70.舞衣の策略
誰視点かを追記しました(2022/11/23)
ケイ視点
懸案事項が解決した我はスッキリしていた。
何より陽菜を警戒しなくて済むどころか、心強い味方を手に入れたことによって、これからの調査に光明が開けたというものだ。
なので今日は久々に調査に赴いている。今回のターゲットはトイレだ。
前々から気になっていたのだ、トイレの近くを通っても全然嫌な臭いがしないことに。しかも同じ建物内にトイレが設置されていることに。
トイレなどどう考えても臭いが発生する場所だろう。だから我の常識だと別の建物や外に設置して部屋に臭いが来ないようにするもののはず。
我のトイレを結達が清潔に保ってくれているように、自分たちのトイレもかなりしっかりと清潔に保っているのだろう。しかもこの世界の技術のことだ、きっと我の思いも寄らない手法に違いない。
そんなわけでリビングから抜け出した我はトイレの前にやってきていた。トイレのドアもリビングと似たような作りだから今の我には開けることなど容易いこと。我はいつも通りにドアを開けて中に入った。
中にはとてもキレイな白い陶器かなにかで作られたものが1つ置かれている。そしてトイレ特有の嫌な臭いもしない。
(…なんだこれは?)
用を足すのだから何かしらの穴があるはずだと思っていた我は面食らってしまった。こんな陶器をどうやって使うというのだ?
よく見ると蓋がついているのか?となると、この蓋を外すことで使えるようになるのかもしれん。
まずはいろいろ確かめるために我は蓋の上に飛び乗った。すると壁についているものがいくつかあることに気づいた。
(これは何かに巻きつけられた紙か?もしかしたらこれが用を足した後に拭く紙なのか…)
我の世界でも紙で拭くことはあるが一般的ではない。ある程度の身分がないとそんなところに金をかける余裕などないからな。
それがこんなに白くてキレイな紙を使っているということは驚くべきことだが、陽菜も言っていた通りこの世界の技術力はかなりのものだということがわかっているので、これが普通のことなのだろう。
他にもタオルが掛けられているのは手を拭くためか?他にはよくわからない四角い何かが取り付けられているが何であろうか?なんとなく押せそうな感じはしているのだがよくわからん。
(どうする?試しにあれに飛びついてみるか?)
今の我ならあれに飛びつくだけなら容易いが、飛びついた後に掴まっているのは困難だろう。やるなら飛びついてあの押せそうなところを触ってみるぐらいだろう。
そう思案していると、足音が聞こえてきた。
(母親が気づきおったか…)
今の我にはドアを開けることはできても閉めることはできない。母親がドアが空いていることに気づけば、当然我がいることにも気づくはず。
今日の調査はここまでか、と観念するしかないと思ったところにやはり母親がやってきて、我は抱えられていくのだった。
結視点
「結、お姉ちゃんは不満です。」
学校から帰ってきてケイちゃんと一緒にゆっくりしてたらお姉ちゃんが急にそんなことを言い出した。
「どうしたの?私なにかしちゃった?」
「結にじゃない、ケイに不満です。」
ケイちゃんに?何かあったのかな?
「ケイちゃん?ケイちゃんがまたいたずらでもしちゃったの?」
最近ケイちゃんはいい子にしてくれてると思うんだけどな。
「いたずらはどうでもいいの。いや、ケイってすごい大人しいからもうちょっといたずらしてくれてもいいんだけど。」
確かにそうかも。最初の頃はケイちゃんもっといたずらするんだと思ってたけど、あんまりないからあれ?って思ってる。
「ケイって午前中は結構動いてるわ。今日も気づいたらトイレにいたから連れ戻したんだから。」
話を聞いてたママがそう教えてくれた。そっか、私たちがいないときにいろいろやってるんだ。
「そうじゃなくって。ケイって抱かせてくれるし撫でさせてもくれるじゃない?」
「うん、かわいいよね~」
今も一緒にゴロゴロしてくれてる。こんなにかわいいケイちゃんの何が不満なんだろ?
「それはいいの、かわいいし嬉しいし。でもなんか懐いてるって感じがしないと思わない?」
「そうかな?」
「そうなの。結にはそうじゃないかもしれないけど、私にはなんとなく『させてくれるけどそれだけ』って感じがする。」
「ケイちゃんいい子だと思うんだけどなぁ。」
「いい子だよ。でもそうじゃなくって…」
どうしよう?お姉ちゃんが言ってることがよくわからない…
「お姉ちゃんどうしたいの?」
「ケイともっと遊びたい!!かわいいとこ見たい!!」
あ、そういうことなんだ。
「じゃあ一緒に遊ぶ?」
「ふっふっふ、今日は秘密兵器を用意したからね。これならケイもイチコロだよ。」
なんだろう?いつものお姉ちゃんじゃないみたい…
「ケイちゃん危なくない?大丈夫?」
なんか不安になってお姉ちゃんに聞いた。
「私がケイに危ないことさせるわけないじゃない。大丈夫、きっとケイも気に入るよ。」
なんかよくわからないけどケイちゃんが危なくなければいいかな?それにケイちゃんのかわいいところ見れるなら私も嬉しいし。
私はケイちゃんを抱きかかえてお姉ちゃんと遊ぶことにした。
ケイ視点
…逃げ遅れた。
舞衣が急に変なことを言い出したから怪しいとは思ったが、我を弄びたいなどと言い出すとは…
やはりこの時間は覚悟するしかないのか。我はため息をつきたいのを我慢しつつ大人しくしていた。
「ケイ、いい子でいられるのも今のうちだけよ。これを見よっ!」
舞衣はなにか平べったいものを手に持っている。
「わぁ、それって猫ちゃんが大好きなアレだよね?」
「そう、猫まっしぐらのアレだよ!」
まっしぐら?我が何故あんな物に夢中にならなければならんのだ?理解不能だ。
「これを開けて…結、ケイを床に降ろしてくれる?」
「はーい。」
結はそう言って我を床に降ろす。なんだ?舞衣が何かを開けたらやたらいい匂いがしてきたぞ?
「それではこれをちょっとだけ出してケイの鼻に近づけると…」
(こっ、これは!?)
舞衣が差し出してきたものはやたらいい匂いがする。魚の芳醇な香りが我の腹を刺激する。
我は恐る恐るそれを舐めてみる。すると、
(旨いっ!これは旨いぞっ!!)
我は夢中になってしゃぶりつこうとしたところで舞衣が『すっと』手を上げる。
「にゃー!(貴様っ!何をする!)」
「ケイ、美味しい?美味しいでしょう?もっと食べたいでしょう?なら私に媚びるがいいよ!」
なん…だとっ!貴様、魔王である我に媚びろと言うのかっ!!
こんな姿になっても我は魔王ぞっ!人間に媚びるなどできるわけがなかろうがっ!
「ほらほら、こんなに美味しいんだよ~」
舞衣は再び我の鼻に近づける。
(こっ、こんなこしゃくな手に我が屈するとでもっ!屈すると…)
我の舌が伸びる。
舞衣が手を上げる。
そして再び鼻先に…
「にゃ、にゃぁ…(我にそれを与えてください…)」
我は舞衣に屈した…
「はい、よくできました~。ゆっくりお食べ~。」
舞衣がそれをちょっとずつ出してくれる。それを舐め取る我。
(悔しいっ!…でも美味しい~♪)
我は屈辱にまみれながら美味しいおやつを頂いたのだった。