11 憂鬱なお茶会
アリシアとエドガーは母シルヴィアに髪のことについて聞きに行こうと約束して数日が経った。タイミング悪くシルヴィアが父ジェームズと一緒に領地の視察に行ってしまって聞くに聞けずにいた。そんな中アリシアにはお茶会の招待状が届いた。はっきり言って参加したくはないのだが、そんなわけにはいかない。
(お茶会のお誘いが来たら参加しなさいってお母様から言われてるから、欠席するわけにはいかないわ。)
アリシアは常日頃からシルヴィアに”淑女たれ”と言われている。お茶会での他の令嬢との交流もその一つだ。
「ナタリー出かける用意をお願い。」
「かしこまりました。」
なんにせよ今回のお茶会もきっと退屈だろう。そんなことを考えながら、ノロノロと準備を進めた。
お茶会の会場につき、馬車から降りると
「ごきげんよう。アリシア様。本日はお越しくださって嬉しいですわ!」
今回お茶会の主催者、エリザベス・キャンベル侯爵令嬢が話しかけてきた。
「ごきげんよう。エリザベス様。この度はお誘いいただきまして嬉しいですわ。」
ニコッとしながら返事を返す。
「お席にご案内いたしますわ。」
アリシアはエリザベスの後ろについてサロンに入っていった。
サロンに着くとすでに何人かの令嬢がすでに席につき談笑していた。そのうちの一つのテーブルに案内された。
「ごきげんよう。クランシー侯爵令嬢様。」
このお茶会に来ている令嬢の中でアリシアが一番身分が高い。身分の低い者から挨拶をすると言うマナーに従ってテーブルにすでにいた令嬢たちが挨拶をしてきた。
「皆様ごきげんよう。」
アリシアも挨拶をして、席に着く。アリシアが席についたのを確認し他の令嬢たちも席に着く。お茶会に招待されている人はアリシアが最後だったようで、エリザベスの挨拶でお茶会が始まった。令嬢たちは身につけている装飾品やドレス、噂話などで盛り上がる。アリシアは時々相槌を打ちながら聞き役に徹した。
「アリシア様?この前の舞踏会でエドガー様とダンスをしたのですが、その・・・。」
隣に座っていたレラ・ブレット伯爵令嬢が話しかけてきた。レラの顔を見るとほんのりと頬が染まっている。
「レラ様?どうなさったの?」
「その・・・。何か言っておられませんでしたか?」
(!この子お兄様が好きなのね。舞踏会のことは私がお兄様から逃げたことしか聞いていないわ・・・。)
アリシアが返答に困っていると、その話が聞こえていたのかキャサリン・パンフリー伯爵令嬢が
「あら?エドガー様とは私も踊りましたわ。何か言うとは一体なんのことですの?ダンスがお下手だった・・・とかかしら?」
キャサリンがそういうとテーブルにいた人たちがレラとアリシアを見た。
「それとも、エドガー様があなたのことを気に入ったのか聞きたかったのかしら?」
「そ!それは・・・。」
レラは顔を赤くし俯き、何も話さなくなってしまった。
「たった一度踊っただけで何かあるなんて・・・。そんなことがあったら皆もうすでに結婚しているはずですわ。」
キャサリンはさらに続ける。
「ダンスをして、その上でお茶会などに誘われてからお話しするのがよろしくてよ?」
流石に言い過ぎだ。レラは涙を堪えている。
「キャサリン様。」
「あら、アリシア様。なんですの?」
キャサリンは普段からアリシアの発言や行動につっかかってくる。何故かはわからないが普段はめんどくさくて相手にしていない。相手にされないことをいいことにキャサリンはアリシアを下に見ている。今もニヤつきながらこちらを見ているキャサリン。
(どうせ言い返してこないと思っているのでしょうね。)
いつもは自分のことについて言ってくるが、今回は違う。
「私はレラ様とお話をしていましたわ。」
「えぇ。知っていますわ。」
アリシアは紅茶を一口飲む。
「わからないのですか?5歳の子供でもわかる常識ですわよ。」
「!」
キャサリンはカッとして顔が赤くなる。
「バカにしていますの!」
「いいえ?では、キャサリン様にもわかるように言い換えますわね。」
アリシアはゆっくりとキャサリンと目を合わせる。
「”公爵”令嬢が話していたところを”伯爵”令嬢が話を割って入ってきた。そういえばわかるかしら?」
「!」
キャサリンはハッとする。自分より身分の高い人の話を遮ってはいけないと言うマナーが貴族の中では暗黙の了解である。話を遮る行為はその人を侮辱すると考えられているからだ。
「キャサリン様は私を、公爵家を侮辱するおつもりですか?」
「も!申し訳ありません!そんなつもりは・・・。」
顔面蒼白のキャサリンが頭を下げてきた。
「お父様に報告させていただきますね。」
キャサリンは顔が青くなった。
(最初から言わなければいいものを・・・。)
アリシアはレラに向き合い
「レラ様。お兄様は舞踏会の後、忙しくされていたので舞踏会について聞いておりませんの。今度聞いて見ますわね。」
ニコリとアリシアがいうと今まで顔を伏せていたレラがアリシアの顔を見た。
「ありがとうございます!」
レラは嬉しそうに笑った。
(とりあえずレラ様のフォローはこれでいいわね。)
アリシアが周りを見渡すと、エリザベスと目が合った。エリゼベスはアリシアに顔を見ると笑みを浮かべた。その笑みは思わず背筋が凍るような、そんな冷たい笑みだった。視線がふとそれるとエリザベスは大袈裟にキャサリンに話しかけた。
「まぁ!キャサリン様、顔色が優れませんわ!おやすみになられた方がいいかもしれませんね。」
エリザベスはそういうと控えていたメイドに馬車を用意するように伝え、キャサリンはその場を去っていった。
お茶会の雰囲気は最悪である。
「さぁ!皆様、お茶会を続けましょう。」
そんな雰囲気の中、エリザベスは仕切り直しと手をパンと叩きながら言った。参加者はポツポツと、しかし、次第にそれぞれの話で盛り上がっていった。
「アリシア様、エリザベス様、先ほどは申し訳ありませんでした。」
レラが謝ってきた。
「いいのですよ。謝ることではありませんわ。」
アリシアはレラにそういうとエリザベスに向き合い
「私もお茶会の場での振る舞いではありませんでしたわ。エリザベス様、申し訳ありません。」
「いいのですよ、アリシア様、レラ様。キャサリン様は言い過ぎですが、おっしゃっていた内容については一理あります。レラ様今後はお気をつけなさい。」
「はい。」
話がひと段落したので、アリシアはお茶を口に含む。
(そろそろ用事があると言って帰ろうかしら・・・)
お茶会はまだ続いているが、ここまでいれば参加したことにしてもいいだろう。義務は果たした。タイミングをみて帰る旨を伝えよう。とアリシアが考えていると何やら視線を感じた。顔を上げるとエリザベスが見ていた。
(何かしら・・・。)
「アリシア様は、舞踏会の後に誰かにお誘いを受けましたか?」
エリザベスは綺麗な笑顔を浮かべながら問いかけてきた。
「えぇ、いくつかお誘いはありましたわ。」
(嘘ではないわ。私だけではなく、お兄様も一緒だけれど)
「さすがアリシア様ですわ。アリシア様は”とっても魅力的”な方ですものね。」
それを聞いた周りの令嬢がくすくすと笑っている。また始まった。アリシアはため息をつきたくなった。
「エリザベス様はどなたかお誘いを受けたのですか!」
と、くすくすと笑っていら令嬢が尋ねた。
「えぇ、何通か私もいただきましたわ。赤薔薇の封筒もありましてよ?」
「!」
赤薔薇の封筒。それは皇室からの手紙である。ざわざわとうるさかった会場がシーンと静まり返った。皆、エリザベスの言葉を聞こうと耳を澄まして待っていた。
「お、お返事はしたのですか?」
先ほどの令嬢が待ちきれず質問をした。
「えぇ、喜んで行きますわとお伝えしました。」
わぁ!と会場の令嬢たちが盛り上がる。次々にエリザベスを称賛する声が上がる。にこやかに周りの令嬢と対話していたエリザベスがふとこちらをみた。
エリザベスは勝ち誇った顔でアリシアを見つめていた。




