34.母親の失態
加筆修正しました(2022/06/11)
誰視点かを追記しました(2022/11/23)
ケイ視点
…どうやら我は疲れていたようだ。
昨日転生してから今の状況に対応するのに必死になっていたこともある。
なんせ知らないことばかりで驚きすぎて頭が追いつかない。
その上保護されたとはいえ子供の相手をずっとしているのだ、疲れないはずがない。
そんな状況で腹が満たされたら寝るに決まっている。
「ケイちゃん寝ちゃってるね。」
「初めての場所だから疲れちゃったのよ。そっとしてあげましょう。」
「うん、ケイちゃんお休みなさい。」
そんな姉妹の話し声が聞こえていたが、我はフカフカのベッドの誘惑に負けてうたた寝していた。
「ふたりとも明日は学校なんだからもう寝なさい。」
どのぐらいの時間寝ていたのだろう?母親のそんな声が聞こえて、ふと目が覚めた。
「「はーい」」
姉妹は返事をして部屋を出ていくと、部屋が急に静かになった。
(やっと静かになったか。うたた寝しながらもずっと話し声が聞こえてきてたからな…)
もし寝てなかったらこの時間までずっと構われ続けられたかもしれない…そう考えると自然とため息が出た。
(歓迎されないよりはされる方がいい、しかしこうも構われると我も疲れる…)
ペットという立場上ある程度はしょうがない。それに初日ということもある。
しかし大魔王たる我は畏怖されたり敬われることには慣れていても、可愛がられて構われることには当然慣れてないのだ。
(この生活に慣れるには時間がかかりそうだ…)
我は今後のことを考えるとまたため息が出たのだった。
「あら、ケイ起きたの?」
我がケージから出るとソファーに座ってる母親が声をかけてきた。横には男性が座っている。
(状況から考えるとこの男性はおそらく姉妹の父親だろう。)
うたた寝しながら「パパ」と呼んでたのが聞こえた気もする。
(それにしても気の弱そうな男だな。こんな豪邸を建てられるようには見えん。)
騎士のような力強さもなければ、商人のような強かさも感じられない。これでどうやって稼いでいるというのであろう?
人は見かけによらないということなのか?少し警戒しておいたほうがいいのかもしれん。
「へぇ、本当に綺麗なオッドアイなんだね。これからよろしくね、ケイ。」
父親が我に話しかけてきた。声も力強さがなく、良く言えば優しい、悪く言えば頼りない、という感じだ。これで本当に家主なのか?
まあこれからしばらく厄介になることだしな。挨拶ぐらいはしといてやろう。
「にゃ~、にゃ~(貴様が家主か、我に奉仕することを名誉に思うがよい。)」
「へぇ、あの子達が賢いとは言ってたけど本当かもしれないね。」
「そうなのよね、ちゃんと返事してくれてるみたいに鳴くのよ。」
当然そんな風に思われるだろうな。
「ケイ、おいで~」
母親が我を呼んだ。
(大魔王である我に対してその呼び方は不敬であろうが!)
とは思うものの、今の立場はペットだということも今日一日で散々思い知らされた。
仕方がなく我は大人しく母親の足元へ行った。
「ほらね、こうやって呼ぶとちゃんと来てくれるのよ。本当に賢いわ。人間にも慣れてるから野良猫ではなかったのね。」
我は母親に抱きかかえられた。なんだか母親の目が怪しいぞ?先程までの姉妹に対する母親然とした感じではない。むしろ結が我を構うときのような目をしてるような…
「あぁ、あの子達がいなくなったからやっとモフれる~」
そう言うなり母親は我に頬ずりをしてきた。
(ぐあっ、貴様もか!?)
今まで姉妹を窘めたりとストッパーをしてくれていたから油断した!
「はは、程々にね。」
「だって今まであの子達がずっと相手してたんだもん。私だって猫大好きなんだから。」
(なにが『もん』だ!!貴様娘達の前だからといって猫かぶってたな!!)
力なき今の我はただされるがままになるしかなかった。
しばらくされるがままになっていると、
『ガチャッ』
「ママー、ちょっと言い忘れてたんだけど…」
部屋のドアが開いて舞衣がこちらを見ていた。
「「あっ…」」
母親と舞衣の声が合わさる。
「……」
「……」
しばし無言の時間が部屋を支配する。
「…ごゆっくり~」
舞衣はそう言うと、そっとドアを閉めた。
「………あぁっ!!」
舞衣がいなくなった部屋で、母親は顔を真っ赤にしてソファーの上でゴロゴロしだした。
(これでは母親の尊厳もあったものではないな…)
我は呆れてそれを見ていた。





