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CASE1

 水浦孝子 タクシードライバー


私は迷っていた、

唐揚げ弁当にするか、カルビ弁当にするかを。

水浦孝子40歳。一度は結婚したものの、結婚して子供が産まれた辺りから、徐々に旦那が働かなくなり、別れた。私にバツを付けたのがあの人かと思うと、腹が立ってくる。それから私は仕事を探すようになり、このタクシードライバーという職を選んだ。仕事の時は母に子供をみてもらっている。タクシードライバーを選んだのも、もともと車の運転が好きだったし、人と話すのも好きだからだ。


この日は雨の金曜日だった。私は結局一番安いのり弁にして車内で食べていた。普段はニオイが付くから車内では食べないが、この日は雨。仕方なく車内で食べた。窓を開けたいが、そしたら今度雨が入る。弁当を食べ終わった私は、さっき買ったばかりのレジ袋に空の弁当のごみくずをまとめてコンビニのゴミ箱に捨てる。外に出たついでにと、タバコを吸うことにした。上着の右ポケットからマイルドセブンを取り出し。火を点けて深く吸い込んで吐く。雨の向こう側を見ると綺麗な満月だった。満月に届けと言わんばかりタバコの煙をそれに向かって吐いた。そしてタバコを吸い終わり、車内に戻って今日の仕事開始。

金曜日の東京は稼ぎ時である。しかも今日は

雨と来ている。チャンス。車を新宿方面に流した。考えることは一緒である。他のタクシーが列を作って並んでいた。私はドン・キホーテを真っすぐ抜けて伊勢丹前でサラリーマンを拾った。その人は電話しながら乗り込んできて、受話器を抑えて「西新宿まで」と告げた。私は「はい」と小さな声で答えた。

車を走らせている間も、その人は電話で仕事の話をしていた。西新宿に着くと、料金をカードで精算して「ご乗車ありがとうございました」と言ってタクシーのドアを閉めた。

西新宿をゆっくりと流す。ワイパーがカチカチと音をたてる。

何故だかロバートデニーロの「タクシードライバー」のオープニングを思い出した。

西新宿で信号待ちしていたら、後部座席のフロントガラスをノックされ、私はびっくりした表情で振り返ったと思う。するとどうやら客らしい。

私は車を脇に寄せハザードを付けた。

20代前半から半ばくらいに見える女の子だった。キャリーバックを引いている。乗り込むと、「横浜まで」と意外な言葉を聞いた。私が「かしこまりました」と言うと、

「女性ドライバーじゃん!めっちゃツイてる」

「ありがとうございます」と言って車を横浜まで走らせた。甘く匂ってくる彼女の香水が何だか彼女の人生を物語っているようにも思えた。キャリーバックからして私は「どこかご旅行ですか?」と訊いてみた。すると彼女は火が付いたように話だした。

「彼氏と同棲してたんですけど、ろくに働かないでパチンコ、競馬ばかりしてて、働く、働く言うんですけど、結局私のお金に頼っているのがもうチョー嫌で、別れてきたんです」

タクシーを転がしながら、

「なんだか気持ちわかります。私も元旦那が働くなって別れましたから」

「運転手さんもそうなんですか」

「ええ、バツが付くとモテなくなりますよ

(笑)でも良いじゃないですか、まだお若いんだし」

「まあ、そうなんですけどね…」

東京から横浜までの街の夜景が綺麗。

「世の中にはいるんですよね根っからのヒモ体質の男が」

「マジでそう」

「似たもの同士ですね」

「ですね。あたし映画とか歌とかで、タクシーのよい出会いが出てくる話あるじゃないですか?」

「ええ」

「本当にあるんだな、って思いました」

「たまたまですよ、もうすぐ横浜です」

横浜も金曜日と来ているから、街の混雑は東京とかわらなかった。

「雨降ってますんで、目的地に横付けしますね」

「ありがとうございます」

「いえいえ」

そして目的地に着く。

時刻は午前一時30分を指していた。

料金を済ますと、タクシーから降りる彼女。

「ありがとうございました。」

「楽しかったです」

彼女はキャリーバックを引いてとぼとぼと帰っていった。

私は久しぶりにいい出会いをした。

夜空がどこまでも続いている。

車内にはほのかに甘い匂いが残っていた。




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