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大魔王→黒猫  作者: (著)まっつぅ♪ (イラスト)SpringFizz
66/106

65.とある世界の少女のお話

猫の日の投稿なのに猫が出てこないという暴挙に出てしまいました。

SpringFizz様のイラストはありません。

今回は少々いつもと違うお話になりますが、全く無関係なお話では当然ありません。


誰視点かを追記しました(2022/11/23)

とある世界の少女視点


『バチーンッ!!』

私の頬を叩かれる音が部屋に鳴り響く。

「きゃあっ!」

私は叩かれた衝撃で倒れこむ。それを上からすごい形相で睨みつける継母。

「なんであなたはこんなこともできないのかしらっ!!」

「ごめんなさい!!」

私は恐怖で咄嗟に謝ります。それを見てますます不機嫌になる継母。

「あなたそれでもソレイユ家の娘なのっ!?こんな初歩の魔法もロクに使えないなんてっ!!」

「…ごめんなさい。」

ソレイユ家、私の家はこの国の王族です。ソレイユ家は古くから魔法の才に秀でた者を多数排出し、その力で国を治めています。

また魔族領に最も近い国のため、人間と魔族の戦争が始まると最前線となる国でもあり、そのため王族には民を率いる力を見せる必要があるのです。そしてそれが魔法の力です。

私には義兄が2人、義姉が1人いて、その3人はとても強い魔力を持ち、そしてそれを見事に制御しています。

私はというと…

「所詮は雑種ねっ!この面汚しっ!!」

継母は私を睨みつけながらそう言って部屋を出ていってしまいました。

私達4人兄妹の父は現国王、そして上3人の母は今出ていった継母、つまり現王妃です。私の母は父の妾だった人で1年前に亡くなっています。

私は生まれの関係上王宮では良い立場ではないことはわかっていますが、母が生きていた頃はここまでではなかったのです。きっとそれは父と母が私を守ってくれていたのだと今ではよくわかります。

しかし母が亡くなってから、父は私に興味を失ったのか会うこともなくなってしまいました。

それからだんだんと王妃にキツく当たられるようになり、先程のようなことは日常茶飯事となっているのです。

私はこの国始まって以来の大きな魔力を持っている…らしいのです。

『らしい』というのは自分ではわからないし、先程のように初級魔法を扱うことすらままならないのです。

この国の王族に重要なのは魔法力です。なので私はいつの間にか次期女王候補と噂されるようになっていました。

王妃がそれを快く思わないのは当然です。だって私はこんなに魔法が下手なのですから。

いえ、王妃だけではありません。次期女王候補と噂している方々も魔法が使えないとわかると『魔力だけあって魔法の使えないダメ候補』と揶揄するようになりました。

私が魔力を完全に制御し、みなさんを納得させることができればこのような扱いは受けないはずなのです。

(でもがんばってもできないものはできない…)

私だって毎日がんばって練習しています。でもいつになってもちゃんと制御できるようにならない。

(つらい…逃げたい…)

逃げたところでどうしようもないことはわかっています。私のような子供が王宮を出て1人で生活していけるわけがありません。でも…

私は誰にも気付かれないようにそっと王宮を抜け出してしまったのでした。


王宮を抜け出し、街を抜け出した私は森を彷徨っていました。

(ここどこでしょう…)

そう思いながらも正直どこでもよかったのです。

王宮でなければ私をいじめる人もいない。

人がいなければ私は責められない。

私は薄暗い森をただひたすらに進んでいきました。

しばらく進んでいると、何か嫌な感じがしました。それが何かはわかりませんがとても嫌な感じがするのです。

私は足を止めようとしましたが、ちょうど足場が泥濘んでいたようで足を滑らせ尻もちをついてしまいました。すると、

『バキッ!!』

そのまま進んでいたら私が通ったであろう場所を、何か大きな物がすごい勢いで通り抜けました!

「ひっ!」

それは私の何倍もの大きさのムカデでした。ムカデは私を完全に獲物として認識しているみたいです。

「…ゃ、いや…」

私は恐怖で全く動けなくなっていました。まともな声も出ず、ただ恐怖に震えることしかできませんでした。

(私死ぬの?こんなこところでムカデの餌になって…)

どうせ生きてても良いことなんてありません。そんな考えも浮かびました。

でも再びムカデが私に襲いかかろうした瞬間に私の頭の中に浮かんだのは、

(いやっ!私死にたくないっ!!)

そのことに気づいたときにはもう遅かったのです。だって私はすぐにムカデに食べられてしまうのですから。

迫り来るムカデ、死にたくないと祈る私。

そのときでした。私のすぐ近くでものすごい音と衝撃が起こったのです。

私は衝撃で地面を転がってしまいました。何が起こったのか全然理解できません。

やっとのことで目を開けると、そこには誰かが立っていました。

そして先程のムカデはというと、なんと身体の半分がなくなって倒れていたのです!

「ふん、やはりこの辺りの魔物も活性化してるか。全くもって厄介なことだ。」

いつの間にか現れた『誰か』はそう呟いていました。

「あ、あのっ!」

私はがんばって声を出しました。

「ん?貴様、人間の子供かっ!」

その方はそう言って私を睨みつけます。一度見たら決して忘れられないほど美しく印象的なオッドアイ、そしてその姿はとても人のものとは思えないものでした。

「あの、助けていただいてありがとうございます!」

ムカデに襲われていた私にとってこの方は命の恩人です。見た目が怖くてもムカデに襲われた恐怖から感覚が麻痺していた私にはなんてことはありませんでした。

「我が人間を助けるわけがなかろうがっ!活性化した魔物の調査をしていたら『たまたま』貴様がいただけだ。」

そう言って私を睨みつけます。

「でも助かりました。ありがとうございます!」

どんな理由でも、結果私の命が救われたのは事実です。

「黙れっ!助けたわけではない、と言っておろうがっ!」

睨みつけながら怒鳴るように私に言います。でも何故でしょう?私は少しも怖くないのです。

「ありがとうございます。貴方様は私の命の恩人です。」

私は自分の知っている限りの礼儀と敬意を持って感謝をしました。

「だから感謝される謂れはない、と言っておろうが…」

見た目からして魔族であろうこの方はそう言って少し戸惑っているように見えます。先程より威圧感が薄れているのもわかります。

「ちっ…それで貴様は何故こんなところにいる?このような森の中を子供が1人で出歩くようなことはあるまい。」

他に人間がいると警戒しているのでしょうか?

「それは…」

何故でしょう?私は警戒もせずに今までのことを話しました。

「魔力が上手く扱えずにいじけてる?情けない。」

他に人間がいないことがわかったからでしょうか?先程の警戒心もなくなったようです。

「そのような言い方なさらなくても…」

事実ですけど傷つきます…

「確かに貴様は人間にしては破格の魔力の持ち主だ。それこそどこぞの国の宮廷魔術師が束になっても敵わないほどのな。」

「そんなにですか?」

魔力が多いことは聞かされていましたけど、そんなにすごいとは思いませんでした。

「そうだ。だから魔力量が多い分、制御が難しくなっているだけだ。小さな魔法を使うためにも制御が上手くいってないから大量の魔力が流れてしまって失敗してるだけだ。」

「そうなんですか?」

「だから魔力制御の訓練をすれば問題なかろう。ただしその上で大気中の魔力を制御しなければならないのだから人間が扱うには大きすぎる力であることには変わりないが。」

「でも今までずっとがんばっても上手くいきませんでした…」

それだけで上手くいったらこんなに悩んでいません。

「貴様の努力はどれほどのものだ?たった数年がんばった?それほどの魔力の制御は簡単ではない。貴様は死ぬ気でやったのか?」

「確かに死ぬ気でやってはいませんけど…」

「なら死ぬ気でやれ。努力しろ。貴様を馬鹿にする人間を見返したいのだろう?」

見返したのでしょうか?確かに認められたいとは思っていましたが…

「…我は人間に何を言っているのだ?馬鹿馬鹿しい。」

苦虫を噛み潰したようなお顔でおっしゃいましたが、私には何故か優しそうなお顔に見えました。

(この方は絶対に悪い魔族じゃない。)

私はすっかりこの方を信頼していました。

「我も暇ではないのだ。貴様、さっさと帰れ。」

「あの、帰り道がわからなくて…」

何も考えずに現実逃避していたので、当然帰り道なんてわかるはずありません。

「…はあっ、ここで見捨てて野垂れ死んでも後味が悪い。森の出口までだぞ。」

そう言って私を抱えるとすごい速さで飛びました。あっという間に私は森の出口まで連れてきていただきました。

(やはりこの方はとても優しい方です。)

「ほら、さっさと帰れ。」

私を追い払うように言います。

「何から何までありがとうございます。この御恩は必ずお返しします。」

私がそう感謝すると、

「いらん。我が人間に感謝されることなどない。それにもう二度と会うこともあるまい。」

そう言って私の前から姿を消したのでした。



— 10年後 —

私は王国史上最年少女王として国を率いる立場になりました。

『あの方』に教えていただいた通り魔力制御を死ぬ気でがんばった結果、私の魔法技術は見違えるほど成長しました。たった数年で私に魔法で敵う者はこの国にはいなくなりました。

そして私を祭り上げる人達によって、私は女王になりました。

もちろん事前の根回しで、父には早期ご隠居()()()()()()、兄達には王位継承をご辞退()()()()()()()()()

(そしてそれも私の計画通りなのです。)

私が女王になった理由、それは『あの方』にもう一度逢うためです。

魔族である『あの方』に逢うための計画、『我が国と魔国による出来レース同盟』を結ぶことです。

我が国が魔国との戦争による最前線となることは両国にとってプラスになることなど一つもありません。毎回両国が疲弊するだけです。

しかし魔国と戦わないと他の国から支援が受けられないどころか、魔国と内通している国として疑われ討伐対象国となってしまう恐れもあります。

そこで表向きは対立国として戦争をしてる『フリ』をして両国の被害を最小限に抑えるための同盟を結ぶのです。

(まあ言ってしまえば内通する計画なのですけど。)

そのために魔族と交渉する計画を水面下で進めて、やっと今から魔王との交渉テーブルに就くことができるのです。

(これが私の女王としての最後の仕事となるはずなのです。)

同盟を結ぶことさえできれば国は安泰になります。そうすれば強い指導者などいらなくなるはずです。そして秘密裏に魔族との交流も不可能ではなくなります。

(そうすれば私は『あの方』を探しに行ける。)

そしてそのために魔国と同盟を結ぶ計画を国内に浸透させるための根回しは終わっています。私がいなくなっても同盟破棄に国が動くこともないはずです。

(この扉の向こうに魔王がいらっしゃる…)

魔王に会うことが怖くないわけがありません。しかし『あの方』に逢うためには避けて通れない道なのです。

横に控える魔族によって開かれる扉。もう後戻りはできません、する気もありません。

私は気力を振り絞って部屋に入ります。

「お初にお目にかかります。私はソレイユ国女王の…」

私は目に映る魔王の姿に驚愕して、予め用意した口上を述べようとしても言葉が続かない!

(えっ!なんで?どうしてここにいらっしゃるのですか!?)

魔王が座っているはずの場所にいるのは美しいオッドアイの『あの方』。10年前に1度お逢いしただけですが見間違えるわけがありません!

「どうした?我を直接見て恐怖したか?人間の女王よ。」

どこか懐かしい()()()のお言葉に我を取り戻します。

(いけない、今は女王として振る舞わなければ。)

「大変失礼いたしました。改めまして、私はソレイユ国女王のフィアナ・ソレイユと申します。」

私の心は謁見前とは違う意味でドキドキが止まらなくなっていました。

しかし今は交渉の場、私は『私』を殺して『女王』として振る舞いました。そうでもしないと歓喜のあまり泣き崩れてしまいそうでした。

こうして両国の同盟は滞りなく進みました。


同盟が締結されて1年が経ちました。

両国は表向きは戦争状態となっていますが、大きな被害は出ていません。

全く被害が出ないと疑われてしまいますので、予め決められたシナリオ通りに適度に被害を出します。予めわかっていれば人的被害は抑えられますし、復旧作業も迅速に行えます。

そして気がつけば私は救国の女王として絶大の支持を集めるようになっていました。

内情を知っている王宮内では政策の天才と、内情を知らない国民には予見の女王として誰もが私を敬うようになったのです。

しかしこの日、王宮は大混乱に陥っていました。

「まだ遠くには行ってないはずだ!絶対に探し出せっ!!」

『女王の出奔』私の本当の計画が開始される日がとうとう来たのです。

王宮では女王捜索隊が結成されているようです。

(まあ私を見つけることができる人なんていませんけどね。)

仮に見つかったところで私を連れ帰れる人も当然いません。

(とうとうこの日が来たのです!)

私の目的地は当然魔国。いえ、魔王様の下です。

(待っていてください、魔王様。)

王族としての重責、そして女王の重責から解放された私は初めて単なる一人の女性になれたのです。

そしてまるで恋物語の主人公のようなドキドキした気持ちで国を去りました。


大魔王の下に突如現れた謎の魔女。彼女のせいで人間と魔族の戦争は想定より百年は長引いた、と伝えられるようになるのはまた別のお話です。

さて誰のお話なんでしょうね?(わかりやすい)

今後明らかにしていきたいと思います。

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