48.初めての注射
「今日はケイを病院に連れて行くからね。」
朝食後にソファでくつろいでると母親の声が聞こえてきた。
(病院?あぁ、あの最初に目を覚ましたところか。)
おそらく定期検診か何かだろう。昨日結達に付き合ったため何もできなかったから、今日は調査をしたいところなのだが…
(まあ娘達は今日も休みのようだから自由には動けなそうだ。)
昨日に引き続き学校へ行く様子のない娘達を見て軽くため息が出た。
「ママ、私も行く!!」
結が嬉しそうにしている。
「私今回は行かない。」
「お姉ちゃん、なんで?」
「明日までの宿題終わってないんだよね。」
どうやら舞衣は家に残るらしい。
「結は宿題終わったの?」
「うん、昨日の夜にやったよ。」
「なら連れてっても大丈夫ね。」
「わーい。」
結は我をここに連れてきた袋を持ってきた。また我はあれで運ばれるのか。
「ケイちゃん、今日は病院にお出かけだからバッグに入ってね。」
この袋はバッグというのか。
「にゃ~(構わんが蓋は閉めるなよ。)」
我は結に抱えられてバッグとやらに入れられた。相変わらず中に入っても外が鮮明に見えるのは興味深い。
我が入ると結が蓋を閉めようとする。
「にゃー!(だから蓋は閉めるなっ!!)」
『ひょこっ!』
「きゃ~、ケイちゃん相変わらずひょっこりしてかわいい~♪」
「ホントあざとかわいいわね。」
またか…まさかこれが見たいがために閉めようとしたわけではあるまいな?
若干うんざりしつつ、我は病院に連れて行かれることとなった。
(やはりこの自動車という乗り物は素晴らしい。)
前回同様自動車で病院へ移動したのだが、やはり優秀だ。
2度目なので周りを見る余裕もあり、余計にこの自動車の優秀さに気づいた。
まず速度、本気の我より遅いとはいえかなり早い。
そして道、この自動車が走る場所は全てしっかりと舗装されているのだ。おかげで振動も少なく、より少ない力で速度も距離も稼げるのだろう。
(街のインフラの整備か。余裕がなくて後回しになっていたが、先にインフラ整備をしたほうが余裕が出るのではないか?)
人間共と争いが絶えない我の世界ではなかなか考えつかない…この世界はよほど平和なのだろう。
我が思案している間に診察室に通されたようだ。バッグから出されて台の上に乗せられた。
「こんにちは、様子はどうですか?」
医者は我を見ながら言った。
「にゃ~(問題ない。以前は世話になったな。)」
「おや、元気そうですね。」
医者は我を見てニコニコしている。別に男を喜ばせる趣味はない。
「ケイちゃん元気にしてます。ご飯もドライフード食べられるようになりました。」
結がいつもより丁寧に話している。
「それはなによりですね。体調も問題ないようですし、本日は1回目の予防接種をしましょう。それではまず体温を測ります。」
そう言うと医者は何か棒のような物を持って我を押さえつけた。別にそんなことしなくとも我が暴れることはないが。
『ブスッ』
「にゃー!!(キサマっ!何をする!!)」
医者は持っていた棒をあろうことか我の肛門に突き刺したのだっ!!
「ほら、ケイちゃん暴れないの。体温測ってるからね。」
結が何か言ってるがそれどころではない!!我は暴れようとするが、医者に押さえつけられ身動きが取れない。
しばらくすると医者は棒を抜いた。
「はい、体温も問題ないね。」
「しゃー!!(問題ないわけあるかっ!!)」
なんたる屈辱!!まさか肛門にあんなっ!あんなものを突き刺されるとはっ!!
「それでは注射打ちますね。はいケイ君、暴れないでね。」
「にゃ、にゃー!!(なんだっ!キサマ何を持っている!?それで我をどうするつもりだっ!!)」
医者は手になにか鋭い針が付いた道具を持っている。針と言えば蜂が攻撃のために使うものだ。つまり今から我に刺すということかっ!!
「にゃー!!(待てっ!!キサマ医者ではなかったのかっ!!)」
逃げようとする我を簡単に押さえつける医者。そして
『ブスッ』
「にゃー!!(ぎゃー!!)」
我の首筋に針が刺さり、体内に何かが注入されたのだった。
「これで1回目の予防接種が完了しました。来月また2回目を受けに来てくださいね。」
「ありがとうございました。」
…医者の説明だと我の身体に病気になりにくくなる薬を注入したらしい。
「ケイちゃん、怖かったね。でもちゃんと受けれて偉いよ。」
結は我を抱えて頭を撫でている。
(知らなかったこととはいえ、子供のように大騒ぎしてしまった…)
我は恥ずかしさのあまりバッグの中で丸くなって帰宅するのだった。





