02 初恋の君
皇室の一室でアランフォードは空を見上げていた。あの日も確か、今日みたいに雲一つない空だった。
「・・・か。・・・・・んか。」
陽の光に反射して輝く髪を持った美しい少女と出会った日。あの少女に出会わなければ今ここにはいないだろう。
(あの少女は今どこにいてなにをしているのだろうか・・・。)
自分の心を掬い上げてくれた少女。美しい銀髪の少女。
「殿下!」
「っ!・・・シリル・・・。」
「どうしたのですか?ぼーっとして。また初恋の君を思い出していたのですか?」
「そ!そんなことない!」
「はいはい。初恋の君に想いを寄せるのは結構ですが、仕事はしてもらわなければなりません。」
と、言いながら執務室の机にどーんと大量の書類を持ってきた。
「近々、舞踏会も開かれます。それまでには目を通しておいでください。決済が必要なものもありますので。」
淡々と仕事の話をするのは幼馴染でありこの国の次期宰相であるシリル・グレアムである。グレアム公爵家の子息であり、アランフォードが幼い頃からの友人。いわゆる幼馴染というものである。
「舞踏会・・・。」
「そんな嫌そうな顔されないでください。」
思わず自分の顔を触った。そんなに嫌そうな顔をしていただろうか。シリルは続けて言った。
「初恋の君はあの日以来、全く姿を見せずにいます。貴族令嬢であれば必ず社交界に顔を出します。最低でもデビュタントがあるはずです。ですが、いなかった。どういうことかわかりますよね?」
シリルの問いかけに何も答えられずにいた。幼少期にあった舞踏会に参加し、その後の社交の場に出てこない。貴族は貴族同時の繋がりを大切にする。幼いと言っても貴族に生まれたからには家同士の繋がりを保つために、最低限の交流をもつことが暗黙の了解となっている。それなのにあの日の舞踏会からいっさい姿を見せず、公の場に現れない。つまりは、身分を剥奪され平民になったか、あるいは国外追放か・・・。
「殿下。申し上げにくいですが、そろそろ現実を見なくてはなりません。帝国のためにご結婚をしなければならないのです。ですから・・・」
「わかっている。」
そう。わかっているのだ。ここまで探し求めて、少しの手がかりもつかないのだ。諦めるしかない。だが・・・。
「わかっているのだが・・・。」
わかっているのだが、あの日に会った少女が忘れられない。
自分を救ってくれた少女。あの時の自分は生きることを諦めていた。自分の価値がわからず、もうこの世にいることを諦めていた時に出会った少女。彼女がいたから今の自分がいるのだ。そう簡単に忘れられるはずがない。
アランフォードの心情を察したシリルは大きなため息をつき
「今すぐに初恋の君を忘れて婚約者を探せとは言っていません。少しずつ他の女性を見てもいいのではないでしょうか。」
「・・・。」
「とりあえず、次の舞踏会に参加してみて下さい。」
そのシリルの言葉にも無言を貫いた。過去を引きずってはいけない。未来を見なければいけない。わかっているが気分が進まないのは、あまりにも自分の中の銀髪のあの少女の姿が脳裏にチラつくからである。しかし、帝国のためには結婚、世継ぎを授からなけれなならない。気分は乗らないが、次の舞踏会は少し会場にいる女性に目を向けてみようかなと思った。
アランフォードから返事がないということを察したシリルは話題を変え、急ぎの議案を話し始めた。




