53.猫と少女とテレビと
ケイ視点
今日もリビングを抜け出して調査している。
本日の調査は玄関だ。一見大した事なさそうな気はしたのだが、紙ですらあれなのだ。もしかしたら玄関にだって何か発見があるかもしれん。
我は玄関を注意深く見渡した。
(床は綺麗な石畳のようだ。よほど綺麗に切ったのだろう、表面が光沢している。)
石の面に引っかかりもなく、模様も綺麗に出ている。
(家の中を清潔に保つために靴をここで脱いでいるのか。)
いくつかの靴が置いてあるが、どれも防御性能が高いようには見えない。争い事などない平和な証拠だ。
(それにしてもこの靴…)
靴の素材は布または革を基本としているのはわかるが、ところどころ装飾が施してある。この装飾の素材がわからん。そしてこの靴底…
(何か硬さがあるのに弾力もある。クッション性に優れているのかもしれん。)
どこかで体験したような触り心地な気もするが、どうにも思い出せん。
我が更に詳細に靴を調べようとしていると、
『ガチャッ』
「ただいま~」
玄関のドアが開いて結が帰ってきた。
「にゃ~(ちっ、せっかくいいところだったのに。)」
「あっ、ケイちゃんただいま。お出迎えしてくれたの?」
「にゃ~(我は調査で忙しいのだ。)」
「ありがと~♪でも玄関は汚いから足ふいてからお家入ろうね。」
結は我の話を聞かずに、我を抱きかかえて風呂場の方へ連れて行かれてしまった。
「ケイちゃん、一緒にテレビ見よう。」
夕飯後に結は我を抱えるとソファーに座ってテレビを付けた。
結は定期的に我を誘ってテレビを見ている。アニメというらしい。
初めて見たときは絵がまるで本物のようになめらかに動いて驚かされた。
(絵なのに動く、どういう技術なのだろうか…)
テレビを見ることに異存のない我は、大人しく結の膝の上で抱えられていた。
何度か結と一緒にテレビを見ているが、どうやら定期的に物語を進めているらしい。
大体7日ぐらいか?同じ時間帯で続きの物語が展開されている。
(定期的にすることで計画的にテレビを見ることができるということか。)
なるほど、上手く考えたものだ。定期的にすることで予定が立てやすいし、習慣づけることもできるということか。
我の世界でも定期的に祭事を行うことはあるが、定期的と言っても1年単位だ。このような短いスパンで行われるというのは珍しい。
(それにしてもなんともわかりやすい勧善懲悪か。)
結が見ているアニメは世界征服を目論む悪の組織と、それを阻むために戦う少女たちの物語だ。
(なぜ少女が戦うのだろうか?大人達は何をしているんだ?)
少女が戦う理由がさっぱりわからんが、どうやら謎の生物に魔法の力をもらって戦っているらしい。
(どう考えても大人に魔法の力を渡したほうが効率的に戦えるだろう。)
まあ物語にツッコミを入れても意味はないのだが。
しかしこの悪の組織というのが酷い。何が酷いのかと言うと理想や理念がないのだ。
自分が世界征服したいから、自分が思うように生きたいから。自分が、自分が…
最初見たときに人間と見た目が違う、人間と対立する者、という我ら魔族と似ている境遇だから、と思ったのだがとんでもなかった。
我が長い間人間と戦ってきたのは国を守るためだ。そして魔族を守るためだ。
なぜ人間と魔族が争うようになったのかは昔のこと過ぎてよく覚えていない。
しかし我はむやみに人間と争っているわけではない。我ら魔族が平和に暮らせればそれでいいのだ。
このアニメでも姿形の違うものを悪者に仕立て上げているように、人間は自分たちと違うものを受け入れられない生物なのかもしれない。
アニメのように私利私欲で動いているものを断罪することは当然なのだろう。しかし我には人間と平穏に暮らせる世界が想像できなかった。
以前の我なら今の人間との生活など想像すらしなかっただろう。
命を助けられ、住む場所を与えられ、構われて、可愛がられて、構われて、弄ばれて、構われて…
(構われ過ぎではないか?)
この世界の人間が特殊なのだろうか?それとも人間とはそもそもこのようなものなのだろうか?
我は悪役が少女に倒されるのを見ながら、そんなことを考えていた。