63.大魔王の飲み物事情(その3)
誰視点かを追記しました(2022/11/23)
ケイ視点
結局風呂に入れなかった我はモヤモヤした気持ちをずっと抱える事になってしまった。
(気分転換もできず、陽菜の問題は棚上げ状態…)
言葉が通じないことがもどかしい。
そんな状態で今週は調査もおざなりになり、特に成果も上げられないまま週末を迎えてしまった。
「ケイ~、今日もありがとう。モフモフだね~♪」
土曜の朝は決まって舞衣は我を膝の上に乗せてモフる。
こないだ不快な臭いを付けてきて以来、舞衣は毎日我をモフりながら感謝の言葉を述べるようになった。
あの後風呂から上がった舞衣から臭いは消えていたから我は気にしなかったのだが、舞衣にとっては一大事だったようで、
「ケイ、ごめんね!もう他の猫に浮気しないから!!」
と言って、すごい勢いで抱きつかれて大変な目に遭った…
我は臭いが不快なだけで、浮気とか言われてもどうでもいいのだが。
まあそんなことはどうでもいい。今問題になっているのは陽菜のことだ。
(あのときの発言といい、必ずまた来るだろうとは思う。)
週末なのだからさっさと来てくれると手っ取り早いのだが。
我は舞衣の膝の上で悶々としていた。
「今日は約束通りケイちゃんをお風呂に入れてあげるね。」
午後になり、結は我にそう言って近づいてきた。
(おぉ、ついに風呂に入れるのか。)
「にゃー(このモヤモヤを吹き飛ばす熱いのを頼む。)」
「ケイちゃん喜んでくれてる?よかった。」
結は嬉しそうに我を抱えて連れて行こうとすると舞衣もやってきた。
「あ、ケイを洗うなら手伝おっか?」
「私がやるから大丈夫~」
「そお?じゃあ教えたことちゃんとできてるか見てるね。」
「大丈夫だってば。」
「見てるだけだから。」
「私だって一人でできるのに…」
何やら結は不満そうだ。子供扱いされたくない子供というところか。
「いいじゃん、私もケイのお世話したいんだから。」
「はーい。でもお姉ちゃんは見てるだけだからね。」
「わかってるって。」
やっと話がついたようだ。結は我を風呂場へ連れて行ってくれた。
「ケイちゃん、かゆいところありませんか?」
結は我を洗いながら嬉しそうに声をかける。
「にゃ~♪(いい気分だ。褒めて遣わす。)」
望み通りの熱い風呂とはいかなかったが、丁寧に洗ってもらえて気分がいい。
「結、ちゃんとできてるね。まだ2回目なのにすごいね。」
「ケイちゃんのためだもん。ちゃんと覚えるに決まってるよ。」
結は得意気に言う。
(所詮は子供よ。あぁ、そこはいいっ!)
前回は少々おっかなびっくりという感じだった結の指使いだが、今日は力加減も丁度いい。
「はい、それじゃキレイに流すからね。」
我は大満足で入浴を終えたのだった。
「ケイちゃんフカフカ~♪」
例のドライヤーという道具で身体を乾かしてもらい、スッキリした我を結が嬉しそうに抱きしめる。
「結~、ケイの飲み物用意したよ。」
舞衣が飲み物用皿を持ってくる。
(どうせ水なのはわかってるが。)
水が飲めることに不満があるわけではないが、他の物も飲みたいという不満はある。
「ケイ、今日はちょっと違うものにしたんだよ。はい、どうぞ。」
意外にも舞衣はそう言って我の前に皿を置く。そこには透明だが少々色のついた液体が入っていた。
(これは茶か?紅茶のような色をしているが、匂いが香ばしい。)
「あ、お姉ちゃん麦茶用意してくれたんだ。」
「にゃー?(麦茶?麦を用いた茶か?)」
「ケイちゃん、麦茶おいしいよ。喜んでくれるかな?」
名前からして麦を用いたのだろうが、あの白っぽい麦がそのまま茶になるとは思えん。おそらく焙煎した物から抽出したのだろう。
この匂いには惹かれる。我は麦茶を飲んでみる。
「にゃ~♪(美味い~♪)」
これは美味いっ!!焙煎した香ばしい香り、ほんのりと麦の味がするが後味スッキリ!!
我は夢中になって麦茶を飲んだ。
「わぁ、ケイちゃんすごい飲んでるよ。」
「ホントね、こんなに飲むなんて思わなかった。これからはお風呂上がりは麦茶にしてあげよっか?」
「うん!」
結と舞衣が何か話しているようだがそれどころではない。我はこの世界で初めて味わう飲み物に舌鼓を打っていた。