すれちがい
キーンコーンカーンコーン
授業終了の鐘が鳴る。
「―もか、桃花。授業終わってるよ。」
クラスメイトのあかりに体をゆすられる。
よだれを若干垂らしながら目が覚め、体を起こす。
「んんぁ…、あかり?あ、授業終わってる??」
「おはようお寝坊さん。あんた、今日の授業も爆睡だったわね。もう最近、先生も諦めて注意しなくなってきたわよ…。」
「うわぁ、ついに認められたかぁ。」
「もう!注意されてるうちが花なんだからね!!」
それに桃花は言葉を返す。
「眠るの非推奨な場面ほど眠くなるんだよね~。現代語で言うと『逆張り』ってやつ。」
「多分ちょっと使い方違うと思うんだけど…。」
困惑した表情で応答するあかり
「でもさ桃花、今の成績じゃ卒業ヤバいんじゃないの?大丈夫?」
「そうなのよ。でも…でも耐えられないの~。だってにんげんだもの。ももか」
「人間なら、そこら辺上手くやってもらわないと困るんですけど。」
「も~、また変なこと言うじゃんあかりん。」
「あたし変な事言ってないと思うんですけど!!」
少し怒ったようにあかりは言う。
「でも安心して!私やればできる子YDKだから。可能性秘めてるから。」
「もう!まあいいわ。そういえば桃花、今日部活無いわよね?」
「うん、今日はオフ~。」
「じゃあ、帰りにまたタリーズ行こ。愛良と一緒に。」
「え!? あ~、あ、愛良最近勉強で忙しいから来れないんじゃないかなぁ?」
「え?『一緒に行こ』って言ったら『うん』って言ってたわよ?ほら。」
LINEのトーク履歴を見せてきた。
『今日帰りにタリーズでお茶しない?』
『いいよ』
『やった!じゃあ放課後集合ね!』
『あかりのクラス、HR長いでしょ。あたし先に行って場所取りしておく。』
『(ありがとうスタンプ)』
それ、私がいるって言ってないじゃん…
ほ~れんそ~、あかりちゃん…
渋々ではあるものの桃花は返事をした。
「まあ、分かったじゃあ行こっか。タリーズ。」
「おっけー!じゃあ準備しといてね!」
【タリーズコーヒー】
町内で唯一のおしゃれカフェであるタリーズ。
長野県のド田舎ではここが一番JKできる場所である。
「お待たせ~、席取りありがとね!」
「ううん、ぜんぜ…げ、桃花…」
「あははぁ…、桃花ちゃんで~す…。」
「? どうしたの?」
あかりはこういう察する能力は全然ない。
姉妹は実はお互いちょっと気まずい。ちょっとというかかなり。
いつからこうなったのかは詳しく覚えていない。
「あんた、報連相…。」
「え?桃花もいるって言ってなかったっけ?」
「言ってないし…。」
もうやめて~、と思う桃花。
「まあ、別にあんたたち双子なんだし大丈夫よね!!」
「……」
「あ~、うん!!ぜ、全然!仲が悪いとかそんなん全然無いしね!!」
全然あるけど、と思いつつも取りあえず席に座った。
「ふぅ、そろそろ夏本番だし、暑くなってきてるわね。」
「ね~。最近寝る時さ、タオルケットいらないもん。ほっぽり投げてる。」
「………ね。」
愛良の返答は基本そっけない。
桃花から愛良に話かけることはあってもその逆はない。
「よし!じゃあなんか頼もっか!!」
あかりが勢いよく立ち上がったが、
「あ~でも、3人一気に行くと荷物ヤバいんじゃない?だれか荷物番してた方が…。」
「あ、そうね。席取りまでさせちゃったし愛良にさせるわけにはいかないけど…。」
「いや別に私がや――」
愛良が言いかけたが、
「私が荷物見とくから、二人で行ってきていいわよ。」
「「え…」」
2人はシンクロした。
が、あかりの前で姉妹仲が悪い感じをできるだけ出したくない桃花。
「お、おっけ~!!あ!確か今日から和風抹茶ラテの新作が発売されてるからそれ買ってこよっか??」
「あ!あの抹茶のホイップいっぱい乗ってるやつ?」
「そ、そう!私もそれにするつもりだからあかりの分も買ってくるよ?」
一緒に買いに行くのは良いとして、あかりが買いに行ってる間も席で2人なのは気まずいためそこはやんわり回避したい。
「あたしもそれにする!!桃花ありがとね!」
「いえいえ~。」
「………」
よし!とりあえず席で2人になるのは回避!!
愛良と共に注文しに行く桃花。
「…あたしも二人と同じやつにしようかな…。だから頼んどいて。」
「え、でも愛良、抹茶嫌いじゃないっけ?」
「…別に嫌いじゃないけど」
「あ~、で、でもどうせ買うなら好きなやつ自分で選んだらどうかなぁ??」
「………」
できるだけ棘の無いように、発言には気を遣う桃花。
「じゃあ、あたしキャラメルラテにする…。」
「おっ、愛良は昔から舌がお子ちゃまだから甘いの好きだよね~。」
「は?」
あ、まずい。つ、ついいつもの調子で! 怒るか??
「…早く頼も。注文してから結構時間かかるから。」
「ああ、う、うん」
注文する二人。
作り終わるまでカウンターの前で2人で待つ。
「………」
「………」
沈黙の時間が流れる。
愛良はスマホをいじっている。
「な、なんかスイーツでも頼めば良かったかな??」
「スイーツ食べると、夕飯食べれなくなるでしょ。」
スマホの画面から目線を外さずに愛良は答える。
「でもあたし胃袋結構でかいから普通に行けると思うんだよね~。」
「…だったら頼めば」
「いやぁ~、それもありだなぁ、あはは…」
間が持たない。家でも基本口は利かないからどんな内容で話せばいいか分からない。
「ねえ知ってる?」
「…えなに豆しば?」
「フードファイターってたくさん食べるために、大食いする前に10リットルくらい水飲むんだって。」
「…へぇ」
「なんか、胃を拡張するためにつらいけど水を飲みまくるらしいよ。」
「………」
「あー、でね――」
「スペシャル抹茶ラテとキャラメルラテのお客様~」
沈黙を助けるかのように呼ばれた。
二人は席に戻っていった。
「お帰り~。おっ!超おいしそうじゃない!!」
「ね~、カロリー高そう~」
「愛良はキャラメルにしたんだ?」
「うん」
「愛良は味覚が結構子供っぽいわよね」
「え、そう?」
不満そうな愛良。
あかりにも言われてるし…ww。わ笑っちゃだめだ…w
何とかポーカーフェイスでいる桃花。
「まあそこに別に他意は無いわ。」
あかりが続ける。
「そう聞いてよ愛良。桃花ったらほとんどの授業寝てるのよ!最近は先生からも注意されなくなってきてるし…。」
「桃花はうちのクラスでも有名だよ。…本物の馬鹿がいるって。」
「あははぁ…、面目ないなぁ~。」
そのあとも会話は続き、流れであかりに勉強を教えてもらう流れに。
「二人はもう進学先は決めたの?」
「ん!? ん~、あたしはま、まだかなぁ~?」
「あたしは…」
少し言い淀って、愛良は続けた。
「東京に行く。」
少し時間が止まった気がした。
「え、なに桃花、東京行くつもりなの?」
「うん」
「え!?」
桃花が酷く驚いた。
「え、そ、それ愛良、パパに言ったの…?」
「ううん、まだ。」
「そ、そういう話は、ちゃんと相談した方がいいとおもうなぁ~、」
「今日するつもりだったの。」
「ちなみにどこ受けるつもりなの?」
「青岳」
「あ、あおがく…。」
何故か歯切れが悪い桃花。
「で、でも、どうかなぁ…? 私達みたいな田舎もんは都会だと食い物にされるって聞くし…。そんな危ないとこに行かせるのは…。」
「そんなのネットのデマだよ。あたしは全然大丈夫だし。」
「ま、まあそうなんだけどさ…」
ごにょごにょごねる桃花。
「でも、そういう話はちゃんと親にするべきね!今日帰ったらしなさいな。」
「うん。」
「………」
「よしっ!!今日はここら辺でお開きにしましょ。」
あかりと別れた。
「上京するつもりなの知らなかったよ…。」
「言ってないからね。」
「ちょ、ちょっとはお姉ちゃんに相談してくれてもよかったんじゃ…。」
「桃花に?なんで?」
「いや、その一応お姉ちゃんだし…」
「桃花は自分のこと気にした方がいいよ。大学どころか卒業も危ういんでしょ。」
「あ~、うん。そうなんだけど…。そうじゃないっていうか…。」
「?」
桃花の態度が気になる愛良。
「今日パパに言うから。それでいい?」
「う、うん」
「じゃあ、あたし寄るとこあるから、先帰っといて。」
愛良は足早に本屋へと向かっていった。
「………。こんなことになるなら、早く言っとけばよかったな…。」
昔はとても仲がいい双子姉妹だった。よく二人で遊んでたっけ。
5歳の時に母が死んだ。その時に私は決めた。
愛良は泣き虫だから、私がお母さんの代わりにしっかりしなくちゃって。
私が面倒を見てあげなくちゃって。だってお姉ちゃんだもん。
でも、それが良くなかったのかなぁ。
私は、中学に入るとバドミントンに熱中した。
元々勉強はあんまり好きじゃなかったし、成績はみるみる落ちていった。
それまで一緒にやってた宿題もやらなくなって、不良少女のようになっていった。
多分そこからだ。愛良と微妙な関係になったのは。
彼女はきっと失望したんだろう。
優秀な自分と、無能な姉を比べて。
だからこの話が来た時に、チャンスだと思った。
『ももがぁ~、おめでどぉ~!!』
『ちょ皆泣き過ぎだって。優勝してないし、3位だし…』
『でもインターハイだよ!?全国3位だよ!!がっごよがったぁ~!!』
『あははぁ…』
『お取込み中すみません。私、青岳学院大学でバドミントン部のコーチをしております田山と申します。ぜひ二藤さんを我が校で――』
この話を受ければ、愛良にはもう迷惑をかけずに済むかもしれない。
私がいなければもっと笑顔が増えて、充実した毎日を送れるかもしれない。
彼女は優秀だから、きっと大丈夫。
もう私がいなくてもあかりと一緒に楽しく学校生活を送れる。
そう思ってこの話を受けた。
なのに…。
でも大丈夫。私はお姉ちゃんだから。愛良を大切にしないと。
「お姉ちゃんだから…」
本屋の受験本コーナーに立つ愛良
「青岳…」
手に取るのは、青岳学院大学の赤本。
まだ決めあぐねていたが、つい勢いで言ってしまった。
「うん。今からしっかり勉強すればいけるよね…。」
「ただいまー」
「おかえり愛良。今日は桃花より遅いんだね。」
「うん、本屋に寄ってきたから。」
「そうか。あと一時間くらいで夕飯だからね」
「はーい」
自室に戻ろうとする愛良。
「あ!!夕飯より先にシャワー浴びときなさい!!後が混むから!」
「はーい!!」
三人で夕飯を食べている。
「いただきまーす。お、今日はパスタか~。あたし最近ミートソースに凝ってるんだよね~」
「ソースは結構時間かけて煮込んだんだぞ~。」
「パパ天才。大卒。」
料理は父の担当。
食べ進める3人。そしておもむろに愛良が口を開いた。
「ねえ、パパ。進路のことなんだけど…。あたし東京の大学に行きたい。」
正直怖かった。反対される可能性はあったから。しかし、
「まあ、こんな田舎にはずっとはいないよねぇ~。」
寂しそうにしていたけれど、笑顔だった。
「いいよ。でも住むところやお金に関しては今後しっかり話し合おう。ね?」
「うん。」
嬉しかった。自分を否定しないでくれたのが。
「ちなみに志望校とかは決めてるのかい?」
「青岳…。」
「お、ほんとか!?」
父が嬉しそうにした。そして、桃花がビクッと体を震わせた。
「じゃあ来年から二人とも青岳生だね!?」
「は?」
え?二人とも…? どういうこと? 桃花が? なんで?
「あれ?聞いてないのかい?桃花もスポーツ推薦で来年から青岳に通うんだよ~!」
「え、え?」
真顔で隣の桃花に顔を向ける愛良。
「あ~、えーと、ド、ドッキリ大成功~、的な…。あはは…」
そこからの会話はよく覚えていない。でも桃花を問い詰めないとって強く思った。
三階の自室前の廊下に上がるとすぐに、
「どういうことよ!!!」
胸ぐらを掴み、壁に強く桃花を押しつけながら聞いた。
「ちょ、あ、愛良、い痛いよ、とりあえず離して。ね?いったん落ち着こ?」
「そんな話聞いてないし!!!」
「い、いや、言ってないから…。」
「なんで言わなかったのよ!?」
「そ、そのタイミングが…」
「いつ決まってたの?」
「去年のインターハイの後。青岳の人からどうかって話が…。」
「そんな前から話が進んでたなら、もっと早く言えたでしょ!!」
「うん…。ごめん。」
しょんぼりしている桃花。
「ほ、ほんとにちゃんと伝えるつもりだったんだよ!!」
「じゃあなんで今日の夕方に言わなかったの!?あの時言えたでしょ!?」
愛良は続ける。
「内心馬鹿にしてたんでしょ!?『凡人は可哀そうだな』って!!」
「そんなことしてない!ただ…。で、でも愛良が嫌なら推薦は断るし…。だから…」
「断れなんて言ってない…。」
「………。」
「ッ、もういい!!」
話を強引に切り上げて愛良は部屋に帰っていった。
廊下の壁に寄り掛かったままポツンと取り残された桃花。
「はぁ…。なんでこうなっちゃうんだろ…。」
小さく呟いた。
結局、二人の溝は埋まらず、2か月が過ぎ、気が付けば夏休みだった。
リビングで勉していると、あかりからLINEが来た。
『ねえ、明日桃花の大会があるんだけど、一緒に行かない?』
『えー、うーん。』
『桃花は県予選を突破して、明日は北信越大会なのよ』
『へー』
『去年のインターハイで3位になってるから、みんなが大注目なの』
「まあ、そりゃね…。」
学校にあれだけ大きく垂れ幕あったらね。
【祝 二藤桃花さん バドミントン部 インターハイ3位入賞おめでとう!】
「………。」
その垂れ幕を見るのは正直、気分は良くないけどね。
『でも、あたし受験勉強忙しいし、無理。』
『たまには息抜きも必要だよ?あたしも受験生だし、多分大丈夫!!』
『んー、分かった。行く。』
『やった!じゃあ準備しておいてね!会場は暑いから。』
『はーい』
「暑いのか…。やだな。」
大会当日になった。会場の体育館に着いた。
「暑い…。最悪。」
「バドミントンの大会は、空調をつけられないのよ。風でハネが煽られるから。だから密室で、クーラー無しなの。」
「ヤバい競技じゃん…。」
「お、そろそろ桃花の試合始まるわ!」
「ん。」
二階のギャラリーから試合を見守る二人。
へ~。いつもふざけてるけど、こういう時は真剣な顔してんじゃん。
「………。」
ぼーっと試合を眺めている愛良。
姉は昔から要領のいい人だった。
文武両道でスポーツも勉強も一番。自慢の姉だった。
小さい頃は神童だとよく言われていた。
でも中学生になったころからだろうか。姉は少し変わった。
彼女は全く勉強に身を入れなくなった。
本人は「中学からの勉強は難しくてね~。いやぁ~、上手くいかないもんですな~」と笑って言っていたが、私は知っている。
彼女は優しい人だから。気の使える人だから。
要領の悪い私に合わせたのだ。「できないのは私だけではない」と思わせるために。
それに気づくと徐々に姉と顔を合わせづらくなった。
きまずい空気が流れるようになったのはこのせいだ。
そして高校に入ると、痛感した。私には何も無いんだと。
私たちは同じ高校に入らざるを得なかった。
幸い、どれだけ要領が悪くても勉強はある程度のところまでは行けた。
でもどれだけ頑張っても上位40位程度。所詮それが私の限界だった。
どれだけ頑張ろうと、ちょっと勉強ができるだけの有象無象。それが私。
『賞状、1年2組、二藤桃花さん。北信越大会出場おめでとうございます。』
「え、すごーい一年で? あれ三年も出てるでしょ?」
「え、じゃあ将来日本代表とかになれるのかな?」
「今のうちにサイン貰っとこうかなぁ~?」
「………」
悔しかった。いや、悔しいと思ってしまった。
自分もこうなりたいと思ってしまった。
有象無象ではない特別に。
「おい!聞いたか、3組の二藤、五科目平均で19点だってよ!」
「まじ!? 20点切ってるのかよ!」
………。桃花はやらないだけ。
ちゃんとやれば、あんたたちなんかより、よっぽど優秀だから。
「よ~し!!今回は桃花ちゃんテスト頑張っちゃうぞぉ~!数学だけ。」
「あー、あんた数学が一番ヤバいんだっけ?」
「うん、なんかこれ以上テストで赤点取ると留年らしいんだよね。たすけてぇ~! あかペン先生~!!」
「もうしょうがないわね!え、今何先生って言った?」
桃花、今回本気でやるんだ…。
数学。あたしも頑張ろっかな…。
「二藤愛良、二藤愛良…。あった、」
【7位 二藤桃花 8位 原玲 9位 田中三依 10位――】
やった。今回は凄く良くできた。自己ベスト…。
………桃花はどうなんだろう。
「二藤桃花、二藤桃花…。え」
【1位 高橋あかり 2位 守谷雄介 3位 二藤桃花 4位――】
「ィヤッタァー!!留年回避だぁ~!!」
「あんた、ほんとにやればできるのね…。」
「いやぁ、あかペン先生のおかげですよぉ」
「それやめて」
ああ、私はなんて傲慢なんだろう。勝てるかもと思ってしまった。
もしかしたらと、淡い期待を抱いてしまった。。
私は『二藤愛良』なのに。『二藤桃花』じゃないのに…。
憂うべきは、才能の欠如じゃない。
半端な才能を過信して、虚しく藻掻く愚かさにこそあるんだ――
まあ、私は『二藤愛良』として18年生きてきてるからね。
もう自分の限界値はなんとなく分かる。でも、それでも…。
願わずにはいられない。いつか、いつか手が届くんじゃないかって。
「あ、試合終わってるし…。」
物思いに耽っていたら試合が終わっていた。
「ちょっと、ぼーっとしすぎ」
「あ、ごめん」
「そういえばさ――」
「あんた達、まだ喧嘩中なの?」
「え」
「気付かないと思った?いつも若干険悪ムードだけど、ここ最近は特によ」
「気付いてたんだ…。」
「何年幼馴染やってると思ってんの?」
「………。あかりはどうしたらいいと思う?」
「はぁ…。あんたね…。どうしたらいいか、もう自分で分かってるからここに応援しに来たんじゃないの?」
図星だった。
話し合うべきだと思ったから、ここまで来たんだ。
そのきっかけがないから、それを探しに。
「とにかく、卒業目までに何とかしてよね。一緒に3人で卒業旅行とか行きたいし。」
「うん。」
第2試合目が始まった。
「ねえ、バドミントンってどうやったら勝ちなの?」
「1セット21点。それで2セット先取で勝ちね。」
「へー」
試合は続き、デュ―スで2セット目を落としてしまった。
「あちゃ~。」
「何やってんのよあいつ…。」
本気でやってるように見えないんだけど。普段よりちんたらしてる気がする。
あいつわざと負けようとか思ってないわよね…。
『愛良が嫌なら推薦は断るし――』
「まさか」
「?」
ここで敗退すれば、推薦の話が白紙になるとか思ってないわよね?
「~!」
3セット目も試合は続き、
16―17の接戦に。
「あ!」
16―18に。桃花が押されている。
いろんな思いが押し寄せてきて、つい
「もぉーーー!!!」
「桃花ぁ!!!真面目にやりなさぁあああああい!!!!」
かなり大きな声が出た。
「あんた全国3位なんでしょ!! 私のことはどうでもいいから、本気でやれぇええええーーーー!!!」
他にも声援はあるのに、なぜかよく響いた。
一瞬無音になった気がした。
「あ」
会場の視線が自分に集まってくるのが分かる。
思わず恥ずかしくなり、愛良は顔を手で覆った。
「あれ?愛良?応援来てたんだ…。」
「桃花ぁー!負けんじゃないわよー!」
あかりも大声で呼びかけた。
桃花は少しニヤッとして、再び試合に集中した。
そこからはキレキレの動きで、相手に一点も与えずに21―18で勝利した。
「「やった!!」」
応援していた2人は自分のことのように喜んだ。
「多分この後、ちょっと時間あるから、桃花と話せるわよ。行こ!」
「う、うん」
桃花が二階のギャラリーにやって来た。
「桃花!」
「お!応援団長のあかりんさんや~」
「何言ってんの!今日の応援団長はこっち!」
グイっと背中を押された。
「え!? ああ、うん。3回戦進出おめでと。」
「え、あ、ありがと…。」
「………」
「………」
「あ、あんた、なんであんなにダラダラやってたのよ。本気出してなかった…。」
「あ~、えーと…。」
困ったように、頭を掻いた桃花
「バドミントンの大会って、一日に何戦もするんだよね~。だから体力温存のために、ちょっと抑えめにプレイするのが普通なの…。やぁ~、バドって結構疲れるんだよね~。ま、まあ、2セット目取られたのは私のミスなんだけど…。」
「え、あ、そうなんだ…。」
早とちりだった。
そういう作戦なのに、勝手に勘違いして勝手に一人で盛り上がってしまった。
恥ずかしくて顔を真っ赤にしている愛良。
「でも!応援超嬉しかったよ!! めっちゃ響いた!」
満面の笑みで桃花は言った。
あ、ここだ。ここしかない。ここを逃したらもうずっとこのままだ。
踏み出そう。私たちのために。
「きょっ!今日優勝したらスタバおごってあげる…。交通費も私が出したげる。サイズも一番大きいのでもいいよ。スイーツもつけていいから…。」
恥ずかしそうに言った。
「愛良…。」
ホントは分かってた。ただ逃げてるだけだって。
正面からぶつかるのが怖かっただけだって。
愛良のことを大切にしたい、その思いに嘘はない。でもそんなの言い訳だ。
対話を拒否する理由にはならない。
愛良は歩み寄ってくれた。こんな私に。応戦までしてくれて。
だから答えないと。
「ありがとう愛良。」
真面目な顔で正面から伝えた。
「あとちなみにね。」
桃花はニヤッと笑って
「今日は準々決勝までで、準決と決勝は明日だから、今日優勝は無理だよ?(笑)」
「~!!」
今日何回恥をかけばいいんだろう。
「じゃ、じゃあ明日!明日優勝したら!!」
「おっけ~!財布空にしてあげるから覚悟しとけ!!」
「! の、望むとこよ!! あたし結構貯金あるから!!」
「あ!コーチ呼んでるからそろそろ行くね!この後も応援よろしく!」
足早にコーチのところへ駆けて行った。
「もう大丈夫みたいね。」
「うん」
結果、その日は見事に準決勝進出を決めた。
翌日夜 リビング
「今日は桃花の準優勝祝いで、寿司頼んだぞ~」
届いた大皿を机に置く父。
結局桃花は準優勝だった。
「あんた、そこは優勝しなさいよ…。」
「あははぁ…。面目ない…。」
あれだけ感動的だったのに、結局あの話は無しになったのでお互い恥ずかしい。
「いやぁ、おしっこと一緒でさ。見られてると出ないって言うか…。本気が…。」
「何言ってんのよもう…。」
意味の分からない言い訳に困惑する愛良。そして続けて、
「…明日、暇ならスタバ行く? 別におごらないけど。」
「! 行く! そこはおごって欲しいけど!」
他愛もない会話を繰り返しながら、食べ進めた。
「よしっ。じゃあ二人の上京について少し話してもいいかな?仲直りはできたみたいだしね。」
あかりにもお見通しだったのであれば、当然父にもお見通しだったようだ。
「住む場所やお金についてなんだけど…。どうかな?二人で住むってのは。家賃や生活費は折半。東京は物価が高いから収入源が2つあるってのは、こっちとしてはかなり安心だ。そして仕送りは二人分送るつもり。それに一緒に登校もできるしね!」
「桃花がいいなら、私は良いけど…」
「うん!私も全然おっけー!!」
「あ、でも桃花。そのためにはまずは卒業しないとでしょ。桃花はやれば私よりできるんだから、ちゃんと勉強しないさいよね。」
「め、めんどくさいなぁ~。」
「なら私一人で東京行くから。別にいいけど。」
「いやぁでも、世間知らずの泣き虫愛良ちゃんにはお姉ちゃんが必要でしょうよ~。」
「お姉ちゃんズラしないで。私達双子なんだから。」
「あ~、でも私はもうスポーツ推薦決まってるからいいけど、愛良は落ちたら東京行けないんじゃなぁ~い?」
「! ま、まあそうだけど…。ていうか今から縁起の悪いこと言わないで。」
言い争ってはいるが、今までのような険悪な雰囲気はそこにはなかった。
まるで昔の仲良し姉妹に戻ったようだった。
高校を卒業し、いよいよ上京当日。
新幹線のホームであかりと別れの挨拶を済ませている。
「じゃあね、二人とも。大学楽しくてもちょっとは連絡しなさいよね。あと、お盆になったらちゃんと帰ってくること。それとお金の貸し借りには気を付けるのよ。あーそれと、頼る人がいなかったら私をちゃんと頼ること。それから――」
「長いぃ。~しなさいよBOTになってるじゃんよ~。」
「心配してるから言ってんの!」
「大丈夫だよあかり、ちゃんと管理するから」
「か、管理…??」
怯える桃花。
「お父さんとはいいの?」
「うん、もう済ませてるから。」
「そっか。さあ、早く乗っちゃいなさい。乗り遅れたらシャレになんないから。」
「うん、じゃあねあかり。」
「またすぐに帰ってくるから!!」
新幹線に乗り込む二人。そして発車する。
最後まであかりは手を振っていた。
「ねえ、東京行ったら何したい?」
「竹下通りに行きたい。あとクレープも食べたい。」
「出たなぁ~!!このおこちゃま舌がぁ~!!」
初投稿です。
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