93.大魔王様はかわいい
「お姉ちゃんったらひどいんだよ、ケイちゃん大変だったのにすっごい笑ってさ。」
いつもとは違うひとつ上の学年の教室。ケイちゃんが家に来て半年以上が経って、私たちは5年生になった。
クラス替えがあったけど今年もみんな同じクラスになれて、いつものように集まってお話してる。
「結ちゃんが連れてきたときは右前脚にべっとり接着剤付いてたもんね。皮膚に付いてたら大変なことになってたかもしれないから危なかったよ。接着剤は乾くときに発熱するものもあるから。」
ゆっこちゃんの言う通り、本当に危なかった。
「でも私たちには普通な物が猫には危ないんだね。杏奈も飼うときは気をつけよっと。」
杏ちゃんはまだ猫ちゃんを飼うこと諦めてないみたい。でも前みたいにどうしても飼いたいって感じじゃないみたい。
「そんなに大変だったんですね。毛を切るだけで済んでよかったです。ケイちゃんどのぐらいで元に戻るのですか?」
陽菜ちゃんは心配そうに聞いてくれる。やっぱり陽菜ちゃんは優しい。
「大体2~4ヶ月ぐらいかな?短い毛並みの猫だと2ヶ月ぐらいで気にならないぐらいに伸びるけど、ケイちゃんはそれなりに長いから3ヶ月ちょいはかかるんじゃないかなぁ?」
パパさんから聞いたのと同じことをゆっこちゃんが説明してくれる。
「結構かかるね。ケイちゃんってすぐおっきくなったから毛もすぐに生えるのかと思った。」
うん、私もそう思ってた。この半年でケイちゃんすっごく成長しておっきくなったから、毛もすぐに伸びちゃうって思ってた。
「ケイちゃんは成長期だからね。あと数ヶ月もすれば成猫になって成長も止まっちゃうんじゃないかな。」
そうだよね、もうすぐケイちゃん大人になっちゃうんだよね。なんかちょっとさびしいな…
仔猫ってホントに成長早いな。初めて抱き上げたときはすっごい小さくて軽かったのに、今は4キロぐらいあるもんね。身体もおっきくなってるし、私より先に大人になっちゃうんだなぁ。
「それで?あるんでしょ?」
杏ちゃんがニヤニヤしながら私に迫る。
「あるってなにが?」
「お姉さんが爆笑するほどかわいいケイちゃんの写真!」
「爆笑って失礼だよ!あるけど。」
「見せて!」
「見せて!」
「見せてくださいっ!」
みんな揃ってすごい食いつきだよ…
「いいけど笑わない?」
「笑わないって。かわいいケイちゃん見たいもん。」
「わかった、これ。」
私はまず病院から帰ってきたばっかりのケイちゃんの写真を見せる。
「まあ、こんなに広範囲にかかっちゃたんですね…よくご無事で。」
陽菜ちゃんが右前脚の半分ぐらい毛が切られたケイちゃんの写真を見て心配そうな顔をする。
「ホントに運が良かったよね。これで皮膚に付いてなかったんだもん。」
病院で一緒にいてくれたゆっこちゃんも最初見たときはすごいびっくりしてた。
「やっぱり痛々しいね。早く戻るといいね。」
杏ちゃんもそう言ってくれる。やっぱりみんな優しい。
「それでね、お姉ちゃんがエリザベスカラーのケイちゃん見て笑うの。だから笑われないようにケイちゃんかわいくしたのがこれ。」
私は次の写真を見せた。
「ぷーっ!なにこれ!?かわいいっ!!」
「あっ、杏ちゃん笑った!!」
笑わないって言ったのに!
「いや、だってこれ笑っちゃうほどかわいいよっ!食パンに顔突っ込んでるケイちゃん!!」
杏ちゃんはそう言って笑う!もう、ホントに失礼!!
それにゆっこちゃんだって顔引きつらせて肩ふるえてるのわかってるんだからねっ!!
「こっ、これはっ!」
そんな中、陽菜ちゃんだけはちょっと違ってた。なんか驚いて顔が険しい?
「結ちゃん、ま…ケイちゃんにこんな格好させていいのですか?」
「え?ケイちゃん別に嫌がってなかったけど。」
ちょっと陽菜ちゃんが何言ってるのかわからない…
「そうですか…」
陽菜ちゃんはつぶやいて写真をじっと見る。
しばらくすると陽菜ちゃんは顔を上げて険しい顔のまま私の手を取る。
「結ちゃん!」
「は、はいっ!」
「ケイちゃんをこんなに可愛くしてくれてありがとうございます!!」
さっきまでの険しい顔はどこへやら、陽菜ちゃんの目はキラッキラ、顔はとろけそうなほどになってた。
「陽菜ちゃんわかる?このケイちゃんのかわいさが!?」
「はい!ケイちゃんの黒い毛並みと対になる真っ白な食パン、それに顔を突っ込んだこの可愛さ!!」
「そうそう!やっぱ陽菜ちゃんわかってくれるんだね!!」
「もちろんです。こんなにかわいいケイちゃんにすぐにでも会いたいです!!放課後遊びに行ってもいいですか?」
「もちろんだよ。ケイちゃんと一緒に遊ぼうね。」
「はい!」
陽菜ちゃんすっごくうれしそう。やっぱりこのかわいさをわかってくれるのは陽菜ちゃんなんだね。
「あ、ずるい!私も行きたい!」
「杏ちゃん笑ったくせに。」
「そうですね、薄情者の杏奈ちゃんは放っておきましょう。」
「ごめんって!ケイちゃん笑っちゃうほどかわいかったからだって。」
「つーん。ほらもう休み時間終わっちゃうから席戻らないと。」
「結ちゃーん、ごめんって!」
薄情者の杏ちゃんなんて知らないもーん。