表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

仕切り屋 シンデレラ

作者: 瀬嵐しるん

「魔法使いのお婆さん?」


「ああ、そうだよ。わたしゃ正真正銘のお婆さんだ」


「魔法使いの方は?」


「あ? ああ、大丈夫。本当に魔法使いだから」


「それで、ご用は?」



シンデレラは戸惑っていた。

今日はお城の舞踏会。

継母と義姉たちは舞踏会へ行っている。


一人で家にいたところ、老婆が訪ねてきた。


老婆はそれはもう皺くちゃで、見るからにご高齢。

普段はどうやって暮らしているのだろうと心配になるほど、足元もおぼつかない。



「あんたシンデレラだろう?

あたしゃ、あんたを舞踏会に行かせなきゃいけない使命なのさ」


「使命?」


「話せば長くなるから端折るけど、魔女には当番ってものがあるんだ。

当番の日にイベントがあれば、出かけて行って役目を果たさなきゃいけない」


「イベント?」


「まあ、細かい話はいいわな。

とにかく、あんたを粧し込ませて馬車に乗せ、舞踏会に出すのが使命だ」


「そのお気遣いはありがたいですが……」


しかし、老婆はヨボヨボ。シンデレラは自分の事より、相手の方が心配になる。


「任せときな。こう見えても、魔女になって三百年。

魔女協会じゃトップのベテランだ」


それって、現役最高齢の魔女ってことでは?

心配は募るばかり。



「ただ、行きはいいんだけど……」


「はい?」


「帰りまで魔法が持つかどうか……」


「十二時までに帰り着け、ってことでしょうか?」


「…………」


「もしや?」


「十一時と思ってもらった方が確実かな、と」


時刻は、そろそろ十時になるところ。

お城まで、かっ飛ばせば十分で着くかもしれないが、馬車を降りてから舞踏会の会場までは長い階段を上らねばならない。


準備体操か、というような階段を上り切ったとして、控室で化粧直しが要るだろうし、その後、ダンスが順番待ちだったりしたら。


「間に合いません」


シンデレラはきっぱりと言い切った。


「え? そんなはずは」


「私、無駄は嫌いですから。舞踏会は諦めます」


「無駄って、あんた。お城に行けば王子様に見初められる可能性が高いと言ってもかい?」


シンデレラは溜め息をついた。


「私がこの家で、使用人のように働いているのは何故だかわかりますか?」


「継母と義姉に虐げられてるんだろう?」


「いえ、そうではないのです。父が亡くなって家計が苦しいものですから、使用人を雇えないだけです。継母や義姉に家事をさせると、無駄が多くて見ていられないので私が全て取り仕切っているのです」


「意地悪されて舞踏会に連れて行ってもらえなかったんじゃないのかい?」


「違います。働くセンスのない彼女たちには、舞踏会で嫁ぐ相手を見つけてもらわねば。

亡くなったお父様の置き土産。あのお三方を無事に片付けなければ、自分の縁談など考えられません。

王子様のお相手を探す舞踏会ですけれど、他の殿方もたくさん来ていらっしゃいます。なんとか貰い手を見つけて来るよう、よっく言い聞かせて送り出しました」


「王子様はいいのかい?」


「そんな面倒そうなものに関わっていては、時間の無駄です。

絶対に王子様には近寄らないよう、申し付けました」


鼻息の荒いシンデレラ。

魔女には小さくなって馬車に乗り込んだ三人が見えたような気がした。


「わかったよ。それじゃ、私は帰るから。

後は、自分で……幸せになれそうだね、あんたなら」


「お婆さん、ちょっと待ってください」


「なんだい?」


「こんな夜更けにお年寄りが出歩いていては危険です。

丁度、客間が空いておりますので一晩お泊りになっては?」


「……いくらだい?」


「さすがはベテラン魔女。話が早い! 五千ディーロで朝食付きです」


「……では、お世話になるとしよう。領収書は出るかい?」


「もちろんですわ!」



魔法使いのお婆さんは、客間で一晩ゆっくり休み、朝食を食べて領収書を貰った。

帰り際、ちらりと扉の陰に見えたのは、正座させられている継母と二人の義姉だろう。どうやら、成果が出せなかったようだ。



『やれやれ、ちっとも魔法の出番が無かったね。

だが、一泊分の料金で少しはシンデレラの助けになっただろう。

魔女協会へ経費の申請を出さなきゃいけないよ』


お婆さんは小さな鞄から大きな箒を取り出して跨る。

そうして、ゆっくりと空に浮かび上がって行った。


下を見れば、シンデレラが手を振っている。


「お婆さん、お元気で。良かったら、またいらしてくださいね!」


客間はきれいだったし、朝食は美味しかった。

少しばかりボロい魔女装束も、気にせずにもてなしてくれた。


『そうだね、帰ったら魔女協会に宿として推薦してやってもいいかもね。

……おや、あれは』


魔女の目には、敷地内の一か所の地面だけ、やたら熱くなっているのが見えた。


『魔法の使いどころがあってよかったよ』


懐から取り出した杖を一振りすると、地面から温泉が吹き出した。



その後、シンデレラの家は魔女たちの定宿として繁盛した。

温泉は美肌効果に腰痛軽減等々、熟女ぞろいの魔女たちには嬉しいばかり。

地熱で野菜はよく育ち、放し飼いの鶏も元気。

料理上手なシンデレラの作る夕食に朝食は健康的と大評判。

デザートはカボチャプリンが定番で、お土産には素朴な温泉卵が大好評。


結局、貰い手を見つけられなかった継母と二人の義姉は、シンデレラにビシバシ扱かれながら、従業員として真面目に働いている。


シンデレラが行かなかった舞踏会では隣国の姫君が見初められ、そのおかげで国交は円滑。王国は平和だ。



めでたし、めでたし。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] しっかり者のシンデレラでしたね(笑) 彼女が運営する温泉宿、ぜひ行ってみたいです。
[一言] シンデレラの新しい一面が見られました! 面白かったです。
2022/11/17 17:15 退会済み
管理
[一言] 仕切り屋って丸ごと全部仕切るんですねー!さくっと全部円満解決でスッキリしました〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ