90.開かずの間秘密(その1)
「ケイちゃん、おはよう。」
朝になるといつもの通り結が起きてきて我に挨拶をする。
「にゃ~(おはよう、早く飯の準備をするのだ。)」
朝食は一日の活力だ。今日は平日なのでしっかり食べて調査をせねばならん。
結が我の朝食の準備をしていると、父親がリビングに入ってきた。しかし平日だというのにいつもの出かける姿と違って、ずいぶんとラフな格好をしている。
「おはよう。」
「おはよう、パパ。あれ?今日はお仕事は?」
結がその姿を見て疑問に思ったのだろう。
「あぁ、今日はお休みなんだ。」
「そうなんだ。お家いるの?」
「うん、今日は一日ゆっくりしてるよ。」
「いいなぁ。」
なんと今日は父親がいる日なのか。そうなると下手な動きはできなくなるな…
「はい、ケイちゃん。朝ごはんだよ。」
我は用意してもらった朝食を食べながら、どうやって調査するのか考えていた。
結と舞衣が学校に出かけた後、父親と母親はリビングでゆっくりしていた。
おかげで我は調査に出ることもできずに、キャットタワーで大人しくしている。
「今日はどうするの?」
母親が父親に問いかける。
「うーん、久々に部屋にいようかな?」
「また?こないだの休みも一日籠もってたじゃない。」
「そうだっけ?でも最近部屋の掃除もしてないからやっとかないと。」
「あの部屋だけじゃなくて家の掃除やってくれてもいいのよ?」
「それは…今度みんなでやるときに手伝うよ。」
「そう言っていっつも家のことはあんまりやってくれないのね。」
「そ、そんなことないって。今日はちゃんと手伝うよ。あ、洗濯は僕がやろっか?」
「結構です。それに洗濯は舞衣がパパにやってもらうのは嫌がるから。」
「えっ、もうそんなこと言ってる?」
「別にどうしても嫌ってことはないでしょうけど。下着とか恥ずかしいんでしょ。」
「あぁ、こうやって父親離れしてくんだね…」
「パパの物と一緒に洗濯しないで、とか言われるよりマシでしょ。」
「舞衣と結にそんなこと言われたら立ち直れないよ…あの子達はそんなこと言わなそうに育ってくれたと思うんだけど。」
「高校生になったらわからないわよ?」
「せっかくの休みなのにテンション下がること言うのやめて…家事はちゃんと手伝うから。」
「はいはい、なんかあったら声かけるから。」
どうやらこの家の父親の立場はそれほどいいものではないようだな…不憫な。
一家の大黒柱としてどっしり構えていればいいものを。まあ見た目からして頼りなさそうだからな。
それにしても父親が言っている『部屋』というのが少々気になる。いつも夫婦が寝ている2階の寝室のことか?
「それじゃ、部屋にいるから。」
気になった我は父親がそう言ってリビングから出ていくのを見て、こっそり後をつけることにした。
父親はリビングを出ると、階段の方へ歩いて行く。
(やはり寝室へ行くのか?我の思い過ごしだったか。)
ならば特に気にすることはないか。それに2階にいるのなら調査に支障もなかろう。
そう思い踵を返そうとすると、父親は階段には行かずにその奥にある部屋の前で立ち止まった。
(あれはいつも鍵がかかっていて入れない部屋ではないか!)
そうか、あの部屋の鍵は父親が持っていたのか!だとするとこれは大きなチャンスではないか!!
『カチャッ!』
鍵が開く音が聞こえた。やはり『部屋』とはこの部屋のことを言っていたのか。
父親がドアを開けて入ろうとしているのを見て、我は慌てて後を追う。
『チリーン』
我が急いで動いたために首の鈴が鳴った。それに気づいた父親と我の目が合う。
「ケイ、いたんだ。この部屋は危ないから入っちゃダメだよ。それに猫の毛が入っちゃったら困るからね。」
そう言って我はあっけなく捕まる。
「にゃー(貴様、あの部屋に何を隠している!)」
危ないということは何か特殊な物を隠しているに違いない!もしかしたらこの世界の重要な技術かもしれん!
「ごめんね、ケイ。後で遊んであげるから。」
「にゃー!(そんなことはどうでもいい!何を隠しているのだっ!!)」
そして我はあっけなくリビングに連れて行かれた…
「部屋にいるんじゃなかったの?」
我を抱えてリビングに戻ってきた父親に母親が尋ねる。
「そうなんだけど、部屋にケイが入ろうとしたから。あの部屋はいろんな物があって危ないから。」
そう言って父親は母親に我を引き渡す。
「なるほど。ケイ、あの部屋は入っちゃダメだからね。」
「にゃー(貴様ら、何を隠している?)」
「今日は私と一緒にリビングにいましょうね。」
そして母親に抱きかかえられる我。その間にリビングを出ていく父親。
こうして我は開かずの間の秘密を暴くことに失敗したのだった…





