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ゴブリンの呪い

 僕はゴブリン、まだ名前もついていない。


 僕らはここの塔に住んでいる。


 ご先祖さまが犯した罪を僕ら子孫が償っている。



 僕らは増えすぎた、ただそれだけの理由。


 僕らは毎日を一生懸命にいきていた。


 ご飯は足りない。


 毎日のように仲間が増えるから、


 食料は毎日決まった量を塔のカンリシャから受け取った。


 仲間が増える度、日に日に食べる量が減っていく。


 小さな器に水みたいな粥を取り分ける。



 明日は兄が決闘に行く。


 ”人族”そう呼ばれる敵がこの塔に時々やってくる。



 決闘には2つの選択が用意される。


 一つは、”人族”を殺す事が出来たら僕たち塔のゴブリンは全員解放されるチャンス。


 もう一つは、勝敗に関わらず身内一人だけを塔の外に出すことができる。


 僕が生まれてからは、決闘はいつも誰かが犠牲になって一人も外に出たことはない。



 僕ら兄弟は考えた。


 どちらかが戦士に選ばれたら、もう一人を塔から出して塔の外から仲間の手助けをする。


 ずっと昔に決めた約束。


 兄は戦士に選ばれた。


 僕ら二人は視線を合わせてうなずきあった。



 そしてその時は訪れた。

 (カンリシャ)に道を指し示す。


「弟に自由を!」


 仲間はみんな驚いている。


 全員が解放される機会を捨てて、親族だけを逃がすなんて、


 裏切者が! 皆口々にいう。


 仲間のはずが、皆殺気だっている。



 兄は僕の背中に手を置いて、後は任せたと遺言を僕に託した。



 兄の手にはボロボロの切れないナイフが握られている。


 他の皆にはそんなもの腹の足しにもならないと言われ続けた。


 毎日食事を我慢し、神と交渉し手に入れた、僕と兄の命を削って手に入れたナイフ。



 食事もまともに取っていない兄はふらふらと決闘場へ歩いていく。


 兄はその小さな身体で強大な敵の前に一歩一歩ゆっくりと進んでいく。



 その姿を僕らは影から見守った。



 打ち合って一合、勝負はついていた。


 兄の腕はナイフごと吹き飛び。


 細い腕は跡形もない。


 肩に繋がる筋と骨、飛び散る肉片と地面を濡らす鮮やかな血。


 兄の目には人族への恨みなど無い。


 自分への境遇とこれからを照らす希望を見届けることが出来ないくやしさに溢れている。


 それでもまだ兄はあきらめていない。


 そんな姿をみて仲間たちは呆然としている。


 その姿は身内だけを生かそうとする裏切者の姿ではなく、相手を必死に打ち滅ぼさんとする気迫を身にまとった英雄のようだと。


 兄は必死に起き上がろうとする。


「兄サン!!立つンダ!!」


 透明な魔法障壁に遮られて兄さんには僕の声など聞こえないだろう。


 その時、兄さんと対峙した”人族”が兄さんの後ろにいる僕の事を見つめた。


 物悲しい目は僕を捉えて離さない。


「殺してヤル!!かかってコイ!!」


 いつしか仲間も、届くことのない声援を兄の姿に向けていた。



 みんなはきっと気付いてる。


 種族全員が解放されるため、訪れる”人族”に勝つため必要な事。


 身体を鍛え、技を磨き、装備を整え、種族全員の協力で敵を打ちのめす。



 それはできるだろうか、いや、出来るわけがない。



 食料の量は満足な量はなく、塔の外からの支援もない。



 食事の量は変わらずに日に日に仲間だけは増えていく。


 身体は皆痩せ細り、衰弱し、死んでいく。



 食料の配分で争いが起きてケガをして死んでいく。



 仲間の数が減り、食料が相対的に増えれば、また仲間を増やす。



 塔に閉じ込められるカンリシャに掛けられた呪いよりも、この身体の方がよっぽど業の深い呪いだろう。



 兄は起き上がることはなかった。


 兄を殺した”人族”は塔の外へ出ていった。


 しばらくして”人族”が立ち去った決闘場への魔法障壁が解除された


 僕は一歩踏み出した。


 兄の亡骸は無残なものだった。


 ふたりの食事を削って得た、壊れたナイフの破片を拾い上げる。



 これは兄さんが生きた証、魂が失われても、兄さんは僕の中に生き続ける。




 さぁ、これからが本当の戦いだ、誰も味方なんていない。


 誰一人仲間なんか居ない。


 塔の外の世界がどうなっているかなんて知らない。


 塔に縛られた仲間を助けるんだ。


 兄さんが作ってくれた道を僕は進み続ける。


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