では時々蛮族が出るらしいですから」
「いずれにしろ、ちゃんと歩ける様になるまで大人しくしていた方がいいわよ」
デイジーは口を尖らせて言った。
娘のその顔を見ながらビルは笑う。
「そうですね。その方が安全です」
ビルも同意した。
施薬院に来る村人たちはリードの事を褒めていた。礼儀正しくて老人にも優しい。
村人たちはリードとデイジーの事を冷やかした。
「デイジー。いいお婿さんを見付けて来たな」
その度デイジーは顔を赤らめて怒った振りをした。
でも、本当はすごく嬉しかったのだ。
夜中にリードの様子を見に行くと、彼は小さな声で何かを呟いていた。
苦しそうに呻きながら。
時には幸せそうな顔で。
「サツキナ姫」
リードはそう呟いた。
「待って。すぐに帰るから……」
「サツキナ……サツキ……」
デイジーは慌てて部屋を後にする。
彼は「サツキナ姫」と言った。
サツキナ姫ってどこかのお姫様?
ではリードはどこかの王子様?
デイジーはどきどきした。
じゃあ、あの指輪のサリーって誰?
でも、朝になってしまうと彼は夢の事など忘れてしまっている様に見える。
「リード。お薬の時間よ」
そう言ってデイジーは調合した薬にお湯を注ぐ。
「これは何の薬?」
「足の神経の薬よ。血流を良くするの。そろそろ在庫が減って来たから薬草を仕入れに行かなくちゃ」
「リード。天気がいいから、今日は市場へ行ってみましょう。何かいい薬草が見付かるかも」
そう言って村の乗合馬車で市場までやって来た二人。
リードは片手で杖を突いて歩く。その空いている腕を支えるデイジー。
デイジーは明るくて陽気で笑顔がとても素敵だ。くりくりとよく動く大きな目が愛らしい。村にも市場にもたくさんの知り合いがいる。みんなに好かれているのだ。
デイシーは17歳。
「デイジー。誰だ? そのイケメンは。デイジーの恋人にしちゃあちょっと品が良すぎる」
「デイジー。そんな事は無いよ。お似合いだよ」
「まあ。いい男ね。安くして置くから恋人にこの腕輪を買ってあげなよ」
みんなに冷やかされ、声を掛けられデイジーは赤くなる。
回りにいる女の子達は皆うっとりとリードを見ている。デイジーはわざと腕を絡ませて体を寄せる。女の子達の羨やまし気な視線に優越感を感じる。
リードを見上げる。リードが微笑んだ。
「ああ、神様。リードがずっとここにいます様に」
そう思った時、目の前から凄い勢いで走って来る一人の騎士の姿が目に入った。
騎士は燃える様な赤い髪に青い目を持っていた。
「貴様―! 見付けた! シンジノア・アクレナイト! 貴様は一体何をやっているんだ! この浮気野郎が! サツキナ姫と言うお方が有りながら!!」
彼はそう叫ぶと拳を振り上げ、唖然としているリード=シンジノア・アクレナイトの顔に強烈なパンチを喰らわせた。




