05 兄弟
「帝国の太陽、皇帝陛下!帝国の月、皇后陛下!帝国の若き太陽、皇太子殿下・皇子殿下のご入場です!」
そんな案内に次いで2階のバルコニーに陛下達が入場してきた。
貴族達は手を止め、最大の敬意を表すお辞儀をした。
「皆の者。面をあげなさい。今日は舞踏会だ。堅苦しいのはなしにしよう。楽しんでくれ。」
陛下の言葉に貴族達は顔をあげた。2階の皇族専用のバルコニーにいるのは、ハイウェル・バロン・アストロフ皇帝陛下、イメルダ・フォーブス・アストロフ皇后陛下、アランフォード・リンゼイ・アストロフ皇太子殿下、アーネスト・グラハム・アストロフ皇子殿下の4人である。その中でも貴族達の視線が一人に集まっていた。
アランフォード・リンゼイ・アストロフ皇太子殿下。皇帝陛下に似た黒髪に赤い瞳を持っているが、異彩を放って見えるのは、左目の眼帯であろう。その眼帯の下には見るのも悍ましい眼が隠されているという噂が貴族の間で囁かれている。皇太子殿下は普段は公の場に出ることはない。そんな殿下が久しぶりに出てきたのだ。恐ろしいが、好奇心が勝ってしまいついジロジロ見てしまう。そんな貴族達の様子を見たアランフォードは目を細めて会場を見渡した。目線が合いそうになると一斉に視線を下げる貴族達に悪態をつきそうになる。
「アラン。」
「はい。陛下。」
皇帝に名前を呼ばれ、顔を見た。ハイウェルは白髪混じりの黒髪をしており、その顔に刻まれたシワも彼の威厳を表しているかのようである。アランフォードと同じ赤い瞳には思慮深さも現れており、自分と同じ色の瞳なのに自分のと全く違って見える。
「今まではとやかく言わなかったが、そろそろ婚約者を探しなさい。」
「はい。わかっています。」
「ならいいが。それなら会場に行きなさい。」
「・・・わかりました。」
アランフォードはハイウェルに一度お辞儀をしてその場を離れた。
「兄上!」
名前を呼ばれて振り返ると弟のアーネストが早足で追いかけてきた。
「どうした?」
「兄上と一緒に会場に行くように母上に言われました!僕もご一緒します」
アーネストはニコニコと隣に並んで歩き出した。弟であるアーネストは母に似た容姿をしてる。金髪はサラサラと揺れ、人懐っこい笑顔で周りの人たちを魅了している。
「俺と一緒でいいのか。」
「兄上と一緒がいいのです!」
ニコニコとそう言われてしまうと何も言い返せない。
アランフォードはその見た目のせいで普通に話しかけてくる人は少ない。城の中を歩けば、使用人達からは恐れられ、話しかけようものなら恐怖から泣き出してしまう人もいる。アランフォードを恐れずに接してくれる数少ない人物の内の一人がアーネストである。アーネストは昔から自分の後ろをひょこひょこと付いてくるのでアランフォードもかなり可愛がっている。ここだけの話、アランフォードはブラコンである。シリルが引くほどブラコンである。そんなアーネストに一緒がいいと言われてアランフォードも満更ではない。
「兄上はどんな女性を選ばれるのですか?」
いきなりアーネストにそう言われ内心驚いた。
「どんなと言われてもな・・・。」
「兄上に合う女性ですから才色兼備でなければなりませんね!」
隣であーでもないこーでもないと自分の婚約者について意見を述べているアーネストを横目に、実際自分はどのような女性が良いのか考える。
(あの子と比べてしまったらどの女性も物足りないのだろうな。この見た目では好意的に接してくれる女性も少ないだろう。なら・・・)
「強いて言うのであれば、自分の見た目を恐れずに接してくれる女性だと嬉しいな。」
アランフォードがそう言うとアーネストは立ち止まり。悲しそうな表情を浮かべる。しばらくの静寂の後、気を取り直したアーネストが口を開いた。
「きっといますよ!兄上は魅力に溢れているのですから!」
「そうだといいな。」
アーネストに笑いかけながら返事をして会場へと足を進める。
魅力。自分の魅力とはなんだろうか。地位くらいしか思い浮かばないが、隣で舞踏会が楽しみで仕方ないという様子のアーネストを見たら、どうでもよくなってしまった。
(国ため、自分を慕ってくれる弟のため、良い婚約者を探さなければな)
そんなことを考えたら前向きに舞踏会に参加してみようという気になってきた。




