46.猫の乗り物?
母親に抱えられた我は元の部屋に戻ってきた。
「ケイ、まだあまりいろんなところに行っちゃダメよ。そのうち家の中なら自由にさせてあげるから、しばらくはここで我慢してね。」
我をソファに降ろした母親がそう語りかける。
「にゃー(我は勝手に動くからせいぜい対策することだな。)」
あの程度の対策なら、されたところで抜け道などいくらでもある。
それに大魔王である我の行動を制限することなど何人たりとも許さんわっ!!
まあ今日のところは大人しくしておこうではないか。何度も捕まってまた軟禁されてもかなわんからな。
時間などいくらでもある。続きは母親がいないときにでもやるとしよう。
我はしばらくソファでゆっくりとすることにした。
『うぃ~ん』
ソファでうたた寝していると部屋の隅から何か変な音が聞こえてきた。
(なんだ、この音は。我の眠りを妨げるなどけしからん!!)
我は音のした方を見ると、何かが動いているのを見つけた。
(円盤状の何かが移動してる?)
物が勝手に動くなど普通は考えられん。また何かこの世界の技術なのか?
我は新たな調査のために円盤に近づいた。
『うぃ~ん』
(やはり勝手に動いているように見える…)
近づいてみたところ円盤の大きさは我より少し大きいぐらい。高さは我の足と同じか、少々低いぐらい。
見た目では生き物のように見えない。テレビとかと材質は一緒なのか?
「にゃ~(キサマは何者だ?)」
『うぃ~ん』
(全くの無反応だな。さすがに生き物だとは思っていなかったが。)
となると、これは誰かが動かしているか、自動的に動いていることになる。
母親が出ていったこの部屋には今我しかいない。もし遠隔で動かしているのだとしたらとんでもない技術になる。
しかもテレビと違って線が付いていないということは動力源が違うのか?
(しかしこいつは動いて何をしているのだ?)
誰かが動かしているにしろ自動的に動いているにしろ何かしらの目的はあるはず。
我が円盤の動きを注意深く見ていると、あることに気づいた。
(円盤が通った後の床にはホコリがない?)
猫になって視点が下がったからか、床の状況がよく見えるようになった我は、以前より床の汚れやホコリがよく見えるようになっていた。
円盤が通った後を見ると明らかにホコリがなくなっているのだ。
(これはっ!まさか掃除を自動でやっているのかっ!!)
そういえば家の人間がほうきを持って掃除しているところを見た記憶がない。それなのにこの部屋はずいぶんと綺麗に管理されている。
(まさかこいつが定期的に動いて掃除をしているのか?)
なんということだ。我の部屋は定期的に従者に掃除させていたが、その労力がなくなり他のことをさせることができるのなら人件費削減になるではないか!
我は興味深く円盤の動きを追っていった。
(しばらく見ていてわかったことがある。)
円盤はずっと床の上を動いていた。ということはこいつが掃除するのは床だけということか。
(まあ全てが自動でやれるほど完璧ではないということだな。)
いくら技術が発達しようとも完璧ということはないわけだ。
(それにしてもこいつの耐久度はどのぐらいなのだろうか?)
ふと我はそんなことを思った。テレビと同じような素材でできているのなら、こいつもかなり固くて頑丈に違いない。
『ツンツン』
我は円盤を触ってみた。やはり見た目同様ずいぶんと固い。
(ならば乗ってみたらどうだ?)
我は円盤に上に乗ってみた。すると若干動きは遅くなったような気もしなくはないが、問題なく動いている。
(おぉ、こいつはすごい!!多少の荷重があってもちゃんと動くではないか。)
「にゃ~(ほら、我をしっかり運ぶのだ!)」
自動で動く乗り物など乗る機会はないからな。我はちょっと楽しくなってきた。
「ちょっとケイあなた…」
我が円盤に乗って楽しんでいると母親が戻ってきた。
(マズい!またケージに閉じ込められるっ!!)
我は慌てて降りようとするが、
「待って!!そのまま乗ってて!!」
母親は降りようとする我を慌てて止めた。
(なんだ?止めようとしたのではないのか?)
我は訝しげに母親を見た。すると母親は何か四角くて薄いものを取り出した。
『パシャッ!パシャッ!』
「いいっ!ケイかわいいわっ!こんなことをするなんてウチの子はなんてかわいいのかしらっ!!」
母親は恍惚とした表情を浮かべ、我の周りをぐるぐる回る。
「あぁ、すごい写真が撮れたわっ!いえ、写真だけじゃ足りないわっ!動画、動画も撮らないとっ!!」
『ピロリ~ン』
なにかよくわからんが母親が異常に興奮している。若干恐怖すら感じる…
(子供がいないと本当に残念な母親だ…)
呆れている我の周りをいつまでも恍惚とした表情で回る母親だった。