12.長かった1日
加筆修正しました(2022/05/04)
「ゆう子、そろそろ時間も遅いから風呂入って寝なさい。」
楽しそうに我にずっと話しかけていた少女に医者の男がそう言った。
「え~、もうちょっとだけ。」
少女は名残惜しそうな顔で我を見る。我としてもこのままいろんな情報を聞き出せるならちょうどいいのだが。
「この子もまだ体力回復してないんだから休ませてあげなさい。」
この子とは我のことらしい。おのれ、小童扱いとはっ!
「はーい。じゃあね猫ちゃん、また明日ね。」
ゆう子と呼ばれた少女はそう言って医者と一緒に部屋を出ていった。同時に明かりも消え、また薄暗い空間に戻った。
(この明かりもまた我の知らない文明なのだろうか?それとも特殊な魔法でも使っているのか…)
我の知らないことがあまりにも多すぎる。こんなことはいつ以来であろうか…
情報はしっかりと把握せねばなるまい。我は今日のことを頭の中で整理することにした。
我
・大魔王→黒猫(子猫)
・身体能力→非力
・魔力→体内に感じるが魔法がほとんど発動しない
(最悪だな…これでは勇者に復讐どころではないぞ。)
結
・人間(少女)
・身体能力→不明(我を抱え上げるほど)
・魔力→不明
・溺れていたところを助けてくれた恩人
ゆう子
・人間(少女)
・身体能力→不明
・魔力→不明
・有能なシェフ?
ゆう子の父親
・人間(男)
・身体能力→不明
・魔力→不明
・医者
この集落
・言語→不明
・文明→非常に発達
・管理→非常に厳格?
今わかるのはこれだけか。まあまだ1日だ、しょうがあるまい。それにほとんど寝ていたのだ、実際に活動できたのはせいぜい数時間といったところだろう。
明日にはおそらく結とかいう娘に連れて行かれるのだろう。ならばしばらくはそこで情報収集せねばなるまいな。
我が情報を整理していると、
(…トイレに行きたい。)
我だって生きているのだ、生理現象なのだからしょうがあるまい。
(この牢獄にトイレはついているのか?)
我は牢獄内を見渡した。するとトレーに砂が入っているのが目に入った。
(こ、これがトイレだとっ!!大魔王たる我に砂の上で用を足せというのかっ!!)
確かに猫のトイレとしては妥当なのだろう。しかし我は魔王であるぞ!
(こ、こんな…こんな屈辱があっていいのだろうか!?)
食事は皿から直接食べなければならない、トイレは砂の上…猫として生活するためにはどれほどの屈辱を受けなければないないのか…
先程『プライドなど役に立たない』と考えていたが、捨てられるものと捨てられないものがあるわっ!!
(くっ、しかし耐えねばならぬ。これからしばらくは猫として生活せねばならんのだから…)
我は絶望ともいえるほどの悲しみを堪え用を足した…
(泣きたい…今我は大魔王としての何かを捨てた気がする…)
威厳とか威厳とか威厳とか。
(寝よう、もう今日は何もしたくない…)
我は悲しい気持ちで1日を終えたのだった。