11.黒猫であること
加筆修正しました(2022/05/04)
(我は満足だ…)
最初見たときはどうしてくれようか?と思ったのだが、あまりの美味さに我を忘れて飲んでしまった。
(見た目で判断してはならない、という典型だない。)
ギャップというのもいいものなのかもしれん。我は機嫌よくそんなことを考えていた。
(それにしても魚がこんなにも美味いとは。今までは断然肉派だったというのに…これは考えを改めなければならんようだ。)
我が食事に満足していると人間(?)どもが我を見ながら話をしているようだ。
「明日になったら結ちゃん家に行っちゃうのかぁ。でも結ちゃんが飼えなかったらどうするの?」
「そうなったら飼い主探しかな?」
「えー、だったらウチで飼おうよ。私ちゃんと面倒見るよ?」
「まあ結ちゃんのとこの結果次第だね。」
「う~」
(飼う?飼うと言ったのか、この我を!大魔王として恐れられたこの我を!?)
「にゃー!にゃー!(飼うなどとふざけるな!我は大魔王ぞっ!)」
「あ、猫ちゃんご飯食べ終わったの?美味しかった?」
「にゃ~ん♪(うむ、美味であった。)」
「よかった〜。パパ、喜んでくれてるみたいだよ。」
相変わらず話が噛み合ってるのか微妙である。食事が美味かったことだけは伝わったようだ。
「あのね、猫ちゃんは川で溺れてて、それを結ちゃんが助けてくれたんだよ。それでね…」
少女は我が眠っていた間のことを話してくれている。
やはり助けてくれたのは別の少女か。助けてくれた少女は結という名前らしい。
(我を助けたのだ。小奴らにはそれなりの褒賞を用意せねばならんな。)
こんな姿であっても大魔王である。上に立つものとして賞罰はしっかりせねばなるまい。
「にゃ〜(よくぞ我を助けた、褒美を遣わそうぞ。そなたらは何を望む?)」
「あれ?もしかして話に応えてくれてるのかな?」
「そうかもしれないね。」
「すごい、この子かわいいね。それに話してる間ずっとこっちを見てくれてるよ。まるで言ってることがわかってるみたいだね。」
(当然であろう、わかっているのだから。)
うむ、どうやらこちらの意図が伝わっていないのは確定的だな。非常に面倒ではあるが、まあ全く翻訳が効かないよりはマシということか。
話をまとめると、どうやら我は結という少女に助けられてここに運ばれたということらしい。やはり予想通りここは病院であったか。
「それでね、結ちゃんが猫ちゃんのこと飼いたいって言ってるんだよ。」
そういうことか、我は野良猫か捨て猫だと思われてるらしい。この地方(?)では猫の管理がしっかしりしているようだ。
(それにしても首輪はわかるとしてもICチップというのはなんだ?)
首輪とはアレだろう、人間が奴隷と称して区別するためのものであろう。
そんなものをペットに付けるというのも、また人間の浅ましさということであろう。
しかし我の知識でもペットを飼うのは一般的だが、こんなに徹底管理をしている社会など見たことがない。
(これ程の文化レベルの集落が世の中に存在したであろうか?少なくとも我は知らん。もしかしたらここは我の全く知らない世界なのではないだろうか?)
初めて聞く言語、この部屋を見ても非常に優れた文明、そして管理された世界。
ここでは我の常識が全く役に立たないのかもしれない。事実、今のところ全く役に立っていない。
(飼われるというのは…非常に屈辱的で不本意だが、ここのことを知るまでは大人しく猫のふりをしていたほうがいいのかもしれん…)
非常に、非常に遺憾なことだが、我の頭にそんな考えが浮かんだ。
大魔王としての威厳やプライドを考えればペットなど以ての外である!
しかしもしここが想像通り全く知らない別の世界ならば、そんなプライドなど何の役に立つのであろうか?
我の最優先はなんだ?それは魔族の繁栄である。
そのためにすることはなんだ?魔国に戻って人間どもに荒らされた国を再生することだ。
そのためなら一時の恥やプライドを捨てることなど躊躇ってはならないはずだ。
(…だからといって簡単に捨てられれば苦労などしない。)
我は悶々としながら少女の話を聞いていたのだった。