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05 馬糞と苺栽培

シャーレには譲れないイベントが有る。

大好きな家族の誕生日は、苺を盛りに盛ったケーキでお祝いする。

父と叔父の誕生日は、調度苺の季節だった為、余り深く考えて来なかった。


昨日、仲良くなったメイドから聞いたオーラムの誕生日は極寒の1月、苺が無いのだ。。。


王都の家から持参した苺の植木鉢を抱えて、落ち葉の降り積もった裏庭で佇んでいた。

吐く息は白く、ここ最近めっきりと冷え込んで、苺の苗は小さく小さく、縮こまったロゼッタの状態だった。

これでは、とてもでは無いが、1月に間に合いそうに無かった。


どうにか真冬でも苺を育てられそうな暖かくて日の当たる、そして内緒に出来る場所はないものかと、屋敷の周りを一人で彷徨っていた。


『シャーレ、元気な~い。どうしたの~?』

『、、、、苺。苺。』

『苺~?まだ寝てるね~』

『ねてる~』

『苺がどうしたの?』


『苺が実りそうな暖かい所を探しているの。』

『お部屋は~?暖炉がポカポカ!』


『だめよ。夜になると暖炉の火は消されてしまうの。』

『ずっとポカポカが良いの?』

優しい彼等は、いつもシャーレに寄り添って一緒に悩んでくれる。


『そうよ。それに、旦那様に秘密なの。お誕生日にびっくりさせたいのよ。』

『ん~ヒミツでポカポカ~』


『僕知ってるよ!!こっちこっち!』


声に導かれるまま行き着いた先は、馬小屋の隣りにこじんまりと佇む厩務員用の休憩所だった。


レンガ作りの壁にガラス製の窓がはまっている。

曇った窓から中を覗くと、一人の青年が此方に気づいて扉を開けてくれた。

雪でも降りそうな寒さにも関わらず、青年は半袖姿で出て来た。

最近勤めだした厩務員らしく、腰が低くて話しやすい好青年だった。


青年から聞いた話によると、この休憩所は裏手に積まれた馬糞により、冬場に暖炉無しでも常に暖かいらしい。

ガラス窓から日の光も入り、日当たりも良好良!

此処なら旦那様にも見つからずに苺を育てられそう!


シャーレは、青年に何度も何度も「絶対に秘密です!」と念を押して、植木鉢を置いてルンルン鼻歌を歌いながら屋敷へ戻った。




〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉



凍てつく寒い1月のある日、オーラムの誕生日が来た。

足繁く通って育てた苺は、少し小ぶりだが宝石のようにキラキラと輝く実を沢山つけていた。


「旦那様のお誕生日に間に合いましたね!奥様。」

「ええ!貴方の協力のおかげよ!本当にありがとう!」


「旦那様も、こんな時期に苺が食べられるなんて、びっくりされるでしょうね。きっと喜ばれますよ!」


初めは勤めだして間もなかった青年は、すっかり馬の世話も板につき、今ではシャーレとも気兼ねなく話せる間柄になった。




執務室でオーラム、カチオン、クプルム、男爵が執務にあたっているとノックの音がした。


時計の針に目をやると、15時。

書類の細かい文字を追ってチカチカと疲れてしまった目を両手で覆い、小休止。



「オーラム様!お茶にしませんか?」

愛らし妻の声が聞こえ、両手を目から外すと、シャーレが何か赤い物を持っているのが見える。

「??」

目を強く押さえてしまった反動で、まだ視界がぼやけていた。

(苺にみえるような?いや、季節的におかしいか。)


次第に視界がクリアになる、やはり苺に見える。


「今日は、オーラム様のお誕生日ですよね!お祝いのケーキを作りましたの。召し上がりませんか?」

「シャーレ、これは、、、苺かな?」

「ふふ。正真正銘、苺ですよ!」


「い、、いや、待て。こんな時期に苺が有るわけ無いだろう?」

リービッヒが言葉を詰まらせながら言った。

クプルムも、神妙な顔つきをしている。

カチオンも驚き、目を見開いていた。


「オーラム様のお誕生日に何としても苺ケーキを食べて頂きたくて、手ずから育てたのですよ。叔父様?」

「そ、、育てたって。いったい、どうやって、、」

この時期に、新鮮な苺は王都所か国中探しても手に入らない。


ケーキを乗せた皿をローテーブルに下ろすと、メイドが盛り盛りの苺を落とさないよう細心の注意を払いながら取り分けて、お茶を入れた。


シャーレはオーラムの隣に腰掛けると、1番大きな苺をフォークに刺してオーラムに差し出した。


「苺はお嫌いですか?」

甘い物は苦手だったのかしら?不安げに瞳が揺れた。


まだ何もお礼を述べていない事にふと気づくと、ふわりと微笑んで

「私の為に苺を育ててくれたんだね。大変だっただろうに。本当にありがとう。」

フォークを握るシャーレの手の上に自身の手を被せ、そのままフォークから苺を食べた。

「ん。甘酸っぱくて美味しい。」



2人が仲良く苺ケーキを堪能している間、残りの3人はシャーレから聞いた厩務員用の休憩所を急いで訪れた。

人のよさそうな青年に案内させて、植木鉢、休憩所の室内、室外をくまなく調べた。

小屋の裏手には、馬糞と寝床用に使われた麦のもみ殻がうずたかく積まれ、発酵熱を出していた。


その後、シャーレの去った執務室に再集結して馬糞の発酵熱を利用した季節外れの苺栽培計画案を形にした。

勿論、休憩所サイズではなく専用の建物を建てる大掛かりな物になった。




数年後、富裕層を中心に冬でも苺を楽しめるようになり、より一層、メイラード領の財政は潤った。

※発酵熱:微生物が木の屑等を発酵するとで発する熱の事。80℃近くまで上がる事も有るらしいです。

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