35.ペット生活1日目の終わり
加筆修正しました(2022/06/11)
「そ、それじゃケイ、私達ももう寝るからね。おやすみなさい。」
みっともなくもしばらくジタバタしてた母親だったが、なんとか気を取り直したようだ。
もはや母親の威厳というものは我の目には全く映らなくなっていた。
(これから小娘達がいないときにもモフモフを警戒せねばならんのか…)
まさか母親まで単なる猫好きだとは思ってもみなかった…
抱えられてケージに連れて行かれながらこれからの生活を考えて我はため息が出た。
親たちは部屋を出る際に入り口近くのボタンのようなものを押した。
すると今までの明るさが嘘のように部屋に闇が訪れた。
(あんなボタン一つで明りを制御しているのか!調べたい、調べたいが我の今の大きさではあんな高さのものは届かん…)
なぜ猫になど転生したのか、我はこの身体を恨めしく思うしかなかった。
部屋には我以外誰もいなくなり、明かりも消されて静寂が訪れている。
我はベッドに横たわり今日という一日を振り返る。
(病院でもわからないことばかりだったが、今日体験したことはそれを軽く上回っている…)
ここに連れてこられたときに乗った自動車という乗り物
あんな子供でも簡単に大量のお湯が使えるシャワー
あっという間に身体を乾かす温風の出るドライヤー
たった一日我が体験しただけでもこれだけあるのだから、人間どもが普段使っている技術はこれだけではないだろう。
(なんという技術レベル…なんという文化レベルだろうか。)
そういえば我がうたた寝している間に料理もしたはずだ。しかし薪や竈のようなものも見当たらない。となるとそれらを利用しなくても火を使って料理しているということだ。
(魔力の流れを感じられないことからも、ここの人間が魔法を使っているとは考えにくい。つまり魔法を使わずとも明かりを灯し、火を使うことができるということか。)
部屋の明かりも炎の明かりとは全く違うことから、別の動力を使っていると考えられる。
しかし我の経験からは炎の明かり以外に知識がない…
(まずはそれを探ることから始めるか。)
明日からはこの家の中を探索するとしよう。さすがに人間どもも今日のように一日中我を構い続けるわけではないだろう。
(それにしてもこのベッドは悪くないな。フカフカ具合といい、丸まって寝ると妙に馴染むというかしっくり来るというか。)
動物の毛とかそういう肌触りに、クッション性もある。中には綿でも入っているのか?
ペットとはいえ動物に与えるものにしては質が良すぎるのではないか?
(となると、人間はもっと良いベッドで寝ているということかもしれん。)
やはり金持ちの一家なのか…
まあ当分の間ここで暮らすのだから金持ちであることに越したことはあるまい。
それにこれから時間をかけて理解していくのだ、答えを急がずともいい。
(それにこの二日間驚かされ続けて疲れた…明日からの探索に備えてもう寝よう。)
昨日からやたら寝てる時間が多いような気もするが、疲れが溜まっていたのだろう。目を瞑るとすぐに意識を手放したのだった。