96.杏奈と仔猫(その2)
前回に引き続き杏奈ちゃんのお話です
(どうしよう!)
杏奈は慌てて仔猫にかけよったけど、どうすればいいのかわからなかった。
(触っていいのかな?抱き上げていいのかな!?)
こんなことになるなんて思ってもみなかったから全然わかんない!!
(そうだっ!こんなときはゆっこちゃんだ!!)
確か結ちゃんがケイちゃん助けたときもゆっこちゃんに連絡したって言ってたもんね。
杏奈は慌ててゆっこちゃんに連絡した。
『どうしたの、杏奈。』
「ゆっこちゃん!今、目の前に仔猫が倒れてて!」
『えっ!ちょっと待って、パパ~』
ゆっこちゃんは慌てておじさんを呼んでくれる。
『もしもし、杏奈ちゃんだね。それで、仔猫はどういう状況なの?』
通話におじさんが出てくれたから、杏奈は今までのことを説明した。
『状況はわかったよ、ありがとう。まず確認してほしいんだけど近くに他の猫とかいないかな?仔猫でも大人の猫でもいいんだけど。』
杏奈は周りを確認してみるけど、他の猫はいなさそう。
「いないみたい。ここに来てから他の猫は見てないです。」
『その仔猫はどのぐらいの大きさ?』
「えっと、最初に結ちゃんの家で見たケイちゃんよりちょっと小さいかも。」
『杏奈ちゃんはその子に触ったのかな?』
「ううん、どうすればいいのかわかんないから。」
『ありがとう。それなら近くに親猫もいないようだから、病院に連れてきてくれるかな?もし無理そうなら迎えに行くから詳しい場所を教えてくれないかな?』
あ、そっか。仔猫のママがいないか確認したんだ。
でもどうしよう?ケイちゃん抱っこしたことあるけど、疲れて倒れちゃってる仔猫連れてくなんて杏奈にできるの?
「あの、迎えに来てください。」
『はい、わかりました。それじゃあすぐに行くからちょっと待っててね。』
『あっ、杏奈?私も一緒に行くから場所どこ?』
杏奈はゆっこちゃんに大体の場所を教えて通話を切った。
目の前にはそのまま倒れてる仔猫。
(やっぱり目覚めない。どうしよう?)
目覚めない仔猫を見てすごく心配になる。
結ちゃんもケイちゃん見つけたときこんな気持ちだったのかな?
(触っても大丈夫かな?)
そういえばおじさんが触ったかどうか聞いてたのってなんでだろ?
でも病院連れてくんだから触っても平気だよね?杏奈が連れてってもよかったんだから。
そう思ってそっと手を伸ばして仔猫を触った。
(うわぁ、やわらかい。それにあったかい。)
仔猫の毛はまだ完全に生えそろってないみたいで、部分的に長かったり短かったりしてる。
でもケイちゃんなでてるときのもふもふ感とは違って、なんかふわっとしててやわらかかった。
触ってると仔猫の身体が小さく動いてるのがわかった。ちゃんと生きてるのがわかってちょっとだけホッとした。
「大丈夫だからね、もうすぐお医者さんが来てくれるからね。」
杏奈は仔猫をなでながら話しかける。
だってちょっとだけホッとしたとはいえ、そうでもしないと杏奈が不安でいっぱいなんだもん。
「杏奈ー、仔猫どお?」
しばらくしてゆっこちゃんがおじさんを連れてきてくれた。
「ゆっこちゃーん、こっちだよ。この子だよ。」
ゆっこちゃんが走って来てくれる。
「うわっ、まだちっちゃいじゃん。親とはぐれちゃった子かな?」
「そうなの?杏奈全然わかんなくってすっごい不安で…」
「うん、このぐらいだと乳離れしてちょっとぐらいだと思う。」
「乳離れ?」
「母親のお乳飲まなくなって離乳食とか食べるぐらいの子だよ。生後1~2ヶ月ぐらい。」
「それってまだホントに生まれたばっかじゃん!」
確か最初にケイちゃんと会ったのが生後3ヶ月ぐらいだったから、それよりもっとちっちゃいってことじゃん。
ゆっこちゃんと話してたらおじさんも来てくれた。
「杏奈ちゃん、この子を見つけてくれてありがとう。」
「ううん、たまたまだから。」
「たまたまでも杏奈ちゃんが見つけてくれたから、この子は助かる可能性があるんだよ。」
そっか、杏奈が見つけなかったらこのまま弱って死んじゃってたかもしれないんだ。
(もしこの子が死んじゃってたら…)
そう考えるとたまらなく嫌な気分になって、あの男子達がもっと嫌いになった。
(一発ぐらい殴っとけばよかった。)
こんなかわいい仔猫をいじめるなんてホントに最低っ!!
「衰弱してるみたいだから、急いで連れて帰ろう。」
おじさんは持ってきたケージを開けて、
「杏奈ちゃん、この子をケージに入れてくれるかい?」
そう言って杏奈を見る。
「はい!」
杏奈は仔猫をそっと抱き上げると、その軽さにびっくりした。
(ちっちゃいから軽いと思ってたけど、こんなに軽いんだ!)
なるべく慎重に優しくケージに入れてあげる。
「ありがとう。それじゃあこの子は病院で預からせてもらうね。」
「ありがとうございます!あの、様子を見に行ってもいい?」
「もちろんだよ。来てくれたときにこの子が起きられるようになってるかはわからないけどそれでもいい?」
「大丈夫、この子が起きるまで毎日行きます!」
杏奈はそう答えた。
だって心配だもん。それに杏奈が助けたんだからちゃんと見たいもん。
そう思ったら、いつか結ちゃんが言ってたことを思い出した。
『杏ちゃんもきっと本当に一緒にいたい猫ちゃんに会ったら目の色なんて気にしないと思うよ。だって私はケイちゃんだから大好きなんだもん。他の猫ちゃんも好きだけど、ずっと一緒にいたいのはケイちゃんだもん。』
(あっ、もしかしたらこれがそうなのかな?)
杏奈が本当に一緒にいたい猫ちゃん、もしかしたらこの子なのかな?
「そろそろ遅くなるから杏奈ちゃんもお家に帰りなさい。本当は送ってあげたいけど、この子を早く診てあげないとならないから。それとも親御さんに連絡して家に来るかい?」
おじさんは杏奈のことを心配して言ってくれる。
「ううん、まだそんなに暗くないから大丈夫。おじさん、今日はありがとうございました。」
「気をつけて帰るんだよ。」
「杏奈、また明日ね。」
「うん、ゆっこちゃんもまたね。」
(今日は帰ったらやることできちゃった。早く帰ってパパとママにお願いしなくっちゃ!)
ついさっきまで『つまんない』って思ってたのに、これからのことを考えると楽しみでしょうがない!
杏奈はパパとママに早くお話したくて急いで帰るのだった。





