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隻眼皇帝の一目惚れ  作者: ひよこ
8/11

08 月光アリシアside

アリシアは靴を脱ぎ、解放された足をプラプラしながら夜空を見上げていた。気分は最高だ。ここには誰もいない。ヒソヒソと陰口をいう令嬢も、気を使わなけれないけない貴族たちも、家族もメイドもいない。完全に一人きり。気分が上がってしまうのは仕方がないだろう。空を見上げると月がキラキラと輝いている。自然と鼻歌を歌っていた。こんな時間がずっと続けばいいのに。そう思ってしまうのは仕方がないだろう。

アリシアはベンチから立ち上がり、噴水の淵を歩き始めた。バランスと取りながらゆっくり歩く。足の裏がひんやりとして気持ちがいい。たまに噴水の水がかかる。ドレスが濡れてしまうかもと考えたが、そんな考えはすぐになくなった。

(気持ちがいい。ここが皇室の庭園じゃなければ毎日でも通いたいわ)

夜風で自分の髪が流れるのがわかる。それすら気持ちがいい。

アリシアの歩調はゆっくりから次第にステップに変わっていった。

そよそよと風が吹く。ふと視線を横にずらすと一人の男性がいた。

(全く気づかなかったわ。鼻歌を歌ってスキップなんて恥ずかしい!)

アリシアは内心羞恥心に見舞われていた。だが、自分は公爵令嬢である。特技はポーカーフェイスだ。平然を装ってその男性に声をかけた。

「あら?こんばんわ」

相手からの返事はない。

(聞こえなかったのかしら。ここにいるということは舞踏会に参加していた方よね?薄暗くて顔がよく見えないわ)

「こんばんわ?」

噴水の淵から降り、男性に近づきながらもう一度声をかけると、その男性はハッとしたようだった。

「!こんばんわ。」

よかった。返事を返してくれた。アリシアは信じていないが、見てはいけないものかもしれないという考えが頭をよぎっていたのだ。もう一度いうがアリシアはそういう存在は信じていない。

「ここ、とても素敵なところですよね。あなたも休憩にいらしたの?」

この場所はとても素敵なところだ。自然と心が穏やかになっていたからか、話し方がいつもより穏やかになってしまった。

「・・・・いだ。」

「え?」

何を言ったのか聞き取れなかった。すぐに聞き返したが、相手がすぐに謝ってきたのであえて聞くことはしなかった。

せっかく一人きりでいたのに、吹き抜ける風も足の裏のひんやりとした感覚もとても気持ちよかったのに、会場に戻らなければいけないのか。・・・ん?

(あ!私ったら裸足だったの忘れてたわ!噴水の周りを浮かれていたのを見られてしまっただけでなく、裸足だったことも知られてしまったら恥ずかしすぎる!)

咄嗟に靴を取りに行こうと一歩出そうとした時、ぐっと手を掴まれた。

(え?・・・なんなの?)

何か失礼なことをしてしまったのか、何か言いたいことがあるのか。相手が話し出すのを待つ。

(もしかして入ってはいけない場所だったのかしら?でも、入場のときに自由に見学していいって言われたし・・・。)

しかし、しばらく待ってみたが相手から反応はない。

「あのー・・・。」

「あの、どなたかは分かりませんが、手を離してもらえますか?」

そう問いかけると男性は急いで手を離してくれた。そこでアリシアは初めて男性の顔を見た。綺麗に整った顔にある一際目立つ眼帯。じっと見てしまったのがいけなかったのっか、男性が顔を隠したまま下を向いてしまった。

(もう少し見てみたい。)

「その眼帯、とてもおしゃれですわね!」

見たい一心でそう声をかける。男性は驚いたように勢いよく顔を上げたのでびっくりしてしまった。顔を上げてくれたので思う存分見る。左目を覆うように黒っぽい眼帯をつけている。隠れていない方の目はどうやら赤い瞳のようだ。さっきは眼帯にしか目がいかなかったが、まじまじと顔を見るととてもよく似合っている。むしろ、眼帯をつけることでミステリアスな雰囲気になり、彼の魅力を引き出しているように見える。

「やっぱり!一瞬しか見られませんでしたが、とてもかっこいいですわね!」

眼帯ではなく彼が。とは少しの羞恥心のせいで口にはできなかったが。

(この方はどなたなんでしょう・・・。)

と考えたところで自分も名乗っていなかったことを思い出した。

自己紹介をして、淑女の礼をする。お母様に来られたので綺麗なカーテンシーだったと思う。なのに相手は無言を貫いている。流石にどうしたらいいのかわからなくなり、そわそわしてしまった。そんなアリシアの様子を見て彼は「フォード」と名乗ってくれた。あえて家名を言わないのは何故なんだろうと疑問に思ったが、それぞれの事象があるだろうとあえて気にしてないふりをした。

遠くの方で鐘の音が聞こえてきた。そろそろお兄様を救出に行かないとまずいなと考えて、その場を後にすることにした。もちろん。ずっと置きっぱなしだった靴を途中で拾うことを忘れずに。アリシアはフォードことアランフォードが見えなくなるまで自分を見ていることなど気づかなかった。

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