94.かわいそうな大魔王様もかわいい
誰視点かを追記しました(2022/11/23)
ケイ視点
(先日は本当に酷い目にあった…)
何かの薬品を零してしまったのは我のミスだ。そしてそれが手にかかるとあっという間に固まってしまったのだ。
どうやら接着剤のようだが、固まるのがあまりにも早くて驚愕した。
(接着面を固定して時間をかけてくっつけるものだと思っていたのだが。)
どうやったらあんなにも早く、そして強固になるのであろうか?
結がすぐに我の声に気づき、病院に連れて行ってくれて感謝である。
しかし…
(我の、我の右前脚がこんなにも無惨な姿に…)
右前脚を見ると毛がない…我の黒くて美しかった毛並が見るも無惨に刈り取られている…
別に今の姿に思い入れがあるわけではないが、大魔王たる我の身体である。
それがこのような情けない姿を晒していることに耐えられない。
(舞衣にあのように笑われるとは…)
あの小娘はこともあろうが、我のこの姿を見て大笑いしたのである。
それがまた我の惨めさを物語っていよう…
そしてこのエリザベスカラーが厄介である。
病院でも着けられたが、これがあると患部を舐めたり出来ないようになっている。
まあそれは構わないし、言葉の理解できぬ動物なら塗り薬を舐め取らないようにするためには必要なのであろう。
だがこれがあることにより、我の行動に大きな支障があるのだ。
まずキャットタワーの部屋が使えない。
登ることは可能だ。少々視界が悪いのが難点だが、そこは注意すれば問題ない。
しかし部屋に入ろうとすると、エリザベスカラーが邪魔をするのだ。
エリザベスカラーが引っかかって部屋に入れない我を見て、また舞衣には大笑いされたのである…
そして調査をしに行こうにもドアを開けることができない。
視界が邪魔をするだけでなく、ドアノブに飛びつこうとするとエリザベスカラーが邪魔をするのだ。
おかげでこうやってソファで不貞寝することしか今の我にはすることがないのだ。
調査でも出来れば気分転換にもなるというのに、それすら出来ずに大人しくしているしかない。
それもまた一段と我を惨めな気持ちにするのであった…
「ただいま〜。ママ、今日はみんな遊びに来てくれたよ。」
「「「おじゃましまーす。」」」
「はい、いらっしゃい。」
玄関から声が聞こえる。どうやら結が帰ってきたようだ。
(こんなときに幼女共を連れてきたのか…)
どうせあの我を写した写真とやらを見せたに違いない。また我は笑い者にされるのか…
特に陽菜がこんな姿を見たらどう思うことか…ヤツに笑い者にされるのは我慢ならん!!
我は逃げ出したい気持ちで一杯だが、逃げる場所もなければ手段もない。
『ガチャッ』
考えているうちに結達がリビングに入ってきた。まあ何も出来ん我は観念するしかないのである…
「ケイちゃん、お加減どお?なにか困ってることない?」
「にゃー(問題ないから放っておいてくれ。)」
結は我の近くに来るなり心配そうに声をかけてくれる。心配してくれるなら友達など連れてこないでくれ、とは言えない…
そして一緒に来た者共はというと、杏奈とゆう子はあからさまに顔がニヤけそうになっているのを我慢しているのがわかる。ゆう子に至っては肩が震えている。
「杏ちゃん。」
「な、なに?結ちゃん。」
「笑わないって言ったよね?」
「わっ、笑って…ない、よ?」
「顔がニヤけて肩が震えてる。ゆっこちゃんも。」
「そ、そんなこと…ない、よ?」
どうやら結が事前に釘を刺してていたのであろう。杏奈とゆう子は必死に笑うのを我慢してるようだ。
しかしそれがまた我のプライドを引き裂く…我慢されるぐらいなら舞衣のように大笑いされたほうがマシだ。
「にゃー(笑いたければ笑え。)」
我が鳴くと、我慢の限界を迎えたのか杏奈が噴き出した。
「ぶはっ!かわいー!!写真で見るよりもっとかわいー!!」
「あーっ!やっぱ笑った!!」
杏奈が笑いだすとゆう子も一緒に笑いだした。
「いやこれ、かわいすぎて笑っちゃうよ。悪い意味じゃなくてさ。」
「かわいいなら笑わなくていいじゃんっ!!」
結達は大騒ぎだ。そんな中で陽菜だけは我を真面目な顔でじっと見て話しかけてきた。
「ケイちゃん、傷は大丈夫なのですか?」
「にゃー(問題ない、傷が出来たわけではないからな。)」
「そうですか…」
どうやら陽菜には心配させてしまったようだ。
「にゃー(心配かけたようだが問題ない。)」
「ま…ケイちゃんはもっと気をつけてくださいね。」
我が答えると、陽菜は安心した顔をした。
「ほらっ!これがケイちゃんのこと心配してるってことだよ!杏ちゃんもゆっこちゃんもケイちゃんに謝って!」
陽菜と我のやり取りを見ていた結がヒートアップする。
「ごめんね、ケイちゃん。」
「ご、ごめんね。」
ゆう子は素直に謝ったが杏奈のヤツ、まだちょっと笑っている。
「まあ結ちゃんも許してあげてください。杏奈ちゃんも言ってる通りこんなにケイちゃんかわいいのですから。」
陽菜が助け舟を出したが、いつの間にやら先程の真剣な表情とは打って変わって恍惚とした表情で我を見つめる。
(これは、もしかして我ピンチ?)
どう考えても散々弄ばれる流れしか見えんではないかっ!!
そして…
我は主に陽菜によって散々弄ばれたのであった…





