放浪騎士リードマイヤーの滑落 7
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マーマンも血は赤いのだな。とリードマイヤーは思った。女マーマンの肩あたりから、かなり多くの血が吹き出し、緑色の肌を伝っていた。動脈を切ったらしい。
女マーマンの目が、こちらを向いた。
非難と、怒りと、恐怖がない交ぜになった目だった。相手がマーマンだって、慣れれば感情はわかる。非難は的外れだぜ、とリードマイヤーは思った。あんただって、俺をつき落として、地虫に食わせようとしただろう?
だから俺は、咄嗟に短剣を抜いて、お前に斬りつけたのだ。
俺はそのまま転げ落ちてしまったが、こうなってしまっては関係ない。あの女は傷を負った。血が流れた。地虫は、血のにおいに何より反応する。転げ落ちたリードマイヤーの立てた音など、無視できるほどに。
女マーマンは再び悲鳴をあげた。吹き出す赤い血が、その身体を染めていく。これほどに濃厚な血のにおい。地虫が我慢できるはずもない。
地虫の頭が上下にばくりと開き、女マーマンを包みこんで、また閉じた。
実際のところはわからない。聞いてみなければ何ともいえない。だが結局は、連中の真意は、本当に望んでいたのは、リードマイヤーを生け贄に捧げることだったのだろう。
今は地虫の活動期だ。あいつら自身がそう言っていた。普段はそれなりにおとなしい地虫も、この時期は餌を求めて動き回る。飢えを満たすまで、それが終わることはない。
だからリードマイヤーが落ちてきたのは、奴らにとっておあつらえ向きだったのだ。いや、落ちてきたのではなく、落としたのかも知れない。俺が谷に落ちる瞬間、見えたあの光は、放たれる矢ではなかったか? そして俺を出迎えたあのマーマンたちは、みな背に弓を背負っていなかったか?
そうとも。あんたたちはずっと前から、そうしてきたんだろう。外界から生け贄をつれてきて、地虫に捧げる。そうして奴の飢えを満たしておとなしくさせる。そうすれば、自分たちが被害にあうこともない。
別に悪いことと思わない。自分たちが食われるより、誰かが食われたほうがいい。当たり前じゃないか?
だから、俺がお前たちの誰かを生け贄に捧げても、非難されるいわれはないのだ。
氷が割れるような音を立てて、女マーマンは噛み砕かれていた。さすがにあの大きさの生き物を、ひとのみというわけにはいかないらしい。どういう構造になっているのか、地虫の頭はそれ自体が、ひとつの生き物のように複雑に動き、砕いた身体を飲み込もうとしていた。
リードマイヤーは長剣を抜いた。