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08 異臭問題とミミズ

ブックマーク、ありがとうございます。

至らぬ所の多い文ですが、暇つぶしになればと思います。

クプルム、リービッヒがサロンでのんびりと午後の一時を過ごしていると、半泣きのシャーレが布を片手に飛び込んで来た。

自室でオーラムに渡すハンカチに刺繍を刺していたが、予想以上に上手くいかなかった。

母に似て手先が不器用で、瀕死のミミズがのたうち回ったようだった。


リービッヒは、姪を隣りに座らせると幼い頃の泣き虫だった姉を思い出して、優しく頭を撫でて励ました。

「人には向き不向きが有るのだから、そんなに落ち込まなくて大丈夫さ。

オーラム殿はキミがキミで居てくれるだけで、幸せなのだから。

問題ない。問題ない。」


「でも、少しでも私はオーラム様のお役に立ちたいのです、、、グスッ、、ヒック、、、」


「あー、、少なくともミミズ柄のハンカチは役に立ちそうには無いね。」

晴れやかな笑顔でデリカシーのない発言をしたクプルムを、ギッと二人は睨み付ける。


「初めてこの屋敷に来たときの事を覚えているかい?

オーラム君の草臥れきった顔つきを。」


メイラード領に来てはや10ヶ月、初めてお会いしたオーラムは草臥れた中にも密かにゾクゾクするような大人の色気(少しマニアック)を醸し出していた。

今では、すっかり顔色も良く、身なりにも気を遣う余裕が出て来て、余裕の有る大人の色気に変わったが、時折みせるふにゃりと少年のような笑顔を向けられると心臓の鼓動がはね上がる。


「我々は、キミと結婚してからのオーラム君しか知ら無いが、それでも、キミが彼の支えになっているのは確かだ。

それに、キミには自覚が無いと思うが、領の発展にもかなりの貢献をしているよ。」


本当にそうなのかしら?と首をかしげる姪の姿を微笑ましく思った。



〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉


この日、屋敷から馬車で2時間程離れた場所に新しく出来た集落の事で相談が持ち込まれた。

この集落は、橋の建設の為に労働力として他所の地から集まった人々が仮設住宅を建てて出来た物で、相談事とは、その仮設住宅由来の異臭問題であった。


二台の馬車に分かれて集落に向かう五人は、目的地に近づくにつれて問題の異臭に顔をゆがめた。

ドブ臭いような生臭いようなツンとするような悪臭が漂っており、シャーレは例のハンカチで鼻と口を覆った。

五人の到着を待ち構えていた集落のまとめ役の男性も、手拭いで鼻と口を覆った状態で案内をしてくれた。


異臭の原因は、仮設住宅から垂れ流された生活排水の腐敗臭だった。

この集落から離れた所に有る浄化施設まで、下水道を整備するには、まとまった資金が必要になるうえに、橋の建設が完了すれば集落は取り壊す予定になっている。

汚水処理の事まで考えが及んでいなかった。


一時しのぎのために、費用の掛かる下水道を配備するべきなのか、しかし、集落に住む人々の生活と健康を考えると、この悪臭を放っておく事は出来ない。

オーラム、カチオン、クプルム、リービッヒは、考えあぐねていた。


シャーレは、問題となっている汚水溜まりの風下に居たせいで、生温かい風が運んできた異臭をモワッと受けて、堪らずにか膝をついた。


『ぅ、、、ぅう、、』

あまりの臭いに涙目になる。


『だいじょうぶ?泣いてるの?』

『どうしたのー?辛いの??泣かないで!』


『本当に酷い臭いだわ。

皆なら、あの池の酷い臭いを何とかする方法、何か知ってるかしら?

私も伯爵夫人として、少しでも領民の役に立ちたいの。』


『何で臭いのかな~?』

『家庭から出る汚れた水の臭いだそうよ。』


『お水きちゃないの?』

『きちゃないお水に蓋をして閉じ込めたら?』

『汚れた水は毎日出る物から、閉じ込め続けることは出来ないのよ。』


『お水をキレイにするのはどう?』

『キレイになったら臭くなくなるよ!』

『でも、汚れた水がキレイになるには、とても時間が掛かるのでしょう?』


『じゃあ、早くキレイにしたら良いね!』

『早くって、そんな事出来るのかしら?』


『出来るよ!』

『出来る出来るー』

『たくさん息が出来たらもっと出来る!』

『息?』


『お水の中でも、もっとたくさん息が出来たら、早くお水がキレイになる!』

『そうだねー。』


『ぶくぶく~』

『そしたら、頑張ってお水を速く速~くキレイに出来るよー』


『分かったわ!皆、ありがとう!』

原理はよく分からないものの、解決の糸口はつかめた。

具体的な手段は思い浮かばないが、父と叔父を捕まえて彼等の話を掻い摘まんで説明したら何とかしてくれるはず。



「つまり、汚れた水を一時的に溜めて空気を沢山送り込む。

彼等の力を借りて、水の汚れは、より速く分解される。と言うことかい?」

「複数の樽を組み合わせみてはどうだ?

大掛かりな物ではなく、数軒ずつ排出を溜める樽を配備して空気を流し込む。

下水道の配備に比べれば、費用は圧倒的に押さえ込める。」

「ああ、それに下水道を整備出来ない場所にも用意に設置が可能な上に、撤退も難しくない。」




二人の話しはヒートアップし、その日の夜には小型の浄化槽の設計図が完成し、翌々週には集落の異臭問題も速やかに解決した。

他の領へ向けた小型浄化槽の販売は、とんとん拍子に決まり、財政面でも領の発展に貢献した。

マイナーではあるが、ある種の分野に置いて領の知名度を上げた。



そして小型浄化槽のロゴには、オーラムのイニシャルを模したミミズの様なイラストが採用され、シャーレは父と1週間口をきかなかった。

※浄化槽:微生物の働きを使って汚水を浄化する槽の事。

空気を送り込む(曝気ばっき)事により、好気性微生物の活動が活発化して、より効率的に浄化が進みます。

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