2022年クラシック世代の2強について
秋天から3週間が経とうとしているのに、未だに熱が引かないので初投稿です。
改めてソースとか精査したわけじゃないんで、個人の思想強めなのは御愛嬌。ファンってそういうもんです(主語デカ)。
ドウデュース君! 引退を撤回しよう!
A「んほ~ドウデュースたまんね~」
B「まーたこないだの秋の天皇賞?」
A「この末脚がたまんね~」
B「馬券は?」
A「本命ドウデュース! からのヒモ抜けでJRAに貯金した!」
B「本命の単複は買っとけとあれほど。しかしまぁドウデュースねぇ。そんなにんほるもんかい?」
A「やっぱり勝ち方に華があるっていうかね。強い差し馬が勝つと盛り上がるよ」
B「強いって、その世代ならイクイノックスの方が強いんじゃないの?」
A「最強論争は荒れるけど、まぁイクイノックスの方が強いんじゃないかな。実績的にも、海外含めてGI6勝。これはもう逆立ちしても追いつけないし」
B「ドウデュースが秋古馬三冠すれば並ぶじゃん」※24秋天時点
A「ああ、勝利数というより、『海外』のところね。今年の春のドバイターフに勝ててればワンチャンあったけど」
B「そうだった。そこでも5着でしょ。結構負けてるじゃん。なのに強いの?」
A「着順だけ見れば負けなんだけどね、道中でずっと隊列の内に閉じ込められてたから、いわゆる『たられば』を言いたくなるレースだったんだ」
B「ふーん」
A「その意味だと、やっぱりイクイノックスの方がレース運びを含めて強いからね。ドウデュースは、どうしても展開に左右される。過去の名馬に例えると、イクイノックスはシンボリルドルフで、ドウデュースはミスターシービーというか、そんなイメージかな」
B「語るじゃん。せっかくだし、ちょっと解説してみてよ。敢えて言うなら『22世代の2強解説』?」
A「アスクビクターモアがいれば3強だったのになぁ……」
B「悲しくなるからやめろ」
A「はい。じゃあ筆頭であるイクイノックスから。とはいえ今更語れることも多くないが、そうだな、この馬は最強のオールラウンダーだ。後方からの末脚勝負もできるし、好位抜け出しも大得意。何ならドバイシーマは逃げ切ってレコードの圧勝。32秒台を出せる瞬発力を持ちながら、トップスピードを長く維持することもできるという、ほぼ弱点なしのパーフェクトホース。無理やりケチをつけるなら、体質が少し弱いのと、重馬場適性がわからないくらい?」
B「重馬場は、いうてキタサンブラックの仔じゃん。走れないとも思わないけど」
A「やってみないとわからんことってあるからね。ドウデュースも、走法やパワーから重馬場も苦にしない、と陣営は見てたけど、蓋を開けたら重馬場のレースは着外ばっかりなわけで」
B「まぁそれはそう」
A「イクイノックスに話を戻して、戦歴はこう」
10戦8勝2着2回。
うちGI6勝(6連勝)。GI6連勝はテイエムオペラオーとロードカナロアに並ぶ日本最多タイ記録。
主な勝ち鞍:天皇賞秋(22、23)、22有馬記念、23ドバイシーマクラシック、23宝塚記念、23ジャパンカップ。
B「うーん、春のクラシック勝てなかったのが不思議なくらいよな」
A「まぁ、そこはジオグリフ、ドウデュースとの成長力の差だったんじゃないかな。体質の弱さはずっと言われていたしね。馬体重の変遷を見るとよく分かるけど……」
デビュー時:474キロ
ダービー時:484キロ
22有馬時 :492キロ
23JC時 :498キロ
A「こう見ると、才能に体が追いついてきたのが3歳の夏を越えた辺りからだったんだろう。有名な馬体評で、23秋天時の『屋久杉のような~』みたいなのもあったしね」
B「3歳春時点だと体が出来てなかったのか。それでも、皐月賞でもダービーでも2着に食い込んでるんだからやっぱり強いんだな」
A「あの時点だと、2歳時の東スポ杯から直行ローテ自体も不安視されてたからね。GIしか使ってないとはいえ、3歳4歳でそれぞれ年間4戦は、やっぱり体質は強くなかったんだと思う。4歳のJC後に引退したけど、引退式だとはっきりと毛艶が悪そうだったから、仮に有馬記念に出てたとしても思うような結果では無かっただろうね。最悪の事態さえあったかも」
B「それを補って余りある戦績だし、良いでしょ」
A「そのとおり。特にドバイシーマで、『世界でも最強』と海外にも認めさせたのが強いよね。宝塚では辛勝という形に見えたが、休養して秋天を日本レコードで連覇し、JCも制覇と4歳の充実ぶりは突出している」
B「その4歳で、ドウデュースとはもう格付け終わっちゃったんじゃないの?」
A「現実はそうだね。ただ、これがファンからすれば悩ましいところで……。知ってると思うけど、4歳秋のドウデュースは天皇賞秋、JC、有馬記念と出走したわけだが、この秋天とJCでは主戦の武豊が負傷して乗り替わりになっている。で、その結果が『いつもの後方待機』ではなく、『好位追走』からの負けだったから……。武豊が乗っていればもしかしたら、みたいな『たられば』の材料が増えてしまったんだな」
B「ふーん。実際、武豊が乗ってたらどうだったと思うのさ」
A「うーん、正直2023年の秋天は勝ち目が無かったと思う。2着で面目を保てたかくらいじゃないかな。一頭だけ『ハイペースの好位追走で悠々抜け出し』みたいな競馬をやられるとなす術がないというか……。チャンスがあったとすれば、JCの方だったと思うよ。タイム自体は、ダービーからコンマ1秒早い、だったから、決して無茶な水準では無かったはず。まぁ、もし万全のドウデュースと一騎打ち、みたいな感じになってたら、イクイノックスも更に奮起してもっとタイムが伸びてた可能性もあるけどね」
B「じゃあやっぱりイクイノックスの方が強いんじゃん」
A「総合的にはそうなる。結局、イクイノックスとドウデュースの対戦成績は、4戦2勝1敗1分け、みたいな感じかな」
B「皐月賞の2着3着を『引き分け』扱いはずるくない?」
A「そう? 勝ち鞍になってないレースで勝った負けたも無いと思うけど」
B「そうかなぁ……。しかし、なんでこれでイクイノックス一強の論調にならなかったんだ?」
A「そりゃあ日本ダービーを勝ったドウデュースが鮮やかすぎたからね」
B「というと?」
A「ドウデュースのダービーは、例のコロナの影響で無観客だったのから解放された後の、最初の『観客あり』のダービー。鞍上は一般人でも名前を知っているレジェンド騎手。道中は後方待機から、最後の直線で目の覚めるような大外一気で、粘ったアスクビクターモア(後の菊花賞馬)を差し切り、イクイノックスの追撃を凌ぎ切ってダービーレコードで勝利という内容の濃さ。勝った武豊は前人未到のダービー6勝目」
B「設定を盛ってきたな」
A「まだ自粛ムードが色濃くて、屋外でもマスク着用の上で声出しはNG、という時期だったけど、ウイニングランで観客が思わず『ユタカコール』をするくらいに盛り上がったからね」
B「その劇的な勝利で一躍人気になった……悪く言えば一発屋?」
A「ところがどっこい、ドウデュースは前年の朝日杯FSを勝利していて、既に堂々たるGI馬だったんだ。しかも、勝った相手は後の皐月賞馬ジオグリフ、NHKマイルC馬ダノンスコーピオン、ファルコンS勝ち馬プルパレイ(いずれもダービー時点)と錚々たるメンツで、朝日杯自体も、『日本競馬界七不思議』と言われていた『武豊は朝日杯を勝てない』というジンクスを22度目の挑戦で打ち破ったという。22度目にジンクスを破った馬が、22年のダービーで、2分22秒の壁を超えたダービーレコードを樹立したわけだ」
B「設定が、設定が渋滞している……」
A「しかも、ドウデュースの馬主である株式会社キーファーズは松島さんという方が代表をしていて、要は松島さんがオーナーなのだが、彼の目標は『武豊が凱旋門賞を勝つこと』。そのために、次々に馬を武豊へ提供しているという、ある意味最強の推し活派。そのオーナーに、初のJRAGI勝利をもたらしたのは他でもないドウデュースで、それは更にさっき言った『武豊のジンクス』を打ち破っている。更に更にその馬は『ダービー馬のオーナー』という、馬主としては最上級のタイトルを獲得してくれた。これはもうこの馬で挑むしかない……凱旋門賞に……!」
B「アカン優勝してまう」
A「ということで、この設定を詰め込むだけ詰めっ込もうぜぇ、した馬はそりゃ人気になるわけだ。ついでに、この辺りで『大食いでタフ』なキャラクターという情報も出回った。こういうキャラ付けもあって、22世代の主人公扱いをされたということだな。ダービー時点では、イクイノックスは天才の呼び声こそ高かったが、実績が追いついていなかった」
B「やっぱりダービー馬の称号はデカいと」
A「ただ、そこからがドウデュースの苦難の始まりでもあった。満を持しての秋の凱旋門賞遠征は、前哨戦のニエル賞4着、本番の凱旋門賞はブービーの19着と良いところなく終わった。そんなドウデュースとは対照的に、イクイノックスは天皇賞秋を、大逃げするパンサラッサを上がり3F32.7という鬼脚でゴール手前で交わして制覇すると、続く有馬記念も2着に2馬身半をつける圧勝で、一躍現役最強の座に躍り出た。ついに天才がその才能を天下に示したわけだ。負けじと、翌年の京都記念で復帰したドウデュースは、手応えの違いを見せつけて圧勝。しかし、そこから挑んだドバイターフは無念の出走前のスクラッチとなってしまい、春シーズンを棒に振ることとなる。この間のイクイノックスの成績はさっき言ったとおり、ドバイシーマから宝塚を連勝」
B「ドバイはなんでスクラッチされたん?」
A「現地の獣医にストップを掛けられたらしいね。詳しくはわからないが、どうも左前肢に腫れがあって、それがダメだということ」
B「怪我したってこと?」
A「そこはよくわからない。普段から調教後はそうなってたらしいから、厩舎スタッフは大丈夫だと思っていたし、JRAの獣医も問題ないという見解だったそう。最近見た何かの記事だと、走法の関係で前肢と後肢が接触することは珍しくなかったらしくて、その影響かもしれないね」
B「ふーん」
A「で、宝塚記念も使わずに春全休で放牧になったのは、放牧中にソエが出たから、という話があるみたい」
B「ソエ?」
A「骨膜炎のことだね。まだ骨が出来上がってない時期に強い負荷をかけると炎症を起こして、そこが腫れたり痛んだりする」
B「タフさが売りなんじゃなかったん?」
A「耳が痛いけど、ソエは成長期の馬は逃れられない話だし」
B「4歳でしょ。まだデカなるんか?」
A「体格相応の骨が出来上がりつつある時期だったのかもね。とはいえ、この辺りは確たるソースがあるわけでもないし、ソエ云々含めて外野の想像でしかないわけだが」
B「いずれにせよ、秋に巻き返しを図ったと」
A「そういうこと。調整過程は順調、という話で、実際に天皇賞秋の時点で馬体の出来はよく見えたよ。イクイノックスに次ぐ馬体評価をされてたくらいだしね。ただ、この時点の512キロが現時点の最大馬体重だから、今にしてみればやっぱり多少は調整しきれてなかったのかもしれない」
B「でも馬体は良かったんでしょ?」
A「そうだね。だから結果的には、余計な筋肉が付きすぎている、という感じだったのかな。DBのトランクスで通じる?」
B「?」
A「まぁ、極論すると、ボディビルの筋肉はマラソンには必要ないよね、という話」
B「あー」
A「こっちも馬体重の変遷を見てみようか」
ダービー時:490キロ
京都記念時:508キロ
22秋天時 :512キロ
22JC時 :504キロ
22有馬時 :506キロ
A「こう見ると、やっぱり多少重かったようにも思う。とはいえ、一番の問題は、レース当日に主戦の武豊が負傷して乗り替わりになったことだろうけど」
B「誰になったの?」
A「戸崎圭太ジョッキーだね。トップジョッキーの一人。だからといって、調教に乗ったこともない馬を当日乗り替わりで、しかも天皇賞秋というGIの中でも最高峰のレースで……というのは厳しいと言わざるを得ない。これが、例えば新人ジョッキーからの乗り替わり、とかだったら強化要素とも言えただろうけどね。実際に、レースでは明らかに引っかかっていて、最後はバテて掲示板にも載れなかった」
B「戸崎が悪いの?」
A「いやぁ、あれは誰が乗っても同じだったんじゃないかな……。ドウデュースは、武豊自身は『乗りやすい』なんて言ってるけど、実際はすごく難しい馬なんだと思う。前進気勢が強くて、ちょっとギアを開けたらすぐにトップスピードになってしまうというか、位置調整だけでも『阿吽の呼吸』が必要な馬、と」
B「別に気性は大人しそうだけどなぁ」
A「暴れん坊というわけではなくて……ほら、νガンダムに乗ったアムロが『敏感すぎる』と表現してたじゃん?」
B「?」
A「あー……超速い車だけど、加減しないとすぐガス欠するみたいな」
B「わかるようなわからんような」
A「まぁ、武豊、というか乗り慣れた人じゃないと力を発揮させられない馬ってこと。その意味でも、イクイノックスとは対照的かもね。主戦のルメール曰く『ポニーみたい』らしいから。ただまぁ、これも本当かどうかは疑わしいとも思うけど」
B「超一流の言う『簡単』は信頼ならんわね」
A「とはいえ、イクイノックスの方が自在性が高いのは事実だと思う。というより、歴代の名馬でもあれだけ自在な馬は少ないんじゃないかなぁ。パッと出てくるのはマヤノトップガンくらい……。話を戻して、こういう経緯もあって、天皇賞秋、JCとドウデュースはイクイノックスどころか他の馬の後塵を拝して負けてしまったわけだ」
B「いかんですよ」
A「ファンもそう思ってた。しかも、ドウデュースはその体型から『マイラー』疑惑が根強くてね。特に3歳の秋から馬体が成長して、ダービー時点と比べても見違えるくらい筋肉が発達した。そうすると、自然と長い距離は向かずに、より短い距離に適性が向き始めた、と考えるのが自然なんだ」
B「マッチョはマラソンランナーにはなれない理論だ」
A「そうそう。だから、残る1戦、有馬記念は、秋天前から『この秋で一番向かない舞台では』と言われていた」
B「2500メートルだっけ」
A「ドウデュースは秋天、JCとイクイノックスには埋められない溝を開けられ、かつてのライバルはそこで引退。有馬記念は未経験の距離で、なおかつ距離適性が疑問。その上、中山競馬場では皐月賞で『末脚届かず3着』という実績(?)もある。故に、大本命は不在のまま、群雄割拠の有馬記念、というのが一般的な見方だった」
B「うーん、残当」
A「実際、当日も1番人気は同世代の春の天皇賞馬で、秋天でもイクイノックスの2着に迫ったジャスティンパレスだった。しかし、ここで光明が差す。主戦の武豊が、有馬記念の1週前に実戦へ復帰した」
B「おお! おお? 結局2ヶ月くらいの怪我ってことは、結構な重傷だったんだ」
A「しばらく歩けなかったという話だしね。ドウデュースの有馬記念がなければ、復帰は年明けという話もあったみたい」
B「うーん、また設定が盛られてきたな」
A「当日の人気は、7番人気までが1倍台になるという大混戦ムード。その中でもドウデュースは2番人気に押された」
B「不安要素盛り盛りで2番人気はすごない?」
A「それだけファン人気があったということだろうねぇ。そしてレース。ここで引退を表明していたタイトルホルダーが、いつも通りに逃げを打ってレースを引っ張る。その中でドウデュースはやや出遅れ、後方待機。そのまま向正面を回るも、3コーナー辺りから徐々に進出を開始。4コーナーから直線に向く辺りで、3番手まで位置を押し上げる。残るは内で粘るスターズオンアースと、先を行くタイトルホルダー。直線で一完歩ずつ差を詰め、中山の急坂をものともせずにタイトルホルダーを捉えると、追いすがるスターズオンアースも半馬身差で抑え込み勝利。朝日杯、ダービーに続いて3年連続3勝目のGI勝利は、3コーナーからの捲りで上がり最速という、距離不安説も一蹴するような、これまた劇的な勝利だった」
B「すげー。勝ったんだ」
A「しかも、結構記録的な勝利でね。こんな感じ」
ダービー馬による有馬記念制覇は、オルフェーヴル以来10年ぶり。
朝日杯を制したダービー馬による制覇はナリタブライアン以来28年(古馬での有馬記念という条件では史上初)。
鞍上の武豊は、これで有馬記念は4勝目で歴代最多タイ(この日は有馬記念のみの騎乗といういわゆる一鞍入魂)。開催日である12月24日の有馬記念は、ディープインパクト、キタサンブラックに続いての3連勝で、オグリキャップによる史上最年少制覇の記録と、今回で史上最年長制覇記録を独占。
B「設定が……設定が……」
A「イクイノックスの圧倒的な『強さ』は、歴代の名馬の中でも屈指のものだろう。一方で、ドウデュースの『華』というか『話題性』かな? 勝利と、一転しての挫折と苦境、それを乗り越えての復活。これはイクイノックスとは別の方向性での『スター性』と言える。その上で、直接対決の機会であった2023年の秋天とJCを、主戦の武豊を欠いた状態で終わってしまったことで、どうしても『たられば』を言いたくなってしまう……。というのが2023年終了時点での評価」
B「何か含みのある言い方だな」
A「明けて2024年、イクイノックスからバトンを受け継いだドウデュースが古馬路線のトップを駆け抜け……とはならなかった。前年のリベンジを期したドバイターフは、終始包まれた中で5着。宝塚記念は、結果的には重馬場に泣かされた形で6着と、またしても暗礁に乗り上げてしまう」
B「重馬場に弱いのはもう仕方ないんじゃ?」
A「ここまで結果が出ないとねぇ。調教では、重い馬場でも普通に時計を出しているし、陣営も首を傾げてるから……。多分走りそのものの適性じゃなくて、ドウデュース自身が『やーめた』してるんじゃないかとは思うけど、そういうメンタル含めての適性だからね」
B「まぁそうね。原因が何であれ、力が出せないんじゃ適性がないってこと」
A「そういう状態で春を終えて、秋。復帰初戦の天皇賞では2番人気で、1番人気を前年度の三冠牝馬リバティアイランドに譲ってしまう」
B「残当」
A「個人的には、去年のJC時点でのリバティはまだ『23世代最強』レベルだと思ってたけど、夏を越えてかなり馬体が成長してたからね。それが本物ならかなりの強敵だろうとは思っていた」
B「調教も動いてたしね」
A「そして本番。レースはノースブリッジが出遅れたこともあって、ホウオウビスケッツが単独で逃げる形になった。好位にリバティアイランドがつけて、中団やや後方に3番人気の上がり馬レーベンスティール。ドウデュースは最後方から2頭目で折り合い、脚を溜める。ただ、ペースは1000メートル通過が59秒9と、天皇賞としてはスローと言っていいペースだった。この場合、先団の馬は十分に脚が残っているから、最後まで差し追込が届かない前残りの展開になる。実際、逃げていたホウオウビスケッツはそのまま3着に逃げ粘り、2着のタスティエーラもリバティアイランドのすぐ後ろに位置していた。道中はドウデュースより2頭くらい前にいたジャスティンパレスは、上がり33秒フラットの第2位の末脚を繰り出したが4着。これが差し追込の本来の順位だったはず」
B「でもドウデュースが勝ったんでしょ?」
A「勝った。上がりの3Fは32.5で、2着のタスティエーラに1馬身と1/4をつけて」
B「直線だけで13頭ぶち抜いたの……?」
A「そうなるねぇ。リバティアイランドが伸びてれば分からなかったけど、途中まではホウオウビスケッツが勝つかもくらいのレースだった。本当に望来は上手く乗ったよ」
B「32.5って、そもそもどんくらいの記録なの?」
A「イクイノックスが3歳の秋天で出したのが32.7で、これが秋天史上最速だったから、それをコンマ2秒縮めた形だね。GI勝利馬に限ると最速で、勝ち馬以外を含めてもアーモンドアイが安田記念で記録した32.4に次ぐ2位となる」
B「それってつまり、今ならイクイノックスに勝てる……ってコト!?」
A「3歳時のイクイノックス相手なら勝てるかもね。あの時は斤量も56だったし、今回のドウデュースは58キロで32.5を出しているわけだから。ただ、イクイノックスが今も現役を続けてたら、同じくらい成長してもっと速くなってる可能性も高い」
B「そりゃそうか」
A「とはいえ、『イクイノックス相手に勝てる』とは言わないまでも、『勝ち筋が見いだせる』だけでもすごいことだと思う。今の国内の現役馬だと、ちょっと厳しいだろう。それこそ、リバティアイランドが成長していればわからなかったが」
B「話はずれるけど、リバティアイランドはなんで負けたん?」
A「それが分かれば誰も苦労しないだろうなぁ。まぁでも、牡馬混合の中距離GIで勝ってる牝馬は、アーモンドアイとクロノジェネシス以降出てないし……デアリングタクトも結局勝てなかったからねぇ」
B「れ、レイパパレ……」
A「あっ……。ま、まぁ、牝馬が牡馬混合の中距離GIを勝つのは難しいよってこと。リバティアイランドは、次が本当の試練だろうね」
B「頑張ってほしいねぇ」
A「話を今年の秋天に戻して、ドウデュースが『スローペースを後方待機で直線一気』したわけだが……これ何か気づかない?」
B「……去年のイクイノックス?」
A「そう、去年のイクイノックスが『ハイペースを好位追走で悠々抜け出し』だったところ、全く対照的な勝ち方をしたことになる。ちなみに、去年のイクイノックスと今年のドウデュースは同じ馬番7」
B「やっとるなぁJRA!」
A「ともあれ、ドウデュースは春シーズンの不調とレース自体の不利な流れを、JRAGI勝利馬史上最速の末脚を繰り出してちぎり捨てたというわけだ。それだけでも記録的だが……」
B(おっ、設定か?)
馬番7の馬による天皇賞秋3連覇。
ドウデュース自身はこれで7勝目。史上7頭目の4年連続GI制覇達成馬。
鞍上武豊は天皇賞秋を2017年のキタサンブラック以来7年ぶり7勝目で歴代最多タイの最年長制覇記録。ついでに生産者のノーザンFは、天皇賞秋7連覇。
ダービー単冠馬による古馬GI複数制覇は、スペシャルウィークとウオッカに続く3頭目。
1600、2000、2400、2500のGIを制覇したのもナリタブライアン、ジェンティルドンナに続く3頭目(3冠馬以外の馬では初)。
B「よう見つけるなこんな記録」
A「ファンの熱意を感じるよな。まぁ、そういうのを掻き立てるような馬だということだね」
B「イクイノックスはないの?」
A「まさか。あっちも記録づくめだよ」
グレード制導入後では史上最小キャリアの5戦目で古馬GI制覇。
秋の天皇賞連覇はシンボリクリスエス、アーモンドアイに続く史上3頭目(1980年まで天皇賞は勝ち抜き制で、連覇が物理的に出来なかったというのもあるけど、それでも達成できた馬はどれだけいたか)。
連覇時の秋天は芝2000のJRAレコードで、おそらく世界レコード。
レーティングも、ロンジンが出した最終的な評価は135ポンド。それまで1位だったエルコンドルパサーの134ポンドを抜いて日本馬歴代1位、2023年度の世界単独1位。
GI6連勝はテイエムオペラオーとロードカナロアに続く史上3頭目で、海外含めた6連勝はカナロア以来の2頭目。
10戦以上のJRA馬で連対率100%も、シンザン、エルコンドルパサー、ダイワスカーレットに続く史上4頭目。
総獲得賞金はアーモンドアイを抜いて歴代1位だった(翌年、サウジとドバイで2着になったウシュバテソーロが1位へ)。
B「すごいじゃん!」
A「すごいぞ。強さもそうだが記録づくめで、こっちも人気が出ないわけない。惜しむらくは、3歳馬による秋天制覇は前年にエフフォーリアが、その祖父であるシンボリクリスエス以来19年ぶりで達成していて、更にそのレースは3冠馬コントレイル、マイルの女王グランアレグリアと豪華メンバーだった。同様に有馬記念制覇も、エフフォーリアが前年にやっていたからね。それで少しインパクトが薄れた感はある」
B「タイミングの問題かー」
A「翌年の秋天連覇も、その少し前にアーモンドアイが達成してたからねぇ。しかも鞍上は同じルメールで、こういうとあれだが、変わり映えしない光景といえばそうだった。エフフォーリアは、若き俊英、横山武史とのドラマという側面もあったから……」
B「ジョッキー含めた人気と」
A「馬も完璧な強さなら、ジョッキーも盤石の超一流となると、ファンとしては共感や憧れよりも、『勝って当然』くらいの感覚が強くなっちゃうかもしれないよね」
B「応援のしがいがない……?」
A「まぁ、そうとも言える。一方で、ドウデュースは『レジェンド』武豊を鞍上に……というと聞こえは良いけど、武豊も既に50歳を越えてたからね。やっぱり往年の輝きは失いつつあるように見えていた。キタサンブラックが、武豊が巡り合う最後の名馬だろう、くらいの声もあったしね。もちろん、その後も重賞やGI戦線を賑わすことはあるけど、ルメールや、後輩の川田将雅辺りとは明確な成績差ができつつあった。そういう、いわば『かつての英雄』が久々に出会った名馬で、それがジョッキー自身のジンクスを打ち破った挙げ句にダービーさえも劇的な勝利を飾ったとなれば……?」
B「これは脳を焼かれますわ」
A「しかも、ドウデュースを中心に眺めた場合、ライバルポジションのイクイノックスは『完璧な強さ』を誇るわけだ。物語としての構図は、そっちの方が締まるのは間違いないわけで。『大食いでタフ』な主人公が、『病弱な天才』に挑む!」
B「王道の熱血漫画かな?」
A「欲を言えば……欲を言えばジオグリフにもっと活躍してほしかったし、アスクビクターモアも無事に現役を続けられていたら、更に綺羅星の世代になっていたかも」
B「ジャスティンパレスにブローザホーンも古馬GI勝ってるしね。マイル路線はセリフォス、ナミュール、短距離にママコチャ、マッドクール……」
A「そんな世代の『最強』がイクイノックスだとすれば、それに立ち向かう物語としての『主役』はドウデュースになるわけだ。そして、今回の秋天で、それまでの『たられば』ではなく、現実味のある『勝ち負けの道』が見えたと」
B「胸を張ってライバルと言えるようになったわけだ」
A「何故か過小評価されることもあるけど、GI4勝は派手に名馬だし、2000mの上がり32.5も、府中のスローヨーイドンなら出て当然なんて到底言えない記録だからね。次点のジャスティンパレス・ニシノレヴナントの記録が33秒フラットで、トップと次点でコンマ5秒の差がつくのはGIじゃ珍しい。イクイノックスが32.7を出した時だって、次点のダノンベルーガは32.8で、コンマ1秒の差だった」
B「『32.5が出て当然』のレースだったら、ジャスティンパレスも32.6くらい出てもおかしくなかったってことか」
A「まぁ、ジャスティンパレスは最後の方で進路取りが狭くなってたから、広いところに出れていれば縮まってたかもしれない。そうしたら、あるいはタスティエーラを交わせたかも。そう考えると、やっぱりあの馬も相当の器だね」
B「なるほどね。しかし、ドウデュースはなんで過小評価されることがあるの?」
A「単純にイクイノックスが強すぎたから……。それと比較するとどんな馬も小粒に見えちゃって、『ダービーはフロック、他はイクイノックスの空き巣しただけ』くらいの感想を持つ人はいるだろうね。あとはまぁ、負ける時は接戦で落とすというより、ころっと負ける姿の方が多いからかな」
B「まぁレーティングから見てもイクイノックスは史上最強馬になっちゃったしねぇ」
A「は??? 史上最強馬はエルコンドルパサーだが???」
B「あっ……」
A「こほん。まぁ、GI4勝という括りで見ると、良く引き合いに出されるスペシャルウィークもそうだし、その同期のグラスワンダーもそう。他にはオグリキャップやメジロマックイーン、シンボリクリスエスにマヤノトップガン、トウカイテイオーにミスターシービーと、牡馬の有名どころだけでも名馬しかいねぇ」
B「ウマ娘化不可避」
A「エイシンプレストンとメイショウサムソンも咥え入れろ~?」
B「サイゲはフォーエバーヤングだけで元取れそうだから、どんどん還元するべき」
A「……また話がズレてるな。集中力が切れてきたから、そろそろまとめるか。以上、2022年クラシック世代の2強についてまとめました。いかがでしたか?」
B「クソまとめサイトだ!」
A「イクイノックスが世界最強に上り詰めて引退した後もその背を追い続け、遂に頂へ届き得る異次元の末脚を魅せつけたドウデュース。そんな全盛期のドウデュースならイクイノックスを追い越せるのか? それとも、イクイノックスが更なる底力を発揮して最強を示すのか? そんな『たられば』をずっと語りたくなる、素晴らしい名馬が同世代に生まれてくれたことは、競馬ファンとして幸せだと思う。どちらが欠けていても、今ほどには語られていなかっただろうことは間違いない」
B「イクイノックスは一足先に種牡馬入りしているから、ドウデュースも無事に種牡馬入りしてもらって、今度はその仔の世代での活躍を見たいね!」
A「イクイノックスの仔に乗ったルメールと、ドウデュースの仔に乗った武豊でまたダービーに出ような!」
新時代の扉「あの」
来週はもうジャパンカップですね。