02 酵母とふわふわパン
翌朝、厨房で朝食用のパンを焼いていた料理人達は騒然としていた。
ダイニングに運ばれた朝食、オーラムは何気なく手にしたパンに違和感を覚えて、メイドに目配せした。
「、、このパンは、、?」
「料理長がおっしゃるには、普段通りに準備したそうですが、何故か全てのパンがこの様に仕上がったそうです。」
「ふんふわ。美味しいですね!オーラム様。」
一口サイズにちぎっては、嬉しそうに口に運ぶシャーレ。
つられてオーラムも、朝食に手を伸ばした。
王都の学園に通っていた頃に寮で出されていたパンと比べると、メイラード領のパンはどうしても、ぼそぼそとして食感が悪い。
寒冷な土地では小麦が育ち辛く、ライ麦を多く使っているせいだ。
其れが如何したことか、昨日迄と全く同じ材料と製法で作られたはずなのに、今朝のパンは小麦のパンに負けない位にふわふわに仕上がっている。
「ええ、本当に柔らかくて美味しいですね。」
普段より食が進んだのは、パンの食感ゆえか、共に食べる彼女の存在ゆえか。
朝からこんなに心地よく過ごせたのは、いつ振りだろう。
朝食の後はクプルム、リービッヒと共に橋の建設に関する打ち合わせが有る。
彼等を相手にするのは、自分の未熟さを思い知らされるが、大変勉強になる。
しっかり食べて、今日も頑張ろうと密かに奮起した。
※パン酵母:パン生地を発酵させるために欠かせない微生物。
糖類をアルコールと炭酸ガスに分解する事で、パンがふっくらと仕上がる。