100.大魔王様の予感
「大魔王→黒猫」
12/18に2周年を迎えました。
そして本編100話に到達しました。
ここまで約2年、長かったような短かったような…
お付き合いいただきありがとうございます。
これからもがんばって執筆していきますので、よろしくお願いします。
ケイ視点
最近なにかムズムズする。
別に鼻が痒いわけではない。なんというか心が落ち着かないというか、何か嫌な予感がするというか…
今の生活に何か不満や不安を感じているわけでもなく…
(いや、猫であるだけで不満ではあるのだが。)
とにかく落ち着かないのである。
(前世で同じようなことを感じたことがあるような気もしなくはないのだが…)
そんな感覚があるだけで、何だったのか全く思い出せん。
そんな落ち着かない日を過ごし、我の調査はおざなりになっていた。
そして久々のフィアナとの報告会。
「貴様、もうそこまでになっていたか。」
我はフィアナの報告に驚いていた。
「魔王様がこちらにいらしてくださったのですから当然です。もう今までの無気力な私だと思わないでください。」
少々天狗になっているのが鼻につくが、実際優秀なのだから文句は言えん。
「この世界の学習要項は小中が義務教育として9年間。高校も今の時代はほぼ義務教育と捉えられ3年間。その後希望者は専門的な知識を学ぶ大学、または実務的な知識や技能を学ぶ専門学校等となります。今の私は中学までの義務教育知識でしたら、ほぼ全てお答えできると思います。」
つまりフィアナは我と再会してたったの数ヶ月で、この世界で学ぶ9年分の知識を身に着けたということなのか。
「貴様、本当に優秀だな。」
『部下が優秀だと上司は楽だ』と思われるかもしれんが、優秀過ぎて自分の不甲斐なさを感じることもあるのだ…
「最近はこちらの世界の両親に『陽菜は天才だったんだっ!!』と、感激されています。まあ少々チートであるのが申し訳ないのですけど。」
「100年近くの知識を上乗せしているのに、少々のわけなかろうが。」
我は呆れ気味に返す。するとフィアナの顔から表情が消える。
「…魔王様?女性に年齢の話をされるのは失礼なのではないですか?」
…しまった、失言だった。
フィアナは昔からこの手の話には敏感だったのだ。
なにせ自らの魔力を削ってでも我と出会った頃の見た目を死ぬまで維持していたのだから。
その魔力の半分でも使えば、もっと長生きしただろうに…
『魔王様に年老いた姿を見せるのは看取ってもらうときだけです。』
そう言って、実際それを貫いたのだから。
「我の失言だった。謝罪する。」
我は素直にフィアナに謝罪する。
「もう、今の私はまだ10歳なのですからね。」
謝罪で機嫌が直ったのか、フィアナの顔に表情が戻る。
(危なかった…)
最近女の恐怖を身をもって体験している我としてはなんとか回避できてホッとする。
「それより、魔王様に報告がございます。」
「なにかあったか?」
いつになく真面目なフィアナに我の気が引き締まる。
「実は最近杏奈ちゃんが仔猫を拾ったのですが…」
冒頭を聞いて唖然となる我。
「真面目な話かと思って気を引き締めたのにそんなことかっ!!」
「いえ、最後まで聞いてください。その仔猫がどうもおかしいのです。」
「おかしい?猫がおかしいなんてことがあるわけないであろう。」
フィアナは何を言っているのだ?
「魔王様は鏡を見てから発言してくださいね。」
その言葉にぐうの音も出ない…
「その、おかしいといいますか、怪しいといいますか。魔王様にはお話していませんでしたが、私は今でも魔力の流れを感じることができます。ですので、魔王様が魔法を使われていることはその流れでわかるのです。」
なるほど、つまりフィアナは他者の魔力の流れすら感じることができるということか。
我は体内の流れしかわからんから、やはり魔力の扱いはフィアナのほうが上ということなのか。
「それで、実はこの世界の人間…だけではなく、生き物も魔力の流れはあるのです。その大小は個々によって違いますが、魔力の流れがない生き物など今まで見たことがないのです。」
「ほう、それではこの世界の人間は魔法の扱い方を知らないだけで、実は魔法を使えるのか?」
「ほとんどの人間は魔力がごく少量なので難しいと思います。それにこちらの人間は魔力を感じる術を知りませんし。魔王様も感じているかとは思いますが、大気中に魔力を感じられません。ですから私でも使える魔術は非常に限られたものになります。」
なるほど、やはり我の立てた魔法が使えない想定はあっていたようだ。
「それで、その仔猫なのですが、魔力の流れが感じられないのです。」
なんだと?
「それはどういう意味だ?」
「可能性としては…」
そう言って考える仕草をする。そういえばこちらの世界に来て初めて見るな、懐かしい。
「一つ、何らかの能力で魔力の流れを隠している。」
「一つ、私が魔力を持たない初めての生き物に出会った。」
「…まあそれ以外考えられんだろうな。」
そのぐらい我にだって簡単に思いつく。
「しょうがないじゃないですか、情報が足りなすぎてわかりません。」
「もし前者だった場合は、我らと同様に転生の可能性があるな。」
「そうですね、注意しておきます。」
「頼んだ。」
なるほど、我ら以外の転生者の可能性か。果たして味方であるのか、敵であるのか、それとも思い過ごしであるのか…
「魔王様の方は何かございませんか?」
フィアナは我に問いかける。
「そうだな…あるような、ないような…」
原因もわからぬ『あれ』を話していいものか判断がつかん…
「魔王様にしてはずいぶんと歯切れが悪いことをおっしゃいますね。どんな些細なことでも共有しておいて損はないと思いますよ。」
まあそうだな。
「実は最近ムズムズするのだ。」
「花粉症ではないですか?」
「違うわっ!それに花粉症は人間のアレルギーであろうが。」
最近テレビでも花粉症のニュースをやっているので我にもわかる。
「猫にも花粉症はありますよ。」
「そうなのか?ってそうではない!心が落ち着かない、というか何か嫌な予感がするというか。特に何があるわけではないのだが、そんな感じなのだ。」
我は最近の症状をフィアナに説明した。
「しかもそれがどこかで感じたことがあるような気がするのだ。」
「どこかで…私たちの世界ですか?」
「可能性があるならそうであろうな。だがはっきりしないのだ。もしかしたら転生したときに記憶の欠落があるのかもしれん。」
「なるほど…」
フィアナは少し考え込んでいるようだ。
「承知しました。それでは私は仔猫のとこをそれとなく監視しておきます。魔王様も思い出しましたら教えてください。」
「わかった。」
こうして今回も無事に報告会を終えたのだった。





