77.猫の夜更かし
誰視点かを追記しました(2022/11/23)
ケイ視点
「まったく、舞衣ったら何度も蒸し返すんだから。」
子供達がいなくなったリビングで、我は母親の膝の上で撫でられている。
母親は父親に愚痴を聞いてもらっている。
それに巻き込まれた我…
(母親を怒らせるとは愚かな小娘よ。)
正直『笑顔』で我を抱え上げたときは恐怖しか感じなかった。そんな母親を前にここから逃げるという選択肢は我には存在しなかった…
「失礼しちゃう!パパ、聞いてるの?」
愚痴を聞いてもらって少々落ち着いたのだろうか?母親の顔は先程のような『笑顔』ではなく、拗ねた子供のような顔になっている。
「聞いてるって。まあ舞衣も悪気があったわけじゃないんだから。」
父親は宥めるように母親を諭す。その顔は苦笑いしているように見えた。
「そうだけど…」
「それに笑顔で威圧する癖直ってなかったんだね。」
「しょうがないじゃない。そんな簡単に直るなら苦労しないわよ。」
母親はバツの悪そうに顔を背ける。
「にゃ〜、にゃ〜(理解しているのなら直すべきだ。正直恐怖しか感じないぞ。)」
理解されないとはわかりながらも、我はそう忠告する。
「ケイ、慰めてくれてるの?あぁ、やっぱりわかってくれるのはケイしかいないのね。」
慰めたわけではないのだが、母親はそう言って我を抱き上げ頬ずりしてくる。
(おや?元はと言えば我の『いたずら』が原因ではなかったか?)
怒りの元の相手に頬ずりして恍惚の表情になるとは…
我には母親の思考回路が全く理解できない。
我は早く逃げ出したい気持ちをぐっと堪えてされるがままになっていた。
(さて、やっと静かになったか。)
母親と父親もリビングから出ていって静寂が訪れた。明かりは消されているので暗いのだが、我にははっきり見える。
(これが夜行性ということなのだろうか?)
猫としてしばらく生活してみてわかったのだが、暗闇を苦にしない。明るいときより見えにくいのは確かだが、大体見えているのだ。
(そろそろ時間的にもちょうどいいか?)
リビングから人がいなくなってある程度の時間が経った。そろそろ家の者も寝静まった頃であろう。
そう、最近午前中寝ているのは深夜に活動しているからだ。
しかし深夜で誰もいないとは言え、リビングの外に出たりして騒がしくする訳にはいかない。バレたらどうなるかわからんからな。
そこで我が目をつけたのがテレビである。テレビであれば外に出る必要もないし、この世界の情報を得るにはうってつけなのだ。
我は父親や結が扱っているリモコンという道具の使い方を注意深く観察して、最近とうとうテレビをつけることに成功したのだ。
(爪を使ってこのボタンを押すと。)
我がリモコンに爪を立てるとすんなりとテレビがついた。
そう、最近までつけることができなかったのは爪を切られていたから。
猫のぷにぷにの手ではリモコンの細かいボタンを押すことができなかったのだが、爪が伸び始めてなんとか狙ったボタンだけを押すことができるようになった。
(さて、音の大きさも抑えて。)
バレないように音量調整をしてテレビを見ると、今日はアニメがやっていた。
(おぉ、これは先週いい感じに続きが気になると思っていたやつか。)
テレビには人間が乗って操縦するロボットと呼ばれるもので戦争をしている映像が流れていた。平和な世界だと思っていたが、そんな世界でも戦争を題材にした物語があるものなのだ、と最初は思った。
(それに最初はこんなものを使った戦争なんて衝撃的過ぎた…)
もし我らの戦争で人間がこんなロボットに乗って攻めてきたら、我ら魔族は一瞬で滅ぼされてしまうだろう。そんな技術力があるのかと震え上がったのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
さすがに物語の世界を実現できるほどの技術力はまだ存在しない、ということは普段のニュースを見ていれば理解できた。
(しかし、そうなると人間の想像力というのはあまりに逞しいな。)
我の世界で物語といえば、昔の戦争を題材にしたものや、魔法が中心のものがほとんどだ。つまり我らの歴史や生活に密着しているのである。
それなのにこちらでは歴史、戦争、魔法、技術とあらゆる可能性が物語となっている。
魔法が存在しない(多分)世界なのに魔法の物語があったり、技術的に実現不可能なものが物語として作られていたり。
この世界の人間とは想像して創造することに特化しているのではないか?と思ってしまうほどである。
…などということを考えていたらアニメが終わってしまっていた。
(ぬぅ、今日は戦いの場面ばかりで若干不満だった。)
いつもは人間関係のいざこざや、裏で操る人間等、いろいろな要素があって興味を惹くのだが、たまにこうやってロボットが前面に出てくるだけのときがある。
(やはりどこにでも悪人というのはいるものだ。)
この世界に来てから出会った人間に悪印象を持つような者がいなかったため、こちらの世界の人間は少々違うのか?という考えが浮かんだこともあったが、やはりそうではない。
人間もそれぞれ。向こうの世界でもフィアナという協力できる人間もいたわけだし、たまたま運良くこの家族のような善人に拾われた、ということなのだろう。
そんなことを考えていると、次の物語が始まったようだ。
(お、今度は学校が舞台のあのアニメか。)
結や陽菜が学校という場所に行っているのは知っているが、どのような場所なのか知らなかった我には非常に興味深いアニメである。
我はこうしてテレビに夢中になるのだった。





