67.再会
誰視点かを追記しました(2022/11/23)
ケイ視点
最近いろいろあって何も調査ができていない…
しょうがないだろ、陽菜という要注意人物が出てきたと思ったら、今度は去勢騒ぎ。
いくら我とはいえ平静でいられるわけがない。
(正直去勢騒ぎで陽菜のことはすっかり忘れていたのだが。)
あれから陽菜もやってこないので確認しようもない、ということは間違いないのだが。
「ただいま~」
どうやら結が帰ってきたらしい。
「お邪魔します。」
(この声はっ!)
結の声に続く陽菜の声にハッとする。
(来たか、今日こそ正体を暴いてやるっ!)
我は最大の警戒心を持って待ち構えた。
「ケイちゃん、今日も陽菜ちゃん遊びに来てくれたよ。」
結はいつものようにニコニコしながら我に近づいてきた。
「こんにちは、ケイちゃん。」
こちらも笑顔で現れる陽菜、もう我には偽りの態度にしか見えん。
「お帰り結。あら、陽菜ちゃんも来てるの?」
「うん、遊びに来てくれたよ。」
「いらっしゃい。そうなの…困ったわね。」
「どうしたの?」
「ママはこれから出かけなきゃならないんだけど、ちょっと結にお使いお願いしたかったんだけど…」
結を出迎えた母親が困り顔で言う。
「今日は都合が悪かったですか?」
「あ、陽菜ちゃんは気にしなくていいのよ。でもどうしようかしら…」
母親は陽菜に気を使って言う。
「ママ、お手伝いするよ。約束だもん。陽菜ちゃん、せっかく来てくれたのにごめんね。」
結も申し訳なさそうにしている。
「あの、結ちゃんのお使いはそんなに時間かかりますか?」
「そんなにはかからないはずよ、1時間ぐらいかしら。」
「だったらその間お家で待たせてもらってもいいですか?せっかく遊びに来たので。」
「それはいいけど、一人にしちゃうわよ?」
「ケイちゃんと一緒にいますから大丈夫です。」
何?陽菜と二人(?)になるということか?それなら話をつけるのに都合がいい。
(都合がいいが、陽菜も意図的に我と二人になるようにしたのではないだろうか。)
「陽菜ちゃん、大丈夫?」
「はい。結ちゃんとも遊びたいですし、ケイちゃんとも遊べるなら嬉しいです。」
「そっか。ママ、お手伝いちゃんとやるから陽菜ちゃんに待ってもらってていい?」
「いいわよ。それじゃあ陽菜ちゃんも申し訳ないけどお留守番よろしくね。」
「はい、大丈夫です。いってらっしゃい。」
こうして我は陽菜と二人で留守番することになった。
(…どうしてこうなった。)
我は陽菜の膝の上で撫でられている。
陽菜は結や母親がいる手前、大人しくしていた我を抱え上げて膝に乗せて今に至る。
(我は真面目な話をするつもりだったはずだが。)
(表面上は)嬉しそうにニコニコしながら我を撫でる陽菜に我は話を切り出す。
「にゃ~(貴様は何者だ?)」
我は二人が出掛けたのを確認すると陽菜に問いかける。
「まあ、魔王様は私のことを覚えていないのですか?私は魔王様のことを1日たりとも忘れたことなどないのに…」
陽菜がわざとらしく科を作る。
「にゃー(もうごまかされんぞ、貴様は何者だ。)」
我は語気を強めて聞く。
「魔王様はつれないですね、私がこんなにもお慕いしていますのに…」
なかなか言い出さない陽菜に少々イラついてくるが、この言い回しはどこかで覚えがあるような…
「にゃ、にゃー!(貴様、まさかフィアナかっ!)」
「魔王様、やっぱり思い出していただけました。私の想いが通じたのですね♪」
陽菜は感極まったように我を抱きしめる。
「にゃー!(苦しいわっ!離せ!!)」
「嫌です、やっと魔王様にお逢いできたのです。あぁ、お久しぶりです魔王様。」
『フィアナ・ソレイユ』
人間の国の女王でありながら我ら魔族に協力を求めた変わり者。
それだけにとどまらず、魔族領に押し入って無理やり魔軍に入り込んだ稀代の魔術師。本来ならば勇者と共に我を討伐に来てもおかしくはない実力を持っていた。
もう数百年前の話にはなるが、そんなインパクトのある変わり者は他にいなかったため、さすがに覚えている。
そしてフィアナだとわかって我は安心する。フィアナなら我を裏切ることは決してない、と断言できるからだ。
「にゃー!(わかったから離せっ!)」
「嫌です!前世では魔王様をこうやって抱きしめることもできなかったのですから。」
そう、フィアナは転生前の世界でも我への好意を隠そうともしなかった。
だが我は魔王として君臨していたし、フィアナは部下の一人でしかなかった。
それに不満を言うことはなかったが、事ある毎に好意を寄せてくるフィアナに困らされたことは数知れず…
猫の力では無理やり引き剥がすこともできない我はされるがままになるしかなかった。
ーーーー 以下、フィアナとの会話では猫語はなくなります ーーーー
やっと開放された我はフィアナの横に座って状況報告をすることにした。
「それにしても貴様もこちらの世界に転生していたとはな。」
「はい、魔王様に看取っていただいて間もなくこちらに転生したみたいです。こちらに来て10年ほどになります。」
(ん?10年?)
「それは奇妙だな、貴様が死んだのは数百年は前のはずだ。」
「えっ?」
「貴様がいなくなってから、我は1度転生している。だから少なく見積もっても500年は経っているはずだ。」
「魔王様は私がいなくなってから2度も…」
「そういうことになる。」
今の話が本当ならフィアナと我の時間軸がかなりずれていることになる。
(まさかこちらの10年があちらの500年だったりしないよな?)
だとしたら早急に戻る必要がある。どうやったら戻れるかはわからんが最優先で考えなければならない事態になる。
(まあ考えてもわからんことか…)
それを確認することも証明することも今の我には不可能だ。なら今は我のできることをやるしかあるまい。
「魔王様はなぜこちらの世界に転生なされたのですか?」
「知らん。気づいたら猫になっておったわ。」
「そうですか。それにしてもずいぶんとお可愛らしいお姿ですね♪」
フィアナはそう言うと、また我を捕まえようとする。
「やめんかっ!」
我はフィアナから距離を取る。あからさまに残念そうな顔をするフィアナ。
「そういえばソレイユ国はあの後どうですか?」
元女王として気になるのだろうか、フィアナは我に聞いてきた。
「ん?…あぁ、相変わらずの関係だぞ。」
我は若干言葉を濁して言う。
これは嘘だ。本当はソレイユ国は遥か昔に滅亡している。
我がいない数百年の間に魔国との密約が他の国に嗅ぎつけられ、同じ人間の手によって滅亡したのだ。
フィアナの存在が我に『人間と少しは交渉の余地があるのではないか』と思わせるものだったのだが、ソレイユ国の滅亡という事実は我に『人間など信用するに値しない』という考えに至らせるには十分だった。
しかし、それを知らないフィアナに本当のことを教える必要もないだろう。
「それでしたら安心ですね。魔王様はこれからどうされるのですか?」
話を掘り下げられなかったことに安心した我は現状をフィアナに話す。
「この世界の技術を持って帰るのですか?それは少々難しいのではないですか?」
「難しいのはわかっている。だがこれほどの技術力があれば人間との戦争もかなり有利になると思わんか?」
「それは思いますけど、どうやって解明するのですか?」
「それはこれから考える。だが原動力はわかってきた。この世界の動力は電気なのだろう?」
「そうですけど、それだけではないですよ?それに発電の方法だってわかるのですか?」
「発電?電気を作る方法のことか?それなら雷なんだろう?」
「雷も電気ですけど、発電方法は違いますよ。」
「なに?そうなのか。フィアナはわかるのか?」
雷から電気を作っているのではなかったのか。
「わかりませんよ。私はまだ子供ですよ?」
「10年もこの世界にいてわからないのか?」
「そんなに簡単にはわかりませんよ。それに私だって全く技術が違う世界から来たのですから最初はとても混乱しましたし。」
「やはりそうなのか…」
そんなに難しい技術となると習得に何年、いや何十年かかるのか…
「まあ私の場合は魔王様がいらっしゃらない世界ですっかりやる気をなくしていましたから。」
「つまり調査を全くしていないのか。」
「しょうがないではないですかっ!魔王様がいらっしゃらない世界が悪いんですっ!」
コイツは…
「まあいい。それならこれからはまた我のために働いてもらうぞ。」
「はい!魔王様が望むなら発電の仕組みも調べてみせますね。でも子供のできる範囲で、ですけど。」
「そうだな、怪しまれるようなことは避けねばならん。」
しかし猫である我よりは自由に動けるだろう。これで調査が進むというものだ。
「これからも結ちゃんと遊ぶ名目でなるべく来るようにしますね。」
「うむ。結にバレないようにタイミングを見計らって情報交換をするぞ。」
「はい。あ、そろそろ結ちゃん帰ってくると思いますから猫ちゃんに戻ってくださいね。」
「くっ、もうそんな時間か…」
まだ聞きたいことがいろいろあったのだが。そう思っていると玄関からドアの開く音が聞こえた。
「ただいま〜。陽菜ちゃん、待たせちゃってごめんね。」
結はキッチンの方に荷物を置いて、すぐにこちらにやってきた。
「また今度、ですね。」
フィアナは小声で我に言った。
「大丈夫です。ケイちゃんと楽しい時間を過ごさせてもらいましたから。」
「いいなぁ、私も陽菜ちゃんとケイちゃんと一緒に遊ぶっ!」
「そうですね。みんなで一緒に遊びましょう。」
陽菜はそう言って我を見る。その顔を見て何故か嫌な予感しかしない。
…そこから先は思い出したくない。
我は結と陽菜に散々弄ばれた…