プロローグ
「僕が決めた方がいいのー? 適当に生きればいいじゃん」
「なっ。だから俺はな、よくわかんねぇとこに転生なんて、したくねぇんだよ」
生きる意味に対する問いの回答を聞いたとき、1番に感じたのは怒り。
とても神様を自称する目の前の存在が言っていいことではない。
俺はこうして体感で少なくとも1時間以上、転生することを拒み続けている。
ずっと虚しさが心に居座っている人生だった。
楽しいことよりも嫌なことを避けたい気持ちが常に勝ち続けるような状態。
生きる意味もなく、死ぬのが怖いという気持ちだけで生きていた。
最後にはその恐怖感よりも、このまま何の意味もなく生きることへの絶望感が強くなり、飛び降りたのが俺だ。
その俺にまた人生を送れと言うのか。
しかも、生きる意味がないと言うことが神様により証明された上で。
頼むから、俺を転生なんてさせないでくれ。
「俺を、何も感じなくていいように消滅させてくれよ」
「何回も言ったけど、転生は僕らで決まったことだよ。でも、そこまで言うなら、仕方ないなー」
少年のような姿、顔立ちをしたそいつは少し考える素振りをしながら、視線をさまよわせる。
こんな小さい姿でも、俺の全てを決定する能力があるのだから神様とは怖いものだ。
「よし、合意が取れたよ。君だけの特別待遇だ」
「じゃ、じゃあ・・・」
「残念だけど転生はしてもらうよ。君には今の記憶の保持と転生先の世界で実現できる全てのスキルの中から3つを自由に最初から習得できるようにしてあげるよ」
好条件を出されても考えは変わらない。
そうではないのだ。
何か周囲の環境が不満だとか、夢が叶わないだとか、そういう話ではない。
「どう? 前向きに考えてくれた?」
「それをして何になる? 何年生きてもどうせ死ねばそれまでだろ」
夢のひとつもないのに、生きるのは虚しくて堪らないから、これ以上存在したくないというのが俺の主張だ。
「うーん、意味なんてなくても、君が生きてく中でやりたいと思ったとに対して自由に全力を尽くせばいいと思うんだ」
「無責任なことを言うなよ。俺はな、生まれてから20年以上見つけられなかったんだ」
どうせ世界が変わろうが、俺は変われない。
どんな能力があろうと意味がないのなら虚しいだけだ。
「じゃあ、どうしても何も見つかりそうにないなら、ひとまずは、世界最強とか目指しちゃえば?」
「本当に転生はやめられないんだな?」
「うん」
それから話ながら30分以上経ち、渋々だが転生することを受け入れた。
受け入れるに至ったのは、世界最強を目指すという一つの生きる意味が与えられたのが大きい。
「じゃあスキルを3つ選んで」
「おぉ」
ずらりと浮遊する文字列で視界が埋め尽くされる。これらが全部スキルの名前らしい。
少し見ているとスキルの絞り込みが思考するだけでできることがわかった。
特定のスキルの詳細がみたいと思考すると、その効果や本来の取得条件が表示される。
しばらく色々考えて、最強を目指すための最適解を見つけ出した。
「おい、どれを選ぶのが一番いい?」
「えっ? 自分で選ばないの?」
分からないことは分かる者に任せるのが最適解。
この神は何故かこちらの言い分をかなり聞いてくれるからな。
神様に選んで貰うのが一番いいに決まっている。
「確かにそうかもしれないけど・・・自分で考えたスキルでやりたいとかっていう気持ちは?」
「ない。俺の目的は最強になることなんだろ」
「僕も向こうで生活したことはないからなー」
そもそもこの真っ白い空間に二人だけの状況で神様ではなく俺が選ぶというのが異常なのだ。
それから神様と話ながらスキルを選んでいく。
神様は意外にもどこか楽しそうに考えてくれていた。
「この二つはかかせないね」
そう言って最初に指を差したのは『物理無効』と『魔力無効』というスキル。
本来、人間では取得できないらしい。
話によると『物理無効』は上位の亡霊系の魔物だけが取得できるスキルで、『魔力無効』は上位のスライムだけが取得できるスキルとのことだ。
この2つのスキルを取得しておくだけで外的な要因での直接的なダメージを完全にゼロにできる。
「『物理無効』は物理的な肉体に対するあらゆるダメージを消すスキルなんだ。病気や窒息もこれで防げるよ」
「殴る蹴るだけじゃないんだな」
『魔法無効』によって物理的な肉体以外に対しても攻撃が効かなくなるとのこと。
この2つを同時に持つ存在は現時点で存在しないようだ。
「後ひとつはどうするんだ? もう負けはしないと思うが」
「いや洞窟に誘い込んで崩落させたりして、身動きを取れなくすれば君は死なないだけで何もできなくなる」
確かにそれもそうか。
あくまでも直接的な攻撃に対する防御力があるというだけだ。
閉じ込められれば死にはしないが、それだけ。
「だから最後にこれだ」
その言葉と共に目前に表示された文字列。
『怠惰の王』
「どういうスキルだ?」
そう話そうとした瞬間、ガラスの割れるような音と共に白いこの空間全体に黒い亀裂が走った。
「おっと、無理しすぎたみたい。じゃあ後は全力で楽しんで。世界最強なんて目指さなくてもいいからね」
初めて辛そうな表情を見せた神様は、その言葉を最後に倒れた。
「おい、まだ聞きたいことが」
強烈な眠気。
そのまま抗えず意識を手放した。