01 婚約解消と旦那様
こんなお話しがあったら良いなと、書いてみました。
文章力は有りませんので、ご了承ください。
「残念だが、シャーレ、君との婚約は解消だ。
私は、真に愛する彼女と結婚する。
長年、父子共に私を支えてくれたお礼だ。
父上と相談して、君にも新しい伴侶を見繕った。
王都から少しばかり離れるが、北に位置するメイラードの伯爵だ。
既に婚姻の承諾書を送っている。
伯爵は父上の遠縁に当たり、北の領を立派に治める堅実的な方だ、きっと君たち親子を歓迎してくれるよ。」
かれこれ2カ月ぶりになる婚約者からのお茶会の誘いは、席について早々、あまりにも一方的に告げられた言葉に絶句した。
目の前では元婚約者が、新しい恋の相手と手を繋ぎ、いちゃこらしていた。
小刻みに震える指先でティーカップを持ち上げ、紅茶を一口飲むと、ひどく甘ったるい味がした。
傍に控えているメイドを見れば、気まずそうにしていた。
ティーカップを下ろして立ち上がる。
「お話しは、其れだけですか?」
「ああ。」
「其れでは、私は失礼致します。どうぞ、お幸せに。」
シャーレの後ろ姿に、元婚約者達は晴れやかな笑顔で手を振っていたが、しばらくすると再び二人の世界に入り込み、メイドは溜息が溢れた。
部屋に戻ると早速荷造りを始めた。
ささくれ立った気持ちをトランクに一緒に詰め込んで黙々と作業を続けると明け方には、荷造りが完了した。
日の出と共に、父と叔父の3人で馬車に乗り、北のメイラード領を目指した。
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メイラード領の領主オーラム・メイラードは、付き合いの浅い従兄弟から届いた突然の手紙を読み上げると、溜息を着いた。
「あの身勝手な従兄弟殿は、、、はぁ。」
重苦しい沈黙が、じめっとした部屋を覆っていた。
「部屋を準備しておいてくれ。
明後日にでも、私の妻が到着するようだ。
彼女のお父上と叔父上もいらっしゃるそうだから。。。」
「「妻」でございますか??」
独身の伯爵から「妻」の言葉が飛び出し、普段は冷静な執事も訳も分からず、目を見開いていた。
伯爵から手紙受け取り、穴が空くほど見つめて、何とか言葉を捻り出した。
「、、、誠に、何と勝手な、、、」
「彼女も被害者なのだろうね。こんな辺鄙な領地の零細領主の後妻になんて。
せめて、できうる限り歓迎して差し上げよう。」
「、、、畏まりました。」
伯爵は窓の外、遙か遠くを、諦めたような目で見ていた。
この地は王都の北側に位置し、領の東隣りに辺境伯領が在る。
辺境伯領との距離は非常に近いものの、間に船も渡せない程に流れの速いインキュベート川を挟んでいるせいで、物流に適してい無い上に、特産物も観光地も無く、広さの割に税収も少ない。
若くして父から受け継いだ領主の役目を、必死に務めている間に、初めの妻は結婚して1年も経たずに男を見つけて出て行ってしまった。
其れから10年、あらゆる施策を試して領民を飢えさせずに済むようにはなったが、以前として贅沢などほど遠い状況であった。
ましてや、再婚なんて考えている余裕もなかった。
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伯爵家の玄関の前でシャーレ達を乗せた馬車が止まった。
叔父、父、最後にシャーレが馬車から降りた。
流石は北の領、真夏だというのに程よく涼しくて、風か心地よい。
初めて見る屋敷は、古めかしいが、よくメンテナンスされていて邸の歴史を大事にしている印象だった。
「遠い所、よくおいで下さいました。
初めまして。この度、貴女の夫になりました、オーラム・メイラードです。」
年の頃は30手前、少しくたびれた感じはするが、こちらを労る優しそうな目つきの美丈夫が立っていた。
背は頭一つ分高く、肩より少し長い髪は左肩で結び、前髪を横に流していた。
正にシャーレの好みを具現化したような出で立ちに、思わず心の中で悶絶した。
元婚約者も顔だけは好きだったが、この少しくたびれた感じの大人の男性が醸し出す色気!!
どうしましょう!?垂れた前髪、素敵!好き!!
可憐な年若い女性が、可愛らしく頬を染め上げてもじもじとしながら、
「シャーレと申します。どうぞ、末永くよろしくお願い申し上げます。」
と言えば、オーラムも伯爵家の家臣も心を撃ち抜かれた。
暫し訪れた沈黙を、叔父と父はあきれ笑いながら見守り、シャーレの嬉しそうな様子に安堵した。
また、この瞬間、2人がひっそりと立てていた伯爵領発展化計画のキックオフが決定した。
オーラムとシャーレの婚姻届は、侯爵家の嫌がらせにより既に提出されて受理されていた。
この国では、本家が分家筋の家の婚姻を纏める機会が多く、本家が変わりに婚姻届を出すことが可能だった。
其れでも分家に話しを通すのは当然のことだったが、今回、短気を起こした侯爵が、伯爵とシャーレ側の許可も得ずに勝手に届けを出した。
一方、離婚届けは夫婦本人にしか提出出来ない決まりだ。
応接室に案内されると、直ぐさま父と叔父は、挨拶もそこそこにオーラムの前に数枚の設計図と地図を広げた。
最近になって隣国で建造された最新式の橋をもとにした設計図だ。
「これは、、、?」
オーラムが突然の事に不思議に思い尋ねると、
「私の愛する娘を大事にして下さるなら、伯爵領を盛り立てるお手伝いをしましょう。
申し遅れました。
クプルム・アルカロイドと申します。
私自身は、三男でしたので爵位を持ちません。
此方は、亡くなった妻の弟でリービッヒ・ピペットです。」
眼鏡の奥に鋭く抜け目のない眼光を秘めた舅が、さらりと爆弾発言を落として右手を差し出した。
知っている人には分かる、知ろうともしない人には一生分からない二人の高名な名前。
幸いにも領の発展の為に努力を続けてきたオーラムは当然知っていた。
雲の上のような存在で、直接、話しを聞ける何て思いもしなかった二人を前にして、差し出された手を縋るような気持ちで握った。
握り返された手に込められた決意を感じて、クプルムは満足げに微笑んだ。
固く握った手の上に華奢で温かな温もりが重なった。
シャーレが自身の手を乗せて、
「私も混ぜて下さいませ。」
可愛らしく嫉妬を露わにする新妻に、すっかり絆されたのは言うまでも無かった。
クプルムとリービッヒ、机を挟んで、オーラムとシャーレが向かい合って座った。
クプルムから次々に説明される斬新な案に、オーラムもオーラムの補佐役のカチオンも感心するばかりだった。
男達の白熱した話しを他所に、シャーレだけはいつも通り、お茶を飲みながら、メイドの用意してくれた焼き菓子を楽しんでいた。
シャーレには、父と叔父だけに打ち明けている秘密が有る。
それは、自分だけに聞こえる声の存在だ。
その声とは、口に出さなくとも会話が出来る。
『シャーレの旦那さん、いい人そうだね~』
『ええ。とても素敵な方だわ。手の指が長くて素敵なの!』
『シャーレが幸せそうで、僕達も嬉しい!』
『おめでとう~』
『うふふ!皆、ありがとう!
あ、そうだわ。
この地方のパンが固いと聞いた事があるのだけど、柔らかく出来るかしら?
朝はふわふわのパンが食べたいの。』
『お安いご用だよ~』
『任せて任せて!』
そう、微生物の声だった。