30.日常にある危機?
加筆修正しました(2022/06/11)
誰視点かを追記しました(2022/11/22)
結視点
「それじゃ、そろそろ夕飯作るから二人とも手伝って。」
お姉ちゃんとフカフカになったケイちゃんをなでてたら、ママがキッチンから声をかけてきた。
「「は~い。」」
(ケイちゃんと遊んでばっかりじゃダメだよね。ちゃんとお手伝いするって決めたもん。)
私はお手伝いのためにお姉ちゃんとキッチンに向かった。
「今夜のご飯は?」
「今夜は生姜焼きよ。」
「「やった~!」」
ママの生姜焼き大好き!ママの料理ってすごく美味しいからいつも楽しみ。
「それじゃ、結は玉ねぎの皮むきね。」
「え~、今日も玉ねぎなの?違うこともやりたい。」
昨日も皮むきだったから、どうせなら違うことやりたい。それに私だってもっといろいろできるし、いろいろできるようになりたい!!
そう思ってちょっと不満げにしてたら、
「それじゃ、私と玉ねぎ切ろっか?」
お姉ちゃんがそう言ってくれた。
「うん!」
「ママ、いいでしょ?」
お姉ちゃんがママに聞いてくれる。
「舞衣がちゃんと見ててくれるならいいわよ。」
やった!ちょっとだけ違うことできる。
「それじゃ結、あっちで一緒にやりましょう。」
「は~い。」
3人でキッチンで料理するのは狭いから、私とお姉ちゃんは玉ねぎを持って食卓で作業することにした。
(結局玉ねぎの皮はむかなきゃなんだよね…)
私は椅子に座って皮むきしていた。
(この茶色い皮ってもっと簡単にむけないのかな?)
表面のパリパリしてる部分がすぐにちっちゃく切れちゃうから時間がかかるしめんどくさい…
「結、そのまま皮剥いてたら時間かかっちゃう。それ貸して。」
お姉ちゃんはそう言って私の玉ねぎを持ってっちゃう。
(うぅ、私お手伝いできてないかな…)
私は不安になってお姉ちゃんを見る。
「玉ねぎはこうやって上下の部分を先に切った方が剥きやすくなるよ。」
お姉ちゃんが包丁で玉ねぎの頭の部分と根っこの部分を切り落とす。
「はい、これで剥いてみて。」
渡された玉ねぎをむいてみると、
「あ、ホントだ。簡単にむける。」
切った部分から軽く爪を引っかけることができるからすぐにむき終わっちゃった。
「いつもは包丁使わないでお手伝いしてもらってたから時間かかってもしょうがなかったけど、私がいればこうやって簡単な方法も教えてあげられるからね。」
「お姉ちゃん、ありがとう。」
お姉ちゃんがいるとすぐに困ったこと解決してくれちゃう。やっぱりすごいなぁ。
「これで玉ねぎ剥けたね。それじゃ、切り方教えてあげるね。」
「うん!」
「まずは玉ねぎを半分に切るね。それでこの半分を切っていきます。切るときは左手は猫の手ね。」
「猫ちゃんの手?」
「ほら、こうすると猫の手みたいに見えるでしょ?」
「ホントだ、ケイちゃんの手と一緒!」
「そうね。それで包丁を上から真っ直ぐ入れてくんだけど、包丁の先はまな板につけたままで腹の部分だけを上にあげてこう落とす。」
「切れた~。」
「これを繰り返していけば綺麗に切れるよ。」
「すご~い。」
お姉ちゃんが手を動かすと玉ねぎがどんどん切れていく。早くてとっても綺麗。
「慣れれば結だって簡単にできるよ。」
「うん、がんばる!」
私も早くお手伝いできるようにがんばらなきゃ、って思ってたら
「にゃ~」
足元にケイちゃんが来てた。
「あっ、ケイちゃん見て見て。お姉ちゃんが切った玉ねぎすごいの!」
私はケイちゃんに見せようと思って、切った玉ねぎを持ってしゃがんだ。
「結!ダメよっ!!」
「えっ?」
お姉ちゃんが急に私に怒鳴った。
「…お姉ちゃん?」
「立って玉ねぎをテーブルに置きなさい!早く!」
(えっ?なんで?私何か怒られるようなことしたの?)
何が何だかわからないけど、私は言われたとおり玉ねぎをテーブルに置いた。
お姉ちゃんは「ふぅっ」って息を吐くと私に言った。
「結、ちゃんと聞いてね。猫にとって玉ねぎは毒なの。もし間違って食べちゃったら大変なことになるのよ。ケイぐらいの子猫だと最悪死んじゃうかもしれないんだから。」
「えっ…」
私は最初何を言われたのか全然わかんなかった。
(死んじゃう…ケイちゃんが死んじゃう?)
何で?だって私はケイちゃんに玉ねぎ見せただけだよ?それなのに死んじゃうって…
玉ねぎは猫ちゃんにとって毒って…私はケイちゃんに毒を近づけちゃったってこと?
「だから絶対にケイが玉ねぎを口に入れないように気をつけなきゃならないの。結が悪気がないのはわかってるわ。でもね、そんなことが絶対に起こらないように私達が気をつけてあげないとダメなのよ。」
私は自分のしたことがとっても大変なことだって気づいた…
私が何も知らないからケイちゃんを危険な目に合わせたんだ…
「ぐすっ…ごめっ、ごめんなさい…」
私は泣きながら謝ることしかできなかった…そんな私にママが声をかけた。
「結、今日はもうお手伝いはいいから、ケイをキッチンに近づけさせないようにしてあげて。ちゃんと手を洗ってきてからね。」
「…ひっぐ…………ぁい…」
私は泣きながら洗面所に行った。
ケイ視点
なんだ、何が起こったのだ?
結が我に嬉しそうに話しかけてからの急展開に我も驚いていた。
(人間の食べ物には猫が食べられないものがあるのか。それも毒になるとは…)
結がいなくなった後に母親が舞衣に話しかけた。
「舞衣…」
「ごめんママ、もっと言い方あったのに…」
「しょうがないわ。『もし』があったらもっと大変なことになってたんだから。」
「うん。でもあんなにがんばって一生懸命なのに…それに料理の前に『危ないから』って教えてあげることもできたのに…」
「これからゆっくり教えてあげればいいのよ。私達だって猫の飼い主としては素人なんだから、一緒に勉強していきましょう。」
「…うん」
なんというか我は驚愕している。我の知る魔族の常識は『信賞必罰』、悪いことをすれば必ず罰せられるのだ。たとえ知らなかったとしても罪は罪、同族を死の危険に晒したならそれ相応の罰を与えるのが当然なのだ。
(だから結が罰せられるのは当然のこと。それなのにこの二人は罰したことを自分の罪のように、自分の痛みのように感じているように見える…)
それが何故なのか…今の我にはわからなかった。
結視点
『がちゃっ』
綺麗に手を洗ったついでに涙でぐちゃぐちゃの顔も洗って、私はリビングに戻ってきた。
「にゃ~」
「…ケイちゃん」
戻ってきた私にケイちゃんが近づいてくる。私はしゃがみ込むと
「…ごめんね、ケイちゃん…危険な目に合わせてごめんね…」
ただ謝ることしかできなかった…
「結…」
「お姉ちゃん…」
「結、ごめんね。もっと言い方があったと思う。」
「…ううん、私が悪いの。…わだっ…わたしが…もっと…ぢゃんと知ってれば…ぐすっ…ごめ…んなざい…おねぇ…ぢゃん…教えてぐれで……あり、がと……ぐすっ…」
「うん、これから一緒に勉強していこう。ケイを幸せにしてあげるために。」
「ゔんっ!する!おねぇちゃん、いっぱい勉強ずる、から教えて!」
泣きながら謝る私をお姉ちゃんは優しく抱きしめてくれた。
「ケイちゃん、さっきはホントにごめんね…」
私はケイちゃんを抱いてキッチンから離れると、リビングのソファーにいた。
「にゃ~」
ケイちゃんは私に優しく応えてくれる。
(こんなんじゃ私ママ失格だ…)
ケイちゃんが一緒にいて優しくしてくれることが、今の私には嬉しさと申し訳なさで気持ちがぐちゃぐちゃになっちゃう…
「…ごめんね。もう二度と危険な目に合わせないからね…私がんばって勉強するからね…」
私が泣きながらケイちゃんに言うと、
『ペロッ』
ケイちゃんが私の涙を舐めてくれた。
「にゃ~」
(こんなダメな私をケイちゃんはなぐさめてくれてる。)
私はそんなケイちゃんが愛おしくてたまらない!ケイちゃんのためなら絶対良いママになる!
「うぅ…ケイちゃん…ありがとう…絶対に幸せにしてあげるからね…」
私はもう二度とこんなことにならないように絶対がんばるんだって思った。
この物語はフィクションですので、わかりやすくするために猫に玉ねぎを近づけていますが、猫にネギ類は本当に危険です。
生はもちろんのこと、火をかけてもダメです。
スープに入っていた場合はその液体すらも中毒症状を引き起こす可能性があります。
大切な家族を危険な目に合わせないように、ネギ類は管理もしっかりとしてください。