21.我が家に黒猫がやってきた
加筆修正しました(2022/05/04)
我は唖然としていた。
(なんて非常識な技術なんだ…こんな金属の塊が勝手に動いているだと?いや、結の母親が操縦しているのか?動力はなんだ?魔法か?それにしては魔力を感じない…)
しかも馬車など比べ物にならないほどの速度だ。たとえ魔法だとしてもこんな物をこの速度で動かすとなるとどれだけの魔力が必要になることか。
魔法でこんなことが出来る人間など宮廷魔術師でもそうはいまい。
「にゃ、にゃぁ…(なんと恐ろしい…)」
「あれ?猫ちゃんびっくりしちゃったかな?大丈夫だよ、これは自動車って言うの。私達を運んでくれるんだよ。」
我の声を聞いた結が話しかけてきた。自動車か、やはり乗り物なのは間違いない。自動ということは目的地まで勝手に動くということか?
「にゃ~?(これの動力はなんだ?)」
もしかしたらあのゆう子という少女と医者が理解できなかっただけかもしれん。淡い期待を持って我は結に話しかけた。
「心配しなくても大丈夫だよ。ママの運転はとっても安全だからね。」
やはり話が通じてないのか…予想通りとはいえ困ったものだ。
とにかくわかったのはこれが乗り物であり自動車という名前で結の母親が操縦しているらしい、ということだ。
それにしてもこの乗り物は速い。これなら馬車で数日かかる距離でも数時間あれば事足りるだろう。
(まあ我が飛べばもっと早いがな。)
しかし魔族の全てが飛べるわけではない。この技術を手に入れて魔王軍の侵略に利用できれば今までの戦争の概念が変わるのは間違いない。
(これは予想を遥かに上回る収穫になりそうだ。必ず手に入れてみせる!)
我は興奮を抑えきれずにそう思ったのだった。
「とうちゃ~く、ここが猫ちゃんの新しい家だよ。」
自動車が止まり我を抱えて降りた結が言った。そこには大きさはそれほどではないが作りがしっかりとした建物があった。
(見た目が豪華というわけではないが、かなりしっかりとした建物だ。)
建物の見た目から貴族というわけではないようだ。しかしこんな建物に住めるとなるとかなりの権力か金がないとならないだろう。
そうなると商人か?それにしては商店が見当たらんな。住居と店を別にしているということだろうか?もしくは別荘?
「それじゃ、一緒に入ろうね。」
結は我を抱えたまま扉を開けて入った。中には綺麗な木が敷き詰められた通路があった。
素材は木であることは間違いないのだが、ニスか何かを塗り込んで乾燥させてあるのだろう、綺麗な光沢を放っている。
(随分と綺麗な通路だ。使用人を雇って掃除をやらせてるのかもしれんな。)
金持ちなのだからそのぐらいはやらせているのかもしれん。
結は入ると靴を脱いで通路を歩いた。
(なるほど、家では靴を脱いでるのか。だからこんなに綺麗に保ってるわけだ。)
どうやら玄関で靴を脱ぐことで家の中に汚れを持ち込まないようにしているらしい。少々面倒に感じるが清潔に保つためには効果的だ。
この部族は綺麗好きなのかもしれないと我は思った。
(しかし敵襲があった際にはどうするのだ?靴を履いていなければすぐに動くこともできぬであろう。)
ここでの生活様式は我の知っているものとは大きく違いそうだ。
それに玄関で脱いでいた靴も大きく異なるものに見えた。目につく物全てが我の常識からかけ離れているとはどういうことなのだろうか?
(まあいい。これからじっくりと調べていけばいいわけだからな。)
結に連れて行かれる我はこれから調べることをじっくりと考えていたのだった。