20.初めての車
加筆修正しました(2022/05/04)
「ふわ~、かわいい!!」
我が顔を出すとキラキラした目で我を見る結と目が合った。
「これよっ!これが見たかったの!!」
「舞衣、あなたグッジョブね。」
我が顔を出すだけで結達が大騒ぎしていた。なんだ、顔を出しただけでそんなに大騒ぎすることなのか?これが人間がかわいいと思うことなのか?なるほどわからん。
(しかしそうであるなら取り入るチャンスなのではないか?ならば少し媚を売っておくか。)
「にゃ~♪(我を愛でよ)」
「ちょっと!この子あざとすぎっ!絶対自分がかわいいってわかってるやつよ。でもかわいい~」
結が姉と呼んでいたか?確か舞衣と言ったな。どうやら我のかわいさに完全に魅了されているようだ。
(ふっ、我にかかれば小娘一人魅了するなど容易いものよ。)
今までは畏怖の対象として見られていたが、こうやってチヤホヤされるのも悪くないかもしれん。とにかく我は今非常に気分がいい。
「猫ちゃん、ごめんね。でもちゃんと閉めとかないと危ないんだよ。」
結が少し申し訳なさそうに言った。
「にゃー(開けておくのだ)」
「猫ちゃん…」
「にゃー(閉めることは許さん)」
「パパさん、このまま開けて持ってったらダメかな?」
結は困ったように医者に聞いた。
「本当はちゃんと閉めないと。落ちたりしたら大変だからね。まあ随分大人しく入ってるから暴れそうになったら閉めればいいかな。でも気をつけて持たないとダメだよ。」
ふん、我が意味もなく暴れるわけがなかろう。
「よかった、気をつけて持ちます。」
結はこのまま持っていくことにしたようだ。今は目的があるのだ、大人しくしていようではないか。
「パパさん、ありがとうございました。」
「責任を持って育てるんだよ。」
「はい!」
結は我を持って病院を出た。
「猫ちゃん、これからお家に連れて行ってあげるからね。」
結は嬉しそうに我に話しかける。しかし我はそれどころではなかった。
(なんだ、この金属の塊は!車輪のようなものがついてるから馬車か?それにしては馬がいない。)
たとえ馬がいようとこんな重そうなもの引けるわけがない。なにせほぼ金属でできているのだから重さにしてもゆうに数百キロはありそうだ。
それなのにたった4つの車輪で支えていることにも驚かされる。普通の馬車のように木の車輪ならとっくに壊れているだろう。車輪も金属なら車軸も金属ということなのだろうか?
しかしそんなことをすれば余計に重くなって引けなくなるはず。
「結、早く乗りなさい。」
「はーい、ママ。」
(やはり結の母親か。乗れと言ったとなるとやはり馬車なのか?)
結に抱えられ乗り込む。中は比較的広く、人間が4人は乗れるようにソファがついているようだ。
(中の作りも豪華だな。もしかして貴族か商人の一家か?)
袋に入っているのでソファの素材や乗り物の素材を確かめることができないのが悔やまれる。だからといって先程の話から、袋から出たら蓋を閉められ閉じ込められてしまうだろう。
(ここは大人しく見るだけにしておこう。)
我がいろいろ見ていると何やら音が聞こえてきた。軽く振動もしているようだ。
すると馬もいないのに乗り物が動き出した。
(なんだ!どうして動いた?どうやって動いているのだ!)
我は驚愕するしかなかった…